物語

「首都圏に避難している女性たちへの支援が足りていないと思ったんです」。そう話すのは、2011年からずっと東北の女性たちのものづくりを支援してきた亘理孝子さん。役割を終えたネクタイを活用するというアイデアを元に、ネクタイベアファクトリーを立ち上げました。

「楽しむためのものづくり」を支えたい

亘理さんは広告企画制作会社を経て独立したグラフィックデザイナーです。本業の傍ら、ハンドメイド作家としてヨーヨーキルトとビーズを組み合わせたオリジナルバッグを製作し、2008年には著書『ヨーヨーキルトで作るyoyo bag』(文化出版局)を出版。講師としても活動していました。

ものづくりに親しんできた亘理さんは、震災から半年後に『ふんばろう東日本支援プロジェクト』に参加します。ふんばろう東日本支援プロジェクトとは、Amazonの「ほしいものリスト」を活用した物資支援プロジェクトや学習支援プロジェクトなど、必要に応じてさまざまなプロジェクトを立ち上げていた大規模ボランティア組織です。その頃同団体では、南三陸で女性たちが手仕事を通して自立する手助けも行っていました。

毎月東京から南三陸に通い手伝いをするうちに、亘理さんはほかの地域にも活動を展開したいと考えるように。ちょうど、園児向けにポケモンのチャリティバッグとシューズケースを100セット製作する仕事が舞い込んだため、つくり手を探して石巻、東松島、新地町、会津若松のものづくりグループを訪問しました。

亘理さん:バッグとシューズケースは石巻と東松島の団体が製作することになりましたが、いくつかのグループと話をする中で気づいたのは、「内職仕事をするよりも、自分たちが好きなものをつくりたい」と思っている人が多いということでした。納期に追われながら品質を追求するよりも、ただみんなで集まって、おしゃべりしながら手を動かしたい。そうすることで、辛いことを忘れられる。東北の女性たちにとって、ものづくりは心の支えとなっているんだな、と感じました。

老舗のものづくり企業も倒産しているいまの時代、手仕事で食べていくのは簡単なことではありません。仕事にしたいわけではなく、好きだからものづくりを続けたいというグループを応援するプロジェクトがあってもいいと考えた亘理さんは、2013年4月に『ふんばろうものづくりプロジェクト』を立ち上げました。

必要な手芸道具や材料を送ったり、新しい作品づくりに挑戦したいというグループに技術指導をしたり。それぞれのグループの個性や意思を大事にしながら、必要なサポートを行いました。

一度、ものづくりグループ同士の交流会を開いたところ、震災を経験しものづくりによって前向きになれた人同士、とても盛り上がったそう。2016年からは『東北マダムズコレクション』と銘打ち、年に一度東京で合同作品展を開くようになりました。

ネクタイがテディベアに生まれ変わる

『ふんばろうものづくりプロジェクト』の活動に邁進する一方で、亘理さんは福島から東京へ避難してきた女性たちに心を寄せるようになりました。特に、自主避難している人たちへのサポートが足りていないと感じたといいます。単発のイベントではなく、継続して取り組めるプロジェクトが必要だと考えました。

そこで浮かんだアイデアが、全国から寄付されたネクタイをテディベアにリメイクすること。着物地を活用してものづくりを行うグループはたくさんありましたが、ネクタイを活用したものづくりを手掛けているところはなかったのです。せっかくつくるなら、ほかにないユニークなものを。2014年4月、希望者を集めて勉強会を開きました。

艶やかなシルク地でできたベアたち。裏地も活用しています

ところが、これが思いのほか大変だったのです。集まったネクタイを解き、洗ってアイロンをかけ、芯を貼り、型を取って裁断し、パーツを組み合わせて綿を入れ、目を付け鼻を縫う。バイアス地でできたネクタイは布目の方向によって伸び方が変わるため、型を取るのも工夫しなければいけません。一つひとつの工程の難易度が高く、器用な人でも一体つくるのに6時間以上かかりました。

亘理さん:最初はイベントで販売もしましたが、製作にかかる手間や時間を考えると適正価格は一体一万円。でも、高価になると中々買ってもらえません。それに、苦労してつくるから愛着が湧いて、手放せなくなってしまうんです。ぬいぐるみって面白くて、ふしぎなことにつくった人に顔が似るんですよ。顔をつくって目を合わせると、もう「うちの子」になっちゃうんですね。

そこで、完成した製品を販売するのではなく、これまで勉強会で腕を磨いてきた女性たちが講師となり、思い出のネクタイでベアをつくるワークショップを開催することにしました。

ワークショップの参加者の中には、亡くなったお父さんのネクタイをベアにする方が多かったそう。生地に多少色褪せや染みがあっても、家族にとってそれはお父さんの生きていた証。「ベアにすることでいつも一緒にいられる」と、とても喜ばれました。被災してサポートを受ける側だった女性たちが、今度は家族を亡くした方のサポートをする側に。一緒にものづくりをする時間を通して、あたたかな交流が生まれました。

ネクタイベアよりも簡単につくれるものとして、ペンケースやお花のコサージュも開発しました。これらはふんばろうものづくりプロジェクトが応援する各地のものづくりグループが製作し、イベントで販売しています。ネクタイベアファクトリーのキャッチコピーは、「ネクタイで社会に役立つものづくり」。こうして得た利益の一部を、子どもたちの未来をつくるNGOに寄付しています。

また、端切れを組み合わせてつくった『ベイビーベア』に、ビーズやボタンで装飾を施すワークショップも各地で開催しました。当初は子ども向けと考えていましたが、蓋を開けてみるとおじいちゃんおばあちゃんに大好評。みなさん、クリエイティビティを発揮して個性豊かなベイビーベアをつくるのだとか。老若男女が参加する地域交流の場となっていて、講師を務めるお母さんたちも楽しんでいる様子です。

結成から3年活動を続けてきたネクタイベアファクトリーですが、2017年に入ると都内での活動は休止状態となりました。メンバーに引っ越しや自宅再建などの変化があったこと、それまで勉強会や製作の場として使っていた場所が使えなくなったこと等が理由です。

しかし、しばらく経つとメンバーの数人から「やっぱり寂しい、新生活も落ち着いたから再開したい」という声が寄せられるように。ワークショップへの参加を希望する問い合わせが多かったこともあり、2018年5月から活動を再開することを決めました。思い出のネクタイを持ち込み、ネクタイベアやペンケースをつくるワークショップを開催していく予定です。日時が決まったらネクタイベアファクトリーのウェブサイトで告知するそうなので、気になる方はぜひチェックしてください。


震災から七年が経ち活動を終える団体も多い中、途切れることなく東北の女性たちのものづくりを応援してきた亘理さん。最後に、その心境を教えていただきました。

亘理さん:始めたときは、まさかこんなに長く続けることになるとは思っていませんでした。周囲からはよく「まだボランティアやってるの?」と言われます。でも、私としてはボランティアというより、仲間という感覚なんです。

一緒にものづくりに取り組んでいる方々はあたたかい人ばかりで、ある時点で「もう支援は大丈夫だから」と言ってくれました。自立してものづくりを楽しんでいて、私が辞めても何の問題もありません。でも、それだと私が寂しいから、「一緒にやりましょうよ〜!」って言ってるんです(笑)

東北マダムズコレクションも、一回目はみんなへとへとになっていたけど、自分の作品を見て買ってくれる人と直接会うと励みになるし、刺激を受けるみたいです。二回目からは、「来年はもっといいものを出品したい」と、展示会の帰りにものづくりの材料を買い集めていました。ネクタイベアもどうなるかなと思っていたけど、またやりたいと言ってもらえたのが嬉しくて。

自分にできることがあるなら、仲間として、自分にできる範囲のことをする。そんなスタンスで、これからも続けていきたいと思います。

■ネクタイベアファクトリー
ウェブサイト:http://necktiebear-factory.com/

■東北マダムズコレクション
ウェブサイト:http://madams-collection.net/

2018.3.16