物語

『LOVE FOR NIPPON』は、キャンドルアーティストのCANDLE JUNEさんが仲間と共に立ち上げた復興支援プロジェクトです。炊き出しや物資提供、心のケアや震災の風化防止など、多彩な活動を行ってきました。そこから発展した活動のひとつが、山元町のお母さんたちによるものづくりチーム『山元TIME』。現在はLOVE FOR NIPPONから独立し、自分たちでプロジェクトを運営しています。代表の山下欣子さんにこれまでの軌跡を伺いました。

おばあちゃんたちが手芸で元気になった

山元TIMEの拠点、オレンジハウス

太平洋沿岸にある山元町は、東日本大震災により町の4割が津波に飲み込まれ大きな被害を受けたにもかかわらず、あまり支援が来なかった地域です。家が半壊して社会福祉協議会に瓦礫撤去を依頼しに行った山下さんは、「人手が足りないから手伝ってほしい」と請われ、仮設住宅の生活支援員として働きはじめました。

物資運搬や健康調査のため一軒一軒を訪問して回る中で、多くの人が訴えたのが、やることがない辛さ、夜眠れない苦しさでした。そこで、震災前にパッチワーク教室を開いていた山下さんは仮設住宅で手芸の会を企画。手を動かすことが好きな人が多く、おばあちゃんを中心に64人が集まったといいます。

山元町はいちごの名産地で、被災したおばあちゃんたちの多くがいちごの生産に携わっていました。いちご農家の9割が被災しいつ栽培を再開できるかわからなかったこと、みんながいちごに愛着を持っていたことから、いちごの形をしたたわしを編むことに。

山下さん:いちごたわしを編みはじめたのは2011年の8月頃です。最初は自分たちの楽しみとしてつくっていましたが、購入してくれる人が出てきたため、編み方を統一し、パッケージも作成しました。全員が編めるようになるまで10か月位かかったかな。

でも、「いつまでに何個作ってね」とおばあちゃんたちにお願いすると、ちゃんと編んでくれるんです。「夜電気を消すのが怖いから、眠くなるまで編んでいるんだ」って、お願いした以上の数を仕上げてくれることも多々ありました。ご家族に喜ばれましたね。「1日中テレビの前に座ってぼうっとしていたおばあちゃんが元気になった」って。手芸にこんなに力があることを、初めて実感しました。

LOVE FOR NIPPONのものづくりチームとして

支援員として仮設住宅を回る傍ら、材料の仕入れや完成品の回収、販売のやりとりなどを一人で担っていた山下さん。売上も全額おばあちゃんに渡し、パッケージ代や送料は自分で負担していました。数ヶ月のうちに疲労が蓄積し、体調を崩して声が出なくなってしまったといいます。そんな山下さんの奮闘を見て、「いまのやり方では続けられない、僕らと一緒にやりましょう」と提案したのがCANDLE JUNEさんでした。

JUNEさんは震災前から原発に反対する活動を行なっていて、震災の3日後には「みんなが放射能を恐れて行かない場所にこそ支援を」と福島に入っていました。すぐに「石巻や気仙沼に注目が集まり、福島の県境にある山元町には支援も報道も届いていない」と感じたJUNEさんは、福島と共に宮城県南部を定期的に訪問するように。その中で、仮設の生活支援員として働いていた山下さんと知り合ったのです。

2012年の春、LOVE FOR NIPPONの尽力により体制が整い、若い世代の内職仕事になるものづくりが始まりました。最初に形になったのは、人気ロックバンドLUNA SEA のギタリスト・INORANさんとのコラボレーションで『祈りのミサンガ』です。

カンボジアの地雷原から地雷を撤去し綿畑に変える活動を展開する『メイド・イン・アース』『Nature Saves Cambodia-JAPAN』の協力のもと、地雷の被害に遭った人やその家族が栽培・手紡ぎし、天然の植物を用いて染色したオーガニックコットンの糸を使用。カンボジアの僧侶がお守りとしてつくるミサンガの編み方を学び、山元町の女性たちが「悲しみの場所から喜びを」という想いを込めて編みました。チャームはINORANさんのデザインです。

祈りのミサンガは、2012年秋にINORANさんのライブで販売し好評を博しました。
その後、LOVE FOR NIPPONをJUNEさんと共に立ち上げた湘南乃風の若旦那さんやMINMIさん、ポルノグラフィティやORANGE RANGEなどさまざまなアーティストと祈りのミサンガを製作。それぞれのファンが購入してくれたといいます。

左上から時計回りに若旦那さん、MINMIさん×AIさん、ORANGE RANGE、ポルノグラフィティとのコラボによる祈りのミサンガ

山下さん:「好きな人が応援しているものを応援しよう」って、多くの人が山元町に心を寄せてくれました。有名人の影響力ってすごいですね。特に若旦那さんのファンは、マルシェに出店したりワークショップを開いたりする度に来てくれました。

同年9月からは、11日の月命日にJUNEさんと共に『山元Candle』をつくりはじめました。水色に黄色、桃色など優しい色が混ざり合った瓶入りのキャンドルです。

キャンドルのかけらを瓶に詰める人、溶かす人、仕上げをする人と、作業は分担制。「隙間なく瓶に詰めるところや芯をまっすぐ立てるところが難しかった」と振り返る山下さんですが、みんなでつくったキャンドルを囲んで輪になり語り合うと、心地良い時間が流れたようです。キャンドルの販売により、この穏やかな夜は全国に広まりました。

ギフトにもぴったりのパッケージ。ひとつ600円。

おばあちゃんたちの生きがいとなったいちごたわしは、デザイナーの提案によりパッケージをリニューアル。クラフト紙の封筒に詰めて赤い糸で綴じ、百貨店やセレクトショップに置いても目を引くデザインになりました。取引条件なども見直し、無理のない形で生産できるように。気軽に買える値段で好評だったため、山下さんが編み図を考え、スマイルたわしやだるまたわしなど、いちご以外のデザインも誕生しました。

LOVE FOR NIPPONがスマイルマークをよく使っていたことから考案したスマイルたわし。ひとつ800円。

福島県双葉町のシンボル・だるまをたわしに。94歳のおばあちゃんが編んだ2色のたわしに、別の人が編んだ顔をつけています。ひとつ950円。

地震で被害を受けた熊本を応援するためにつくったスイカたわし。売上は熊本の復興につながるよう寄付しています。ひとつ800円。

パッケージには製作者の名前と住所を記載したため、購入者からの手紙が届くことも。岡山の高校生とは3年間手紙のやりとりをしました。文化祭でたわしを販売してくれたり、修学旅行先から絵葉書が届いたりと温かな交流が続き、家族を亡くしたおばあちゃんは「孫ができたみたい」と目を細めていたそうです。

毛糸のたわしをアレンジしてTシャツのワンポイントやポシェットに。

LOVE FOR NIPPONからの独立

LOVE FOR NIPPONの活動を通して、多数のアーティストが山元町にやってきました。芸能界に疎いおばあちゃんたちは相手を知らないことも多かったそうですが、かえってそれが功を奏し、歳の離れた友人としての関係を築けたといいます。多くのアーティストが一度だけでなく何度も山元町に足を運んでくれました。

山下さん:山元町も高齢化が進んでいるから、若い人が来てくれるというだけでみんな喜ぶんです。何年も一緒にいた私も聞いたことがなかったような話を、町外の人に打ち明けていたことが印象的でした。近所の人たちも被災者だから、遠慮してしまって震災の記憶や自分の辛さを言えないんですね。外の人との関わりがあってよかったです。

私とおばあちゃんたちだけでやっていたら、こんなにたくさんの人とつながることも、活動が広がることもありませんでした。JUNEさんがいたからいまがあると思っています。

今年の春、山元TIMEはLOVE FOR NIPPONから独立しました。東日本大震災以降、あちこちで災害が起き、その度にJUNEさんは現地へ赴き自分にできる支援を行っています。山下さんはその様子を見て、「こっちはもう十分支援してもらったから、そろそろ独立しないと」と思ったといいます。

山下さん:JUNEさんはいまも11日の月命日には福島に行って地元のひとたちと交流しています。8年も継続するって、すごいことですよね。私も一緒に行ってお手伝いをしています。津波と違って、原発事故の影響はこの先もずっと続きますから。

福島には知り合いがたくさんできました。山元町で開くマルシェに、福島のおじいちゃんおばあちゃんが遊びに来てくれることもあるんですよ。震災がなければ出会わなかった人たちだと思うと、不思議ですね。

JUNEさんは震災の半年後くらいから、山元町の人に向けて「山元町は福島に入る最初のまちです。早く元気になって、ひとりでも多く福島の人たちを励ましてあげてください」と語りかけていました。その頃思い描いていたことが、現実になっているようです。

現在の山元TIMEのメンバーは30人ほど。NPOから譲り受けたトレーラーハウスの工房『オレンジハウス』に通い、ものづくりを続けています。アーティストから依頼を受けてTシャツやトートバッグといったオフィシャルグッズをつくる中で、縫製やシルクスクリーンなど技術の幅が広がり、企業からも内職仕事を相談されるようになりました。2019年のいまもORANGE RANGEがツアーをするときにはグッズの製作を請け負っています。

山下さんが震災前に開いていたパッチワーク教室も再開しました。

こうした内職仕事は、小さな子どもを家で見なければいけないお母さんたちにとって、月数万円を稼げる貴重な仕事になっているようです。注文に対して手が足りなくなってきたため、新しくつくり手も募集する予定。また、いままでLOVE FOR NIPPONに発信を頼り切っていたため、山元TIMEとしてのウェブサイトなども準備していきたいと考えているそうです。

LOVE FOR NIPPONから生まれた縁を大事にしながら、山元TIMEは形を変えて続いていきます。

◾山元TIME
HP:http://lovefornippon.com/activity/yamamototime

<購入方法>
毛糸のたわしはLOVE FOR NIPPONのオンラインショップや道の駅『やまもと夢いちごの郷』で購入できます。山元Candleと祈りのミサンガは現在製作していません。

2019.7.24