物語

復興ぞうきんは、「縫い手や使い手を選ばず、誰もが参加できるものづくりは何だろう?」という問いから生まれた商品です。製作するのは、盛岡の復興支援団体『SAVE IWATE』のチームのひとつ『紡ぎ組』。これまでに延べ180人が縫い手として参加。累積製作枚数は14万枚、縫い手への支援金額は2100万円を超えました。立ち上げメンバーの岩崎友子さん(写真右)に、現在に至るまでのお話を教えてもらいましょう。

情報発信のツールとしてのものづくり

「いまは全国から支援を受けるばかりだけど、今後は被災した方達からの情報発信が必要になる。発信のツールとして、避難所でもできる手仕事に取り組もう」。

震災から1ヶ月が経った2011年4月10日。当時は物資支援を中心に行なっていた『SAVE IWATE』のボランティアスタッフが集まり、複数の班に分かれてこれから必要になる支援や活動方針について話し合いました。岩崎さんが参加した班で出たのが、被災者に手仕事をしてもらおうという案。全国から届いた物資でつくったものを全国に向けて販売することで、「みなさんの気持ちは無駄になっていません」「前を向こうとしています」といったメッセージを発信しようと考えたのです。

製作するものとしてぞうきんを選んだのは、当時大量に届いていて余り気味になっていたタオルを活用するため。また、間口の広さも魅力でした。ぞうきんなら裁縫が得意ではない人も参加しやすく、買う人も限定しません。大事にしたのは、“人を選ばないこと、誰もが参加できること”でした。

やることのない避難所暮らしの中で、縫い物は気を紛らわしてくれるはず。前に進む最初の一歩になるかもしれない。そんな仮説のもと企画を立てましたが、最初に相談した避難所では、職員の方が被災した方に声をかけたところ、「商品になるものをつくるなんて、とてもそんな心境になれない」と断られてしまったそう。

岩崎さん:「早まったかな」と反省しましたが、当時避難所となっていた温泉旅館・愛真館では上手くいったんです。ここでは、ロビーの一角にタオルと裁縫道具を置いて、気の向いた人が好きなときに縫えるようにしました。気負わず、気軽に取り組める形にしたのがよかったんでしょうね。

完成した百数十枚のぞうきんはチャリティーイベント等で販売し、売上は被災地支援の活動費に充てました。縫い手からは「縫っている間は没頭できる」「一枚縫い終わると、次の一枚縫う元気が湧いてくる」という声が寄せられたといいます。

盛岡市内に点在していた被災者同士のつながりをつくる

愛真館の避難所としての役割は2011年6月いっぱいで終了しました。それに合わせて、復興ぞうきんも体制や仕組みを見直すことに。それまでは気分転換の手段として取り組んでもらっていましたが、わずかでも収入となるように、完成したぞうきんはすべて買い取ることにしました。

また、被災者同士のつながりをつくるため、集まって作業する日を設定。サロン活動としての意味合いも持たせました。被災者は市内に点在していたため、出会うきっかけや集まる場が求められていたのです。

その会場となったのは、『SAVE IWATE』が盛岡市から委託を受けて開所した『もりおか復興支援センター』。沿岸部から盛岡市へ避難してきた方々の相談に乗ったり、物資を手渡したりする施設です。

毎週水曜にサロンを開くと、参加者は少しずつ増えていきました。チーム名は『紡ぎ組』。回を重ねるごとに打ち解けていき、あたたかなコミュニティが生まれました。

こうした動きを受けて、沿岸部に住む人からも「復興ぞうきんをつくりたい」という声が上がり、2012年からは宮古市で出張サロンを行うように。最初はスタッフが月に1度通っていましたが、縫い手のひとりがリーダーとなって品質チェックやお金の管理を担ってくれるようになり、現地で回せる体制が整いました。

こだわったのは、縫い手に上下が生まれないようにすること

ぞうきんのデザインは縫い手の感性に委ねられています。白い布地をキャンバスとして、カラフルな直線や曲線が踊っていたり、花や蝶が描かれていたりと、一枚一枚表情が異なります。縫い手のみなさんは、お互いの作品から刺激を受けながら、「次はどんな模様にしよう?」と楽しんで縫っている様子。作品そのものが、「元気でやっています」というメッセージを発信する媒体となっています。

ぞうきんに付ける「元気に岩手!!」のタグは、『SAVE IWATE』代表・寺井良夫さんの同級生である漫画家・しりあがり寿さんが無償で描いてくれたもの。ぞうきんを包むクラフトペーパーの帯には、縫い手の名前と出身地が記されています。

価格は300円で、そのうち縫い手に入るのは150円。残りの150円は、材料費やプロジェクトの運営費に充てられます。今月は何枚まで、と指定をしながら、縫ってもらったものはすべて『SAVE IWATE』で買い取っています。

縫い手の平均年齢は82歳前後。その中でも最高齢の小西洋子さん(90歳)にお話を聞きました。小西さんは、宮古から家族と共に避難してきたといいます。

写真右が小西さん

小西さん:盛岡には知り合いがいなくて、ずっと「宮古に帰りたい、帰りたい」と言ってたんです。そうしたら、市役所の方がおいでになって、こういうサロンがあるから参加しませんかと教えてくれました。みなさんに親切にしていただいたおかげで、お友達もできて宮古弁でお話できるようになりました。

みなさん、縫うのが本当に上手です。私はみなさんのように早く縫えないから、つくるのは月に30枚くらい。でも一回ね、私のぞうきんを買ってくれた東京の方からお手紙が届いたんですよ。「家で広げてみて、綺麗だから使うのがもったいないなと思って、しばらく飾っておいた」という内容でした。お返事は書けなかったけど、嬉しくて覚えてるんです。

認知症のお義母さまと一緒に復興ぞうきんを縫いはじめ、現在は『紡ぎ組』のスタッフをしている佐々奈緒さんはこう話します。

佐々さん:私は盛岡の人間なので直接被災をしたわけではないんですが、最初に参加したときにみなさんが「家を失ってなくても同じ被災者よ」と受け入れてくれたんです。それがすごく嬉しかったな。

数年一緒に過ごして印象的だったのは、縫い手のみなさんの表情がどんどん明るくなっていったこと。最初は暗い話題も多かったんですが、いまは笑い声で溢れています。お互いの作品を「こう縫うと素敵ね」と褒めあっている姿を見ると、微笑ましい気持ちになりますね。全国の方とのつながりもできて、「人はひとりでは生きていけないんだな」と、改めて感じました。

周囲の人から「ぞうきん以外のものもつくってみたら?」と提案されたこともありますが、岩崎さんたちスタッフは首を横に振ってきました。新しい商品をつくると、縫える人、縫えない人が出てきてしまう。技術を伸ばしてほかにない商品を開発して、といった活動もいいけれど、『紡ぎ組』は誰かが引け目や劣等感を感じたりすることなく、平等に楽しめる活動にしたい。そう考えたからです。サロンの和やかであたたかな雰囲気は、こうした岩崎さんたちスタッフの方の姿勢によって醸成されてきたのだろうと感じました。

最後のひとりが「もういい」と言うまで

『紡ぎ組』では、活動を応援してくれている人に向けて、活動の様子を紹介するA4両面の通信「紡ぎ組だより」を隔月で発行しています。これを読んだ方や、購入してくれた方から手紙が届くことも多く、それらをまとめたスクラップブックは7冊目になりました。現在でも、タオルや裁縫道具を送ってくれたり、気にかけてくれたりする人は多いといいます。

岩崎さん:ぞうきんから縫い手さんの思いを感じ取ってフィードバックしてくださったり、中学生の子が学校でタオルを集めてくれたり。本当に、胸がいっぱいになります。震災から数年経っても、「忘れちゃいけない」「何かしたい」と思ってくださる方がいて、復興ぞうきんがあることで、そういう方々とつながることができるんです。工業製品じゃなくて、温もりを感じる手仕事だから可能だったんでしょうね。つながりの強さ、というものを感じ続けてきた7年半だったな、と思います。

全盛期に比べて売上は下がりましたが、活動を終了することは全く考えていないそう。「最後のひとりが“もういい”と言うまで、自分にできることを続けたい」と岩崎さんは語ります。

岩崎さん:縫い手さんがお亡くなりになったときに、お子さんから感謝されることがあるんです。「母は地元に帰りたがっていたのに自分の都合で盛岡に留まらせてしまったので負い目を感じていたけれど、楽しそうにぞうきんを縫っている姿に救われました」って。そういう話を聞くと、最後まで見守ることができてよかった、と心から思います。

沿岸部から慣れない盛岡に避難して、孤独に最期を迎える姿を想像すると、たまらない気持ちになります。盛岡でどんな風に暮らしていたかを誰も知らない、なんて悲しいじゃないですか。盛岡で楽しい思い出を積み重ねて、「色んなことがあったけど、いい人生だったな」と旅立ってほしい。盛岡での様子をちゃんと記憶して、誰かから聞かれたときは「楽しそうに過ごされていましたよ」とお伝えしたい、と思っています。

岩崎さんの話を聞いて、「これは被災地に限った話ではない」と感じました。親が高齢になって一人暮らしをさせておくのが不安になり、自分が働くまちに呼び寄せた、という方は多いはず。そのときに、地域に『紡ぎ組』のような団体が、新しい友人ができる場所があれば、どんなに心強いでしょうか。復興という文脈だけではなく、高齢者のウェルビーイングや地域のコミュニティづくりという文脈でも、学ぶところの多い活動だと思います。

SAVE IWATE紡ぎ組
HP:http://fukkozoukin.blog.fc2.com/
FACEBOOK:https://www.facebook.com/Tsumugigumi/
運営母体:一般社団法人SAVE IWATE https://sviwate.wordpress.com/

<購入方法>
●販売店
以下のリンク先に全国の販売店が掲載されています。
http://fukkozoukin.blog.fc2.com/blog-entry-65.html

●ネットショップ
・もりおか町家物語館『大正蔵』
http://saveiwate.jp/tokinosyotengai/
・Yahoo!ショッピング
https://store.shopping.yahoo.co.jp/sviwate/
・Amazon
https://www.amazon.co.jp/ 「SAVE IWATEで検索」

2018.12.19