物語

譬喩歌(ひゆか)とは、万葉集で使われた歌の表現技法で、心情を直接表現せず何かにたとえて詠んだ歌のこと。商品に込めた想いと背景を、ステイブルー株式会社で『hiyuca』事業を担当する菊田信也さんに聞きました。

東北の工房や職人と共に、新しいものを生み出していく

ステイブルー株式会社は、宮城県石巻市で衣料品のセレクトショップを運営する会社です。東日本大震災により本社や本店、倉庫が全壊。大きな被害を受けながらもすぐに事業を再開し、2013年には初の自社ブランド『hiyuca』を立ち上げました。東北各地の工房や職人と力を合わせ、新しいものを生み出していくブランドです。

菊田さん:震災によって、石巻やその周辺に、ものづくりに関する技術やセンスを持った人がたくさんいることが浮き彫りになったんです。それぞれのできることを持ち寄ってひとつのものをつくろうと、『hiyuca』が誕生しました。

ブランドロゴマークは、祈りの象徴である折り鶴。

最初に形になったのは、気仙沼の帆布職人、女川の革職人と内職支援団体、石巻のプリント職人の技術を重ね合わせたトートバッグです。企画・デザイン・販売をhiyucaが担当。品質の高さやコンセプトの魅力により大きな注目を集めました。

2013年に発売したhiyucaの第一弾バッグ(※現在は生産を終了しています)。

その後もさまざまな団体とのコラボレーションが続きました。たとえばそのひとつが、水産業が抱えるさまざまな課題の解決に取り組む東北の若手漁師集団『フィッシャーマン・ジャパン』を応援するグッズの開発です。製作は宮城県内の工場に委託。利益の一部は三陸の漁業を発展させるための活動に使われます。

3色のワックスコードを編み込み、アンカーの留め具をつけたブレスレット。チャームはリバーシブルになっていて、片面にはhiyucaのロゴマークである折り鶴が、片面にはフィッシャーマン・ジャパンのロゴマークであるアンカーが刻まれています。

コンチョ(金属の飾りボタン)を使用した洗練された雰囲気のヘアゴム。アンカー、折り鶴、スマイルの3パターンがあり、スカーフリングとしても使えます。

身体障害者や知的障害者が働く石巻の共生型福祉施設『織音』(旧『こころ・さをり』)とは、カラフルなさをり織りのポーチやコインケース、ティッシュケースをつくりました。

さをり織りはつくり手が自由に感性を表現する織りの手法で、その名称は「差を織る」に由来しています。既成概念に囚われない障害者のユニークな発想や視点を活かすことができるものづくりですが、すべてが一点ものであるため管理が難しいという側面もありました。オンラインショップで販売しようとすると、一点一点撮影して在庫を管理しなければならなくなり、膨大な手間がかかってしまうのです。

そこでhiyucaでは、赤系・青系・黄色系・緑系・ピンク系と大まかな色で注文を受け、どんな表情の商品が届くかはお楽しみ、という販売方法を採用。さをり織りの自由さや魅力を損なわずに、たくさんの人に届けることができるようになりました。

また、石巻で製造されるウエットスーツ素材を使ったものづくりも行っています。石巻には国内トップシェアを誇るウエットスーツメーカーがあり、関連工場やそこから独立した職人も点在しています。こうした石巻の特色を活かそうと、hiyucaではウエットスーツならではの弾力性や耐水性に着目したブレスレットやドリンクホルダー、ポーチなどの小物類を開発しました。

伝統文様の簡易防水ポーチ。デジタルカメラなどの電子機器や化粧道具を入れるのにぴったりです。

菊田さん:僕は元々このメーカーで働いていて、ウエットスーツ製造時に出る端材を使い、さまざまなアイテムをつくるプロジェクトを担当していました。数年前に縁あってステイブルーに転職したのですが、いまはセレクトショップという“ものを売る立場”から、また新しく“ウエットスーツのまち・石巻”の魅力を発信していきたいと考えています。

今年3月には、メーカー在籍時に開発した商品をグレードアップした小物類をhiyucaからリリースしました。

とろんとした眠たげな表情が魅力のコインケース『Mr.エココバーン』。廃棄される予定だった黒のウエットスーツ端材を背面に使用した、エコフレンドリーな商品です。

端材を65%使用した『Mr.エコリップス』。リップクリームや印鑑がお腹の部分にすっぽりと入ります。中の紐に鍵を取り付けてキーケースにするのもおすすめ。外からはキーケースに見えないので安全です。

ハート型ポーチ『HEART-SAMA』。高さ・幅共に13cmで、『Mr.エココバーン』より少し大きめ。一度触れると手放したくなくなるぷにぷにとした感触も魅力です。

同じく今年3月に発売となったのは、震災後に立ち上がった縫製工房『南三陸ミシン工房』とコラボした南三陸サコッシュです。ファンが多く、常に新商品が求められている同工房。トートバッグやポーチはすでにありましたがサコッシュがなかったため、工房オリジナルのウニ柄、海柄の生地を使ってデザインしました。

ショルダーストラップは長さの調節や取り外しが可能。さまざまな使い方ができます。

外側にはhiyuca、内側には南三陸ミシン工房のタグがついています。

キャプション:外側にはhiyuca、内側には南三陸ミシン工房のタグがついています。

震災から9年が経ったいまでも、新しい商品を開発して発信しつづけているhiyuca。その背景には、被災地として有名になってしまった石巻や東北を、魅力ある商品が次々生まれるものづくりの地としてリブランディングしたいという想いもあるそうです。

菊田さん:過去にコラボレーションさせていただいた工房や団体の中には活動を終了されたところもありますが、それは決して悪いことではありません。本業が軌道に乗った、元の生活に戻れたということですから。

そうした中でも、活動を続けている団体、魅力的なものづくりをしている団体はまだまだあるので、一緒に何かできそうだったら仕掛けていきたいですね。これからの時代のセレクトショップは、良いものを見つけて仕入れるだけでなく、自分たちにしか販売できないものを生み出していくことが重要だと思うんです。

特に関心があるのは、Mr.エココバーンやMr.エコリップスのように、捨てられてしまうはずだった端材を使ったサステナブルなものづくりだといいます。単体では商品化が難しくても、別の素材と組み合わせればこれまでにない魅力が生まれるかもしれません。

菊田さん:hiyucaで培ったつながりやものづくりの知見を活かして、今後も面白いものを生み出していきたいです。自分たちが良いと感じるもの、大事にしたい価値観を形にして、世の中に届けていく。その繰り返しですね。

●hiyuca
ウェブサイト:http://hiyuca.com/
フェイスブック:https://www.facebook.com/hiyuca/

<購入方法>
オンラインショップから注文できます。
https://shopping.geocities.jp/stayblue/

2020.3.4