物語

東北マニュファクチュール・ストーリーは2012年から、震災後に東北で生まれたものづくりを取材してきました。これまでに訪問した現場は80以上。どの現場でも、製品の裏にかけがえのない物語があることを知りました。その物語は、現在進行形で綴られているものばかりです。
以前話を聞いた団体は、いまどんな風に変わっているでしょうか。私たちは、取材後に変化があった団体を再度訪れ、「その後」として記事にまとめていくことにしました。今回は、『WATALIS』のその後をお届けします。
ビジネスもコミュニティも、どちらも大事にしたかったから
WATALISは、亘理町立郷土資料館で働いていた引地恵さんが2011年10月に設立した団体です。引地さんは、被災した呉服店から着物地を譲り受けたことをきっかけに、着物地をリメイクしたものづくりをはじめました。
最初に製作したのは、かつて亘理町民が贈り物を包むために着物のはぎれでつくっていた袋(訛りから“ふぐろ”と呼ばれていました)を現代風にアレンジした「FUGURO」。感謝の気持ちを込めて手づくりする、亘理町民のあたたかなこころを受け継いだ製品です。
その次に製作したのは、赤やピンクの着物地にビーズを縫い付けて緑色の飾り紐でぶら下げ、亘理町の特産品である苺を象った「いちごストラップ」。引地さんは学芸員時代、まちの高齢女性から「あずき3粒包める布は捨てるな、必ず何かに使えるから」という言葉を聞いたそう。その精神を見習い、穴やほつれがありFUGUROにはできない生地を活用しました。(詳しくはこちらをご覧ください)
前回訪問したのは2013年1月。当時のWATALISは任意団体で、一般社団法人化を目指して準備しているところでした。それから3か月後の2013年4月、計画通り一般社団法人WATALISを設立したといいます。その頃のことを、引地さんに振り返っていただきました。
引地さん:FUGUROをつくりはじめた頃は震災から時間が経っていなかったこともあり、よく復興系のイベントに呼んでいただきました。でも、経営を安定させるには継続して取引してくれる売場を確保しないといけません。
法人化したのは、取引の際に法人格があったほうがいいだろうと判断したからです。最初はお店に直接電話するなど、地道な営業をしていたんです。それで駅のお土産売場にも置いてもらえたし、催事で結果を出すことで仙台三越さんでは常設販売してもらえることになりました。でも、多くの場合は「着物地をリメイクして、女性たちが手仕事でつくっていて」と説明すると、趣味の延長だと捉えられてしまって。だから、真剣にものづくりに取り組んでいることを知ってもらうために、色々なコンテストに応募しました。
復興庁主催の「REVIVE JAPAN CUP」で大賞を受賞するなどして、WATALISの知名度は少しずつ上がっていきました。日本政策投資銀行による「女性新ビジネスプランコンペティション」では震災復興賞を受賞し、一年間メンターがついて事業のサポートをしてもらえることに。その中で浮かび上がってきたのが、「ビジネス的な側面とコミュニティ的な側面が混在していることによる難しさ」でした。
一般社団法人は利益を上げることもスタッフに給料を支払うこともできる組織形態ですが、そのことを知らない人も多く、「寄付などから成り立つ組織で、製品が売れても売れなくても続いていくんだろう」と誤解されてしまうことが度々あったそう。
また、つくり手の中には、「仕事として、しっかり技術を磨いて稼ぎたい」と志す人もいれば、「みんなで集まって楽しむこと」を主目的に置く人もいました。ビジネスにするならば、販売先に合わせて納期や納品数を守る必要があり、「みんなで集まって楽しむこと」が好きな人には重荷になってしまいます。
どちらの想いも尊重したいと考えた引地さんは、「一般社団法人WATALIS」に加えて、「株式会社WATALIS」を設立することにしました。「一般社団法人WATALIS」では手しごとワークショップなどのコミュニティ事業を、「株式会社WATALIS」ではものづくりを基本としたビジネスを行うと設定。つくり手にも意志を確認し、どちらかを選んでもらったといいます。
地元のおばあちゃんが活躍できる場をつくる
一般社団法人WATALISでは、2015年に「アトリエ&喫茶 中町カフェー」をオープン。コーヒーや焼き菓子を味わいながら手芸を楽しめるお店で、クリエイターを講師としたおしゃれな小物や防災グッズをつくるワークショップのほか、地元のおばあちゃんによる昔語りと懐かしい味のおやつづくりなどのイベントも定期的に開いています。
引地さん:震災で建物が傷んだなどの理由から閉店してしまったお店も多く、町の方から「寂しい」という声を聞いたんです。みんなで集まれる憩いの場があるといいなと思い、WATALISとして貯めていたお金を注ぎ込みました。また、「地元のおばあちゃんたちが活躍できる場をつくる」こともカフェを始めた動機のひとつです。
WATALISに専念するため資料館は退職しましたが、やっぱり昔を知る人の話はとても貴重だし、失われてしまうのはもったいない、記録して何かの形で残したいという想いがあって。みんなで聴いて、語り継いでいけたらと思いました。
おばあちゃんが語る昔話に若い人が耳を傾けたり、ものづくりが好きな人同士が出会って仲良くなったり。中町カフェーは、過去と現在、未来が交錯する貴重な場となっています。
和の意匠の美しさを伝える
一方、株式会社WATALISの方も組織体制を整え、販売先を増やしていきました。現在、製品の取扱店は全国に50弱。製品ラインナップも、ヘアアクセサリー、小物、テディベアなど豊富に揃っています。
特に大きな変化は、数ある着物地の中でも、縁起が良く「幸せのしるし」として用いられる吉祥文様を中心に扱うことにしたこと。五穀豊穣や美人祈願の意味を持つ桜文、繰り返し押し寄せる幸せをイメージした波文、家庭円満を表す傘文。WATALISのウェブサイトにはさまざまな吉祥文様の説明が載っていて、長い歴史の中で培われてきた和の意匠の美しさ、豊かさに驚かされます。
また、端切れを活用してアート作品をつくったり、美しい文様をスキャンして便箋やクリアファイルの柄として活用することもしています。
引地さん:着物は製品にする前に全てこちらで洗うのですが、大正時代などの古い着物地の中には色落ちしてしまうものもありますし、お客様に日常使いしていただくには耐久性に不安があります。そういった生地もなんとか活かせないかと考えた結果です。製作をする中ですばらしい文様と出合うことがありますが、大量生産品ではないので売ってしまったら手元には残りません。でも、柄としてデータを残しておけばアーカイブにもなりますから。
引地さんの心に、「あずき3粒包める布は捨てるな」という教えがしっかりと息づいているのを感じました。誰かの箪笥に眠っていた着物地を縫い直して、再び世の中に送り出すWATALISの活動。それは、脈々と受け継がれてきた、けれど効率化の波によって一度途切れてしまった、日本の豊かな民俗文化や精神性を再び受け継ごうとする試みなのかもしれません。
■ 株式会社WATALIS http://watalis.co.jp/
■ 一般社団法人WATALIS https://watalis.jimdo.com/
【製品の購入方法】オンラインショップ(http://watalis.com/)からご購入ください。
前回訪問時の記事:http://www.tohoku-manufacture.jp/story/004_story_first.html
2018.11.17