物語

1980年代、カンボジア難民の救急支援活動をきっかけに曹洞宗のお坊さんたちが立ち上げた『シャンティ国際ボランティア会』。東日本大震災後は東北各地で子ども支援や漁業支援、コミュニティ支援など幅広い活動を行ってきました。『あんでねっと』は、そこから生まれた活動のひとつです。

いまも続いているのは、好きだから

2019年5月末で閉所となる気仙沼大谷の仮設住宅集会所。中に入ると、小松節子さん、黒沢市子さん、小野寺ハツミさんの3人がにこやかに迎えてくれました。黒沢さんは家が流されずに残り、小野寺さんは早くに家を再建し、小松さんは今月末に災害公営住宅に移る予定です。状況の異なる3人ですが、毎週水曜日には集会所に集まり、お茶っこと編み物を楽しんでいます。

お昼ごはんは毎回メンバーで持ち寄っています。タケノコ、フキ、しどけ、アイナメと、豊かな山の幸・海の幸を振舞ってくれました。

『あんでねっと』がスタートしたのは、2011年7月。山口県原江寺の住職・有馬嗣朗さんをはじめとするシャンティ国際ボランティア会のメンバーが気仙沼を訪れたことがきっかけでした。そのときのことを、小松さんはこう振り返ります。

気仙沼大谷チームの代表、小松さん。編み目がぴしっと揃っています。

小松さん:有馬さんたちが毛糸をぶらさげて歩いてたからね、「それで何をするんですか」って聞いたの。そしたら、「編み物を通して仲間づくりをしてほしい」と言うのね。6月に仮設住宅に移ったばかりで周囲の人とは話をしたこともないし、仲間づくりなんて無理だと思ったの。でも、編み物が好きで毛糸がほしかったから、元々友達だった黒沢さんに声をかけて、最初は2人で編みはじめたんですよ。

文化服装学院出身の黒沢さん。旦那さんが小松さんと同級生なのだそう。

震災から4か月。仮設住宅への入居によって避難所で培った人間関係がリセットされ、引きこもりがちになる人が出てきた時期でした。小松さんは1人、2人と声をかけていき、数人が集まったところで、活動を広く知ってもらうため、仮設住宅150戸分のアクリルたわしを編んでチラシと一緒に配布。50人ほどが集まり、活動は一気に賑やかになりました。それだけ、人と話すきっかけや気を紛らわすことのできる何かを求めていた人が多かったということでしょう。

以前和裁をしていた小野寺さん。小松さん、黒沢さんとは顔見知りだったけれど、仲良くなったのは震災後。それがいまでは、毎週顔を合わせ、ときには家族ぐるみで旅行する仲に。

小松さん:アクリルたわしなら初心者でも編めるんじゃないかって有馬さんが提案してくれてね。「この地域の名物と言えば?」と聞かれたから「魚はマンボウ、花ははまなす」って答えたら、「じゃあマンボウにしましょう」って。この地域の夏の味なんだけど、マンボウを食べる地域って少ないみたいですね。震災後に海が汚れて何もとれなくなったでしょう、だから、洗剤を使わなくても汚れが落ちるアクリルたわしを使って海を元に戻そう、という想いもあったんですよ。

有馬さんたちは、岩手県の山田町、大槌町吉里吉里、小本でも同様の活動を展開していました。山田町はホタテ、吉里吉里は新巻鮭、小本はイカ・サンマと、その地域自慢の海の幸を毛糸で再現。地域ごとの特色が生まれました(※現在、吉里吉里と小本の活動は終了しています)。

山田のホタテ、大谷のマンボウ

完成した作品は有馬さんがまとめて買い取り、全国の曹洞宗のお寺へ。値段をつけて販売するのではなく、自由な額を寄付してもらい、その返礼品として配られたそうです。その内、個々のお寺からも注文が入るように。東京ビッグサイトで行われる日本ホビーショーにも出店しました。

手袋のように手を入れられるようになっていて、リング編みの凹凸が細かな埃や汚れを巻き取ります。

黒沢さん:2012年や2013年頃は忙しくてね、編んでも編んでも足りないくらい。一晩で5個10個と編んだこともありました。

小野寺さん:ほとんど同じ柄だったから考えなくても編めたんだね。いまはどんな柄にするか考えながら編むから、とてもとても。

初期の頃に製作していたのはシンプルなマンボウのアクリルたわしでしたが、小松さんたちはお茶っこをしながら「こんなのはどうだろう、あんなのはどうだろう」とアイデアを出し合い、レパートリーを増やしていきました。

マンボウの上にホヤやタコを乗せたバージョンも登場。小さめのものは食器洗い用、大きめのものはお風呂洗い用。窓やパソコン・テレビなどの液晶画面拭きにもぴったりです。「可愛くて使えない」と飾っておく人も多いそう。

マンボウ、(煮る前の)タコ、ワカメ、イカ、カニ、ヒトデ、ウニ、ホヤ。どこかユーモラスな表情の「大谷の海の仲間たち」ストラップ。中には小松さんたちが育てたラベンダーが入っていて、ほのかにいい香りがします。子どもに大人気。

履いていると自然とフローリングがピカピカになるお掃除スリッパ。下を向く度に海の仲間と目が合い、笑みがこぼれそう。山田のくじらバージョンもあります。

アクリル以外の糸を支援でいただいたことをきっかけに、バッグやストールなど身につけるものも製作するようになりました。

こちらは山田町のメンバーがつくっているくじらポーチ。ペンケースやメガネ入れ、化粧ポーチとして使えます。

小松さん:私たちの自慢はね、先生もいない、レシピもない中で、自分たちで考えて作品をつくってきたこと。編み方もね、隙間ができたりのびたりしないように工夫しているんですよ。それと、いまでも続けていること、ですね。

最初は支援でいただいたアクリル毛糸を使っていましたが、その後は自分たちで購入しています。

2015年から、売り上げの一部をシャンティ国際ボランティア会へ寄付し、アジアの子どもたちへの教育支援へ充てるようになりました。被災者になったことで支援のありがたみを知り、「自分たちの手取りが少なくなっても、支援を必要としている誰かの助けになりたい」と考えたからです。

活動を続ける中で、若い人は仕事を再開し、お年寄りは遠方に引っ越したり細かな作業が難しくなったりして、少しずつメンバーは減っていきました。今月末には集会所も閉まります。それでも3人は、自宅などに場所を移して編みつづけるといいます。

小野寺さん:こうして集まるのが楽しいんだよね。お互い編んだものを見て話して、持ち寄りでお昼を食べて。

黒沢さん:この活動のおかげで小野寺さんとも親しくなれたし、それまでとは違う付き合いが生まれました。山田の人たちとも交流ができたし、有馬さんたちとも知り合えたし。それが一番嬉しかったことかな。

小松さん:いまでも有馬さんはほぼ毎月通ってきてくれるんですよ。注文をいただくと編まないとと思うし、編みたくなりますね、糸を見ると。結局は、単純に編み物が好きなんです。注文が少なかった時期はやっぱりね、退屈だった。だから、注文をもらえるうちは続けたいですね。

●あんでねっと
HP:http://anndenet.blogspot.com/
FACEBOK:https://www.facebook.com/andenet.touhoku/

<購入方法>
あんでねっとオンラインショップ、シャンティ国際ボランティア会「クラフトエイド」オンラインショップから購入できます。
・みやぎ生協ボランティアセンター・NPO法人応援のしっぽが共同製作する「とうほくてしごとカタログFUCCO」からも注文ができます。

2019.5.15