つくり手インタビュー

東京で代表の鴨脚さんにお話を伺った後、職人のみなさんに会いに、釜石を訪問しました。鴨脚さんの姉で製作の指揮を執る長瀬裕子さんに迎えに来てもらい、箱崎町へ。今年建ったばかりという職人の佐々木さんの家にお邪魔しました。


奥にいるのが長瀬さん、手前左から佐々木さん、西山さん、矢野さんです。「どうぞ食べていって」と、手料理やお茶菓子を振る舞ってくれました。きっと、いつもこんな風にお茶をしながら集まっているのでしょうね。

しっかり味の染みたお煮しめにおにぎりはとてもおいしくて箸が進みます。「ピーコさんも一口食べるごとに“おいしい、おいしい”って喜んでくれてね」「話をしながら肩を揉んでくれたんですよ」と、タレントのピーコさんが来たときのことを教えてくれました。

震災後、矢野さん、西山さんの家は流されなかったため、避難所になったそうです。朝・昼・晩と炊き出しを行い、毎日クタクタだったのだとか。

矢野さん:とにかく人に会いたくて、ゆっくり喋りたくて。そんなときに編み物講習会のチラシが入ってきて、参加することにしました。

初回の講習会には数十人が参加しましたが、「仕事として品質を高めていく」というと、1回で辞めてしまう人も多かったといいます。そうした中、どうしてみなさんは続けることができたのでしょう。元々、編み物が好きだったのでしょうか?

西山さん:好きっていうより、やらざるをえない育ち方なんだもんね、私たちは。習ったわけじゃなくて、姉達が編み物するのを見て、見よう見まねで。うちの父親も棒針編み得意だったの。編み棒も自分で竹を切ってつくって。

生活用品を自分たちでつくるから、編み物の技術が必須だったのですね。一方、佐々木さんは若い頃に指を一本切断し、そのリハビリとして編み物をしていたそうです。

佐々木さん:退院したあと、一年経ってもものを掴めなかったの。それで指を動かすためにした訓練が編み物だったんですよ。

そんなベテランのみなさんでも、最初につくったペットボトルのゆたんぽカバーには苦労したそう。ただ編むだけではなく、フェルトの葉っぱに刺繍をして縫い付ける作業もあるため、時間がかかったのだとか。「大変だったねぇ」「でも、見本を見せてもらったとき、素敵だと思ったぁ。これなら私、高くても買うわって思ったもん」と、思い出話に花を咲かせる職人さんたち。

長瀬さん:レインボーバッグをつくったときは、矢野さんが「箱崎のまちには色が無いから、カラフルな毛糸の色を見ているだけで嬉しい」って言っていて、ピーコさんがそれを聞いて泣いちゃったんですよ。ピーコさん泣き虫だから。

矢野さん:だってね、何も無くなっちゃったでしょう。そこに綺麗な色の毛糸がたくさん届くもんだから、それだけで癒されてたの。

編み物をしながらみんなでお喋りをすることも大きな楽しみだったそう。震災絡みの話は気が滅入ることも多く、希望の持てる共通の話題を必要としていたのです。

購入してくれた人から直筆の手紙やファックスが届き励まされたこと。活動を通して違う地区の人とも親しくなれたこと。毎年春にみんなで盛岡などへ遠出して食事をすること。みなさん口々に「楽しかったこと、嬉しかったこと」を話してくれました。

次の予定があるとのことだったので1時間ほどでお暇しましたが、鴨脚さんが言っていたように、職人さんたちがとても穏やかな優しい表情をされていたのが印象的でした。辛いことも多かったと思いますが、お互いを労り合いながら一緒に過ごしてきたのでしょうね。

帰りの車の中で、長瀬さんのお話も伺いました。長瀬さんも営んでいた下宿屋が地域の避難所に指定されたため、ボランティアで1日2回300食分の炊き出しをしていたそう。小中学生の子ども3人を育て、その上で『プロジェクト伝』の活動にも奔走していたというから驚きます。想像を超える忙しさだったに違いありません。

長瀬さん:いま振り返ると、どうやって回していたんだろう、と不思議に思います。でも、誰かにお世話される立場じゃなくて、お世話する立場になれてよかったのかもしれません。うちの子どもたちもよく働いてくれましたよ。「忙しいから手伝って」って声をかけると、エプロンをつけてすぐに来てくれたんです。震災前から手伝いはしてくれる子たちでしたが、炊き出しを通して鍛えられたと思います。だから、よかったんじゃないかな。

2017年10月現在の箱崎の風景

現在は注文も少なくなり、在庫もできたので以前のように箱崎に通う必要は無くなりました。でも、2週間に一度は編み物の先生と一緒に、職人さんたちに会いに箱崎へ通っているといいます。活動が縮小したり終了したりすることで、せっかくできた人間関係が途切れがちになってしまうプロジェクトもありますが、『プロジェクト伝』ではつながりを絶やさないようにしているのですね。そう言うと、長瀬さんは、「一生つき合っていくと思いますよ。ご縁ですから」と明るい笑顔で答えてくれました。

長瀬さん:震災直後はたくさんの有名人が東北に来てくれたけど、6年も経って、途中で熊本地震もあって、こっちはすっかり寂しくなりました。いまの在庫を売り切ったら、そのお金で人を呼んで、みんなが楽しめるイベントを開けるといいな、と思っています。

■プロジェクト伝
HP: http://www.project-den.net/
電話:03-5766-5680
※製品の注文やお問い合わせは直接団体へお願い致します。不要になった毛糸の募集も行っています。

2017.10.26