物語

「ゆいとりっていうのはね、地域のみんなで助け合って共同作業すること。たとえば、ひとりで田植えするのは大変だから、『今日はあっちの田んぼ、明日はこっちの田んぼ』ってみんなで協力しあうの」。そう話すのは、震災後に始まった手仕事サークル『ゆいとり工房』をまとめる大棒レオ子さん。お母さんたちは工房名の通り、お互いに助け合いながら手仕事を続けています。
「元気で頑張ってますよ」と伝えたい
宮古市田老地区の高台にある三王団地。震災後、集団移転のために山を切り開いて造成した土地です。その一角に建つ、『ゆいとり工房』と看板のかかった一軒家が大棒さんのご自宅兼作業場です。通りに面した部屋の中から、明るい笑い声とミシンの音が聞こえてきました。
『ゆいとり工房』のメンバーは、大棒レオ子さん、津田ともこさん、木村麗子さん、鳥居豊子さん、久保信子さんの5人。また、ここには来ず、自宅で作業しているメンバーも3人います。
大棒さん:全国のいろんな人が「イベントで販売するから」と注文してくれるから、その商品をつくっているんですよ。本当は自分たちが身につけるものもつくりたいんだけど、その暇もないくらい。ありがたいことですね。

取材した日に製作していたエコバッグ。1200円前後。
以前は海沿いに住んでいた『ゆいとり工房』のみなさん。東日本大震災の津波により家を流され、リゾートホテル『グリーンピア三陸みやこ』の避難所に入りました。
大棒さん:避難所の1日は長いから、みんな集会所に集まって、編み物好きな人は編み物をして、縫い物したい人は縫い物をしていてね。それは仮設住宅に移ってからも続きました。震災前はみんな大きな家に住んでそれぞれ個室があったけど、仮設は四畳半がふたつ。お父さんも仕事がない中で、狭い家でずーっと顔合わせているのも息苦しいでしょう。集会所ならいろんな楽しみがあるから毎日のように行くようになって、そこでできたのがいまの仲間。腐れ縁みたいなものですね(笑)。

大棒さんのご主人は仕事を辞めて漁師になってから1年で船を流されました。船名が書かれた一部分だけが家の畑に流れ着き、「もう一度やれってことかな」と、お金を貯めて漁を再開したそうです。
大棒さんの「腐れ縁」という言葉に、手を止めて「本当にそう」と笑い合うお母さんたち。震災前からお互いに顔は知っていたけれど、親しくはなかったそう。それがいまでは、毎週顔を合わせる仲になりました。大棒さんがもともと着物を縫う仕事をしていたため、リーダーとして工房をまとめています。
大棒さん:タイマグラ(岩手県北上高地・早池峰山麓の集落)に住んで手仕事や物書きをしている安倍智穂さんという方が、雑誌『主婦の友』で避難所の様子を書いてくれて、そのおかげで物資がたくさん届いたんですよ。衣類が多かったから、それを材料にしてみんなで手仕事してたの。安倍さんはいつも『次何つくりたい?』と聞いてくれて、『帽子かな』と答えると、次までに自分でも試作して、つくり方を教えてくれました。

ミシンは、震災の20年前に田老で英語教師をしていたミンディさんが、アメリカから寄付してくれたもの。
大棒さん:そうやってつくっていたものを、京都から支援に来てくれていた『風の布・パピヨン』の斎藤さんが「これ売ったらいいんじゃないか」って言ってくれたのね。斎藤さんだけじゃなくいろんな人がイベントで販売してくれるようになって、それがはじまり。
仮設住宅の集会所は営利目的での使用が禁止されていたため、仮設住宅に併設された仮設共同店舗『たろちゃんハウス』の一室を借り、工房兼店舗としてオープンしました。2013 年にはNHK『あさイチ』の取材が入り、全国から注文が殺到したそう。2016年に仮設住宅を出たタイミングで工房を大棒さんの自宅に移しましたが、その頃生まれた縁がいまでも続いているといいます。
当時の看板商品は、可愛らしいぞうり型の小銭入れ『ゆいっこぞうり』(1200円)。用事があって岩泉に行ったときに、知り合いから渡された支援物資の中に似たような作品があり、大棒さんは「これは可愛い!」と、用事を忘れて帰ってくるほど感動したそう。自分たちなりのオリジナル要素を加えてつくるようになりました。『ゆいとり工房』ではこのほかにも、衣服やバッグなど、さまざまなものを製作しています。

半纏ともんぺ型のコースター。700円。

美しい刺繍帯を使った小物入れ。iPad miniケースとしても。800円。

ふっくら丸みのあるポーチ。500円。

ブックカバー。800円。

手の込んだ縮布(特殊な芯を貼って縫い、アイロンで縮ませることで模様を描く手法)のバッグ。

個性的な民家型のミニバッグ。

イベントで人気の羽織。
ときには、「亡くなった母の着物で兄妹3人分のポーチをつくってほしい」といった相談が寄せられることも。『ゆいとり工房』では、そうした注文も喜んで引き受けています。
「これまで続けてきて嬉しかったことは?」と聞くと、大棒さんは次のように話してくれました。
大棒さん:田老でまちづくりのイベントがあったときに、役所が私たちのティッシュカバーを買い上げて、お客さんにお土産として渡してくれたんです。宅急便の人も、『たろちゃんハウス』の住所に何か届いたときに『こっちだよね』とちゃんと届けてくれて。私たちがここで手仕事をしていることを、みんなわかってくれているんですね。
いまでも京都や大阪、横浜のイベントで販売してもらっているし、アメリカからも注文が来ます。『たろちゃんハウス』にいたときに訪ねてくれた方が、数年ぶりにひょっこり手紙やお電話をくれることも。みなさんのおかげでここまでやってこれました。
本当は一人ひとりにお礼をしたいけどそれもできないから、『元気で頑張ってますよ』と伝えられると嬉しいです。
● ゆいとり工房
HP:なし
<購入方法>
商品は道の駅たろうのほか、支援者が各種イベントで販売しています。
京都や大阪では、風の布・パピヨンが毎年『東北の手しごと展』でゆいとり工房の作品を展示販売しています。https://www.facebook.com/papillon.kaze/
また、大棒さんに直接注文することも可能です。090 -7323-0557(個人の携帯番号なので、節度を守ってご連絡ください)
2019.11.19