物語

アロハシャツの起源が、ハワイに渡った日系移民の着物にあることを知っていますか? 震災を機に東京から宮城に戻って古物商のお店を始めた櫻井鉄矢さんは、日本の伝統文化が詰まった着物が大量廃棄される現状に心を痛め、アロハシャツに仕立て直して販売することを思いつきました。製作するのは震災を経験した宮城県の主婦と、福島県南相馬市の縫製職人。復興に向かう東北の姿と侍の不屈の精神を重ね合わせた『サムライアロハ』は、日本のみならず海外からも注目を集めています。

子育て中の女性が働きやすい環境を

櫻井さんは宮城県南東部にある岩沼市出身です。大学進学を機に上京し、そのまま大手古物商兼質屋である株式会社大黒屋に就職。フランチャイズ事業課で課長として働いていました。「地元に戻るつもりはまったくなかった」といいます。

心境を変えたのが、東日本大震災でした。岩沼市は市域の48%が浸水し、沿岸部は壊滅状態に。櫻井さんの母親が経営していたデイサービスも全壊と判定されました。

櫻井さん:みんなが苦しんでいる中で、東京でぬくぬく暮らしている自分が情けなくて。このままではいられない、地元に戻ってデイサービスの再建を手伝いたいと思いました。ただ、収入源がないまま帰ることはできません。二の足を踏んでいたときに、大黒屋が仙台から撤退するという情報が入ってきました。当時は原発事故への不安も大きく、東北エリアで事業を続けていくのはリスクだと判断されてしまったんですね。「それなら自分が独立して引き継ぎます」と交渉し、独立して大黒屋のフランチャイズ店を経営することにしました。

さまざまな古物を扱う中で、疑問を抱いたのが着物の扱いでした。大量に持ち込まれる着物の中には値がつかず、廃棄されてしまうものも。調べると、日本ではなんと2億着もの着物が各家庭のタンスの中などに眠っていることがわかりました。日本が誇る伝統文化の詰まった着物を、もっと有効活用できないかーー。そう考えていたときに目に留まったのが日経新聞の記事でした。

櫻井さん:記事には、19世紀末から20世紀初頭にかけてハワイに移民として渡った日本人が、持ってきた着物を再利用するため開襟シャツに仕立て直したことがアロハシャツの始まりだと書かれていました。その原点に立ち戻り、着物でアロハシャツをつくろうと考えたんです。

しかし、実際に取り掛かると、いくつもの壁にぶつかったといいます。

櫻井さん:まず、アロハシャツにできる着物は、品質の面からもデザインの面からも限られます。また、着物をほどいて反物にする作業を呉服店に頼むと、料金は一万円、期間は一週間ほどかかってしまう。さらに、縫製業界の慣習から着物にハサミを入れることを嫌がる職人が多く、裁断から引き受けてくれる縫製工場は見つかりませんでした。

そこで、着物をほぐして洗い、裁断する工程を、小さな子どもを持つ同級生や、同級生の奥さんたちにお願いすることにしました。津波で保育所が流され、外に働きに行けないという話を聞いていたんです。女性が働きやすい環境をつくらないと地域がダメになるし、少しでも助けになれば、と思いました。出勤してもいいし、家で作業してもいいという、自由な契約にしています。

東京のデザイナーにディレクションを依頼していた時期もありましたが、現在はお母さんたちが仕入れる着物を選び、デザインも考えています。

日本らしい華やかさのある柄に現代的でポップな柄など、サムライアロハは和柄の多彩さ、美しさに改めて気づかせてくれます。1着20,900円〜29,700円。

裁断した生地をアロハシャツに仕立て直す工程は、東北大学ビジネススクールで出会った同期生が経営する福島県南相馬市の縫製工場に依頼。メイド・イン・東北のアロハシャツが完成しました。

一番人気は黒留袖のアロハシャツ。柄がうまく重なり合うように裁断、縫製するのは高い技術を必要とします。

ボタンは竹ボタンを使用。竹ボタンは、1950年代に和柄のアロハシャツに多用された歴史があります。

伝統に新しい魅力を加えて、世界へ

2016年に大黒屋仙台店の一事業として始めたサムライアロハ。アイリスオーヤマの大山健太郎会長などから出資を受け、2018年に分社化しました。NHK『美の壺』や『サンドイッチマンの天使のつくり笑い』など数々のメディアに取り上げられ、徐々に注目を集めるように。伊勢丹、小田急百貨店、西武・そごうといった大手百貨店や、フランス、台湾のセレクトショップからも声がかかり、期間限定で販売しました。

新宿伊勢丹メンズ館で開催されたポップアップショップ。

人気ブランド『HARE』とのコラボレーションも実現。

櫻井さん:ただ、今年はコロナ禍で本当に参りました。2018年、2019年とどんどん売り上げが伸びて、いよいよ2020年はオリンピックイヤーということで期待していたんです。実際、外国人観光客向けに売り出したいと、数多くの百貨店からお声がけしていただいていました。それが緊急事態宣言によって、600着の受注がキャンセルになってしまって。仕方のないことですけど、頭を抱えましたね。

店頭販売が難しい状況のなか、いま力を入れているのはオンラインショップでの販売です。海外向けのYouTuberが紹介してくれたことをきっかけに、アメリカやオーストラリア、ドイツ、イギリス、フィンランドからも注文が入るようになりました。冬はどうしても売り上げが落ちるため、海外からの注文はありがたいそう。

ただ、高い関税がかかってしまうこと、コロナ禍の影響により船便しか使えず、到着まで2〜3か月かかってしまう国があることが悩みの種だといいます。

余り生地を活用した着物ネクタイ。コーディネートが一気に華やぎます。13,200円。

同じく余り生地を活用した着物ポーチ。Sサイズ2,530円、Lサイズ3,190円。

櫻井さん:海外展開のノウハウが業界に蓄積されていなかったので、自分たちで傷つきながら身につけているところです。今後、地域の企業が海外進出をする際はアドバイスできたら、と思っています。

「課題は山ほどある」と話しながらも、櫻井さんは「全国、全世界にサムライアロハを届けたい」と続けます。

櫻井さん:私たちの暮らしは、海外のもので溢れています。普段身につけるのは洋服や洋靴。海外のアンティーク品はありがたがるけど、日本の古いものには見向きもしない。この状況にはやっぱり疑問があります。

販売する側の姿勢も変わる必要があります。日本のものづくりは、端的に言うと品質で買って流通で負けている状態です。「どうすればもっといいものができるか」と真摯に向き合う職人気質は世界に誇れるものですが、「どうすれば買ってもらえるか」を考えることは苦手で、邪道のようにすら思われている。サムライアロハも、伝統を大事にする人たちからは苦々しく見られていると思います。

でも、かつては2兆円産業と言われた着物産業はどんどん市場規模が縮小していて、いまでは2300億円ほどに。一方、家に眠る着物は数十兆円分、流通している在庫で数兆円分あると言われています。産業としては非常に厳しいし、伝統を守るばかりでは着物を着る人がいなくなってしまう。それよりは、型破りでも着物を活用したほうがいい。僕たちは僕たちのやり方で着物の魅力を広く届け、少しずつでも価値観を変えていけたらと思っています。

■サムライアロハ
ウェブサイト:https://www.samurai-aloha.com/
Facebook:https://www.facebook.com/samurai.aloha/

<購入方法>
オンラインショップ(https://samuraialoha.thebase.in/)から購入可能です。2020年12月25日までセールを開催中。オンラインショップにクーポンコード「2020winter」を入れると全商品が30%オフになります。なお、12月28日より六本木ヒルズにてポップアップショップを開催する予定。

※取材はオンラインで行い、写真はサムライアロハウェブサイトやSNSからお借りしました。

2020.12.1