物語

釜石の名物旅館『宝来館』を訪れたとき、ロビーに展示されていた美しい製品に目を奪われました。優しい色合いの裂き織り小物や、木のボタンがついた絣の木綿かばん。タグには『震災復興・手仕事プロジェクト はまなすの会』と書かれています。どんな会で、どんな方々がつくっているのでしょうか。記載されていた連絡先に連絡を取り、代表の長谷川千晶さんにお話を伺いました。
震災の9日後、釜石へ
はまなすの会の活動は、『全国友の会』の支援によって始まりました。全国友の会とは、雑誌『婦人之友』の読者が、1930年に立ち上げた団体です。現在の会員数は約18000人。地域ごとに会員同士で集まり、家事や家計簿のつけ方などを学び合っています。
東日本大震災から9日が経った3月20日、長谷川さんが所属する盛岡友の会は、車にたくさんの物資を積み込んで釜石へ向かいました。釜石を選んだのは、友の会の会員が釜石に住んでいたからです。
道中で見たのは、凄惨な光景でした。倒れた家や船、押しつぶされた車……。土埃が煙る中、避難所に物資を届けると、世話役の女性は、「何もかも不足しています。こんなにいただいていいのですか……?」と、涙を浮かべて喜んでくれたといいます。
避難所に立ち寄りながら会員の安否を確認したところ、残念ながら8名中2名が犠牲になったことがわかり、長谷川さんたちは肩を落としたそう。「沿岸部はどこも厳しい状況だけど、私たちは釜石と大槌を支援しよう」と決心し、定期的に訪問するようになりました。
浜の女性たちの手仕事をつくる
しばらくはあたたかい汁物の炊き出しや物資の提供を行っていましたが、状況が落ち着いてきた同年6月頃から、友の会が培ってきた縫物や編み物の技術を生かし、「手仕事とお茶っこの会」を開始しました。その名の通り、みんなで集まってお茶をしながら、好きなものをつくる会です。
始めてみると「手を動かしている間は何も考えないでいられる」と好評で、初回には100人以上が参加。長谷川さんは、器用な人、ものづくりが好きな人が想像以上に多いことに驚いたといいます。
長谷川さん:それから少し経って、被災した釜石の旅館『宝来館』の女将さんに会いに行ったんです。船を流された漁師の奥さんたちをパートで雇っていることを報道で知り、感銘を受けて。女将さんから「浜の女性たちの内職仕事をつくってくれないか」と言われ、『はまなすの会』を発足しました。
商品を製作するにあたり、他地区の友の会から工業用ミシンや裁ちばさみなどの機材道具が、全国の会員から箪笥に眠っていた着物が贈られてきました。また、手仕事や衣料品に関する造形が深い会員の佐藤尚子さんが、内職希望者への指導や商品づくりを担当するため東京から応援に来ることに。現地での活動について、佐藤さんはこう振り返ります。

東京から釜石・大槌を支えるメンバー。左から佐藤さん、藤野さん、鈴木さん
佐藤さん:参加された方が「これ、おばあちゃんの着物の柄に似ている」と泣き出したり、「何十枚も着物を持っていたけど全部流された。だから触っているだけで嬉しい」と言ってくれたり。帰るときに振り返ると、私たちの車が点になるまでずっと手を降ってくださっているんです。胸がいっぱいになりました。
会員の中から自作した木のボタンや持ち手、裂き織りした生地を定期的に届けてくれる人も現れ、少しずつ縫製の質も商品の魅力も高まっていきました。貴重で質の良い和布・古布などを使った手仕事品でありながら、ひとつ数千円というリーズナブルな価格設定なので、売れ行きは上々だったといいます。
命を吹き込む手仕事
震災から6年半という歳月が流れ、かつては数えきれないほどあった支援団体も、現在ではごくわずかになりました。そうした中でも活動を継続している友の会に対し、信頼を寄せてくれる人は多いといいます。
佐藤さん:津波の体験をいまになって話してくださる方もいます。「やっと言えた」と。一緒に年月を過ごしてきたから聞けるお話です。積み重ねは大事ですね。「ほかの集まりには行かなくなってしまったけど、友の会のお茶会には参加したい」という言葉や、大きな悲しみを経験された方々が立ち上がっていく様子に勇気をもらっています。
釜石や大槌に行くと、私たちのほうが慰められ、励まされるんです。一方的に何かしてあげるのではなく、私たちも多くのものを受け取っている。そういう関係が築けたから、長く続けてこられたのでしょうね。
長谷川さん:製品づくりの過程でいのちが吹き込まれていく、ということが新鮮な驚きであり、喜びでした。大変でしたけどね、和服をほどいて、綺麗に洗って、アイロンをかけて……。でも、草木染や絣といった日本の伝統技術が詰まった貴重な素材が現代的な製品として蘇り、日常的に使われる。そして、それによって被災した方々が小さな工賃を手にする。前に進む力のひとつになる。それが本当に、喜びでしたねぇ。
佐藤さんも長谷川さんも、支援してくれた方々への感謝の気持ち、つくり手さんたちへの尊敬の気持ちを、言葉を尽くして語っていました。必要としている人がいる限り、活動を続けていくつもりだといいます。
はまなすの会の商品は、宝来館と『三陸花ホテル はまぎく』に置かれています。釜石を訪れる際は、ぜひ覗いてみてください。
■ はまなすの会
https://moritomokai.jimdo.com/支援活動/はまなすの会/
2017.10.26