物語

JR石巻線万石浦駅から徒歩10分弱の場所にある、石巻市総合福祉会館うしお荘。毎週木曜になると、うしお荘の集会室に、色とりどりの手づくり服に身を包んだお洒落なお母さんたちが集まります。パターンに合わせて布地を切ったり、ミシンで縫ったりと思い思いに作業を進め、目が疲れてきたら持ち寄ったお茶菓子をみんなでつまんでひとやすみ。『カーネーション』は、2012年から続く、ものづくりが好きなお母さんたちの憩いの場です。 はじまりとこれまでの歩みを、代表の佐藤美佐子さんに聞いてみましょう。

年に1度の作品展を楽しみに


「ここの縫い方がうまくできなくて……」「この本に載っているバッグってどうつくるのかしら」。メンバーから次々と質問を投げかけられ、集会室をあっちへこっちへと動き回って指導する佐藤さん。若い頃は洋裁学校に通い、洋品店で働いていました。結婚後は家事育児に追われ、つくるのは自分の服や子どもの持ち物程度だったそう。再びものづくりと向き合うようになったのは、震災がきっかけでした。

佐藤さん:うちの地区は、辛うじて家は残ったものの、床上浸水で中はめちゃくちゃだったし、道路は満潮時も雨が降ったときも冠水して川のようになるし、日々の生活が大変だったんです。これでは買い物にもいけないだろうと、ボランティアの方が近隣の家20軒に対して朝食やお弁当を届けてくれました。そこで顔を合わせるうちに、ご近所の方から「家の補修が終わって落ち着いたら、縫い物を教えてくれませんか」って頼まれたんです。やることもないし、小物をつくって販売して、生活の資金にできたらいいんじゃないかって。それで、うしお荘が再開した2012年4月から、みなさんに教えはじめました。
ただ、集まったメンバーは年齢層が高く、売れるものをつくってお金を稼ぐより、自分が着る服を自分のペースでつくることに重きを置く人のほうが多かったのです。意見のすり合わせやメンバーの入れ替わりを経て、カーネーションはお母さんたち9人によるものづくりグループとして落ち着きました。

休憩中の様子

「震災前は働いていたんだけどね、前からお裁縫習いたいなって思ってたんですよ。それで混ぜてくださいってお願いしたの」「佐藤先生が着ていたスーツがとっても素敵だったから、私もつくりたい!って思ってね」。参加した動機を聞くと、お母さんたちは当時のことを思い出しながら答えてくれました。カーネーションという名前は、2011年下半期に放送された同名の連続テレビ小説から取ったそう。ファッションデザイナーのコシノ3姉妹を育て上げた小篠綾子の生涯を描いた物語です。

1週間に1度、3時間。何年も続けるうちに、メンバーはめきめきと腕を上げていきました。「自分がほしいものをつくるからやりがいがあるっちゃ」「多少不格好でも自分がつくったものならねぇ」「あら、みなさんとっても上手になりましたよ」「それは先生の教え方がいいから」「本当にねぇ」……と、楽しそうに話すお母さんたち。シャツにロングカーディガンにスラックス、色を合わせたストールにコサージュ。全身を自分で仕立てた服で包んだ姿はとてもお洒落で、はつらつとしています。

2016年には、会津若松の『會空』、新地町の『うみみどり』、東京の『ネクタイベアファクトリー』と合同で、作品展『東北マダムズコレクション』を東京で開催しました。このとき出品したのは、大漁旗を使った色鮮やかなバッグ。すぐに完売し、お母さんたちは手を取りあって喜びました。以来、毎年この作品展に照準を合わせ、培ってきた技術を結集し作品づくりに励んでいます。

2016年の代表作、大漁旗バッグ

佐藤さん:東京に行くのが楽しみだし、いろんな人に会えることが楽しみなんですよ。帰りは必ず日暮里の繊維街に寄って、生地を買うんです。自分用はもちろん、来年の作品展はこの生地で服を縫いましょう、バッグをつくりましょうって。

2018年の作品展に出品した帯バッグと裂織バッグ

気心の知れたメンバーで毎週集まって話すこと、作品展という年に1度の晴れ舞台に向けて切磋琢磨すること。『カーネーション』のお母さんたちが朗らかで若々しい理由は、こうした楽しみの場があるからかもしれません。

鮮やかな模様が目を引く一閑張りのかごバッグ

震災から7年が経ち、多くの人は仮設住宅を出て自宅を再建するか、復興住宅に入りました。しかし、新旧住民の交流は思うように進まず、新たなコミュニティづくりに苦労している地域も少なくありません。佐藤さんは、「うちの地区でもカーネーションのようなグループをつくりたい、講師になってほしい」と相談されることもあるといいます。

佐藤さん:数十年前に身につけた技術がこんな形で活きるとは思いませんでした。洋裁をすすめてくれた両親に感謝しないとですね。

服やバッグを仕立てた余りの布でつくった小物たち。こちらも作品展に出品します

お母さんたちはいま、2019年3月の作品展に向けて、新しいデザインの服やバッグを鋭意製作中です。会場にはどんな作品が並ぶのでしょうか。作品展の日を、楽しみに待つことにしましょう。

■ カーネーション
HP:http://madams-collection.net/carnation/works/

購入方法:毎年3月に開催する東北マダムズコレクション作品展で購入することができます。

<東北マダムズコレクション2019年作品展>
2019年3月8日(金)〜3月10日(日)
11:00〜19:00(※最終日は〜17:00)
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル601 Galerie Lã(ギャルリーラー)
https://salondela.com/

2018.10.18