物語

「たくさんの命が失われたことが悲しくて悔しくて、その分いっぱい産もうと思いました。でも、私ひとりだと限界があります。だから、石巻を子育てが楽しいまちにしようと決心したんです。そうすれば、また命が溢れるまちになるだろうから」。震災を機に立ち上がった子育て支援NPO『ベビースマイル石巻』。代表の荒木裕美さんに、現在の活動とこれまでの軌跡を教えてもらいました。

「生きているって、すごいこと」

石巻市蛇田地区に建つ、クリーム色の壁にレンガで装飾が施された可愛らしい一軒家。妊娠中・子育て中のお母さんが気軽に立ち寄れる地域子育て支援拠点『スマイル』です。

室内にはおもちゃや絵本が置いてあり、乳幼児がのびのび遊べるようになっていました。一軒家ということもあり、とても家庭的であたたかな雰囲気。月に350組以上の親子が利用しているそうです。

ここを運営するのは、子育て支援NPO『ベビースマイル石巻』。主婦の荒木裕美さんが、東日本震災の二ヶ月後に設立した団体です。

荒木さん:震災のとき、私には2歳の子どもがいて、2人目を妊娠中でした。妊娠8か月位でしたね。家は一部損壊したものの住める状態だったから、もっと大変な想いをしているママさんたちのことが気になりました。物資は足りているのかな、子どもはどうやって遊ばせているんだろう、今後のことが心配だろうな、と。

そこで、妊娠中や子育て中のママが集まれる場をつくることにしたんです。そうすれば情報交換できるし、人数を集めて声を挙げれば物資も届くだろうから。

5月に任意団体を設立し、7月に生協の集会所を借りて子育てひろばを開催。乳幼児だけでなく小学生とその親御さんも参加し、40人ほど集まったといいます。でも荒木さん、震災時に妊娠8か月だったということは、ちょうど出産時期と重なっていたのでは……?

荒木さん:産んでからだと「やっぱり難しいかも」と弱気になっちゃいそうだから、妊娠中に準備しました。必要としている人は絶対にいるから、必ずやると決めていたんです。

背景には、荒木さん自身が結婚を機に石巻へ移住したときの経験があるそう。知り合いのいない土地で感じていた寂しさや不安から救ってくれたのは、地域の子育てサークルの存在でした。

荒木さん:でも、そのサークルを主宰していた友人は、震災で亡くなってしまったんです。彼女も妊婦で、うちの長男と同じ位の歳の子どもがいたのでショックが大きくて……。もし彼女が生きていたら、きっとママたちが安心できる場をつくっただろうな、と思いました。じゃあ、代わりに私がやろう、と。当時は辛すぎて、「おこまがしいんじゃないか」という気持ちもあって言葉にできませんでしたが、やっぱり彼女のことは大きかったですね。

それともうひとつ。震災を経験して、生きているってすごいことだなと思ったんです。自分はいまから産めるんだ、新しい命を誕生させることができるんだ、その可能性ってすごいな、と。

産むことができなかった友人の代わりに、失われた命の代わりに、いっぱい子どもを産みたい。でも、自分ひとりでは限界がある。だから、石巻を「子どもを産んで育てることが楽しいまち」にしよう。そうすればまた、まちに命が溢れていくんじゃないか。そう考えたといいます。

荒木さん:「絶対実現させるんだからーっ!」って、燃えていました(笑)だから、妊産婦でもできることをしようと思ったんです。

ボンボンカフェから看板商品が登場

最初は月1〜2回開催していた子育てひろばですが、「もっと開催してほしい」という声を受け、回数を増やしていきました。それだけ子どもの遊び場やママが安心できる居場所が求められていたのです。

荒木さん:避難所や親戚の家に身を寄せていたママたちは、肩身の狭い思いをしていたり、今後のことが不安だったりで、なかなか子どもとゆっくり過ごせずにいたんです。日常を感じられる場所、ほっとできる場所が必要だったんですね。

最初は、みんなで震災の体験を話したり、心のケアを行ったりする場になるかなと思っていました。でも、震災の話ができるようになったのは3年を過ぎてから。何気ない会話の中で「あのときおじいちゃんを亡くしたんだ」という話が出たり、子どもを身ごもったママが「実は上の子もいたんです」と打ち明けてくれたりするようになりました。

私たちは臨床心理士ではないので、専門的なカウンセリングはできません。なので、ママたちが楽しみに思えるイベントをつくることにしました。明日楽しいことがある、一週間後にもある、一ヶ月後にもある。それが日々の支えになるし、「今日楽しかった」「新しいつながりができた」という積み重ねで活力が湧いてくるはず。それが私たちにできる心のケアだと思って、力を注いできました。

活動のひとつに、手仕事があります。ベビースマイル石巻は2013年から毎週水曜日に集会所で『ボンボンカフェ』を開きはじめました。“Bond Born”、絆が生まれるカフェという意味です。親子で気軽に立ち寄れる場所で、350円という安価でランチも提供。ちょっとした縫製ができるようにと、ミシンも置かれています。

ママたちは、お互いに子どもを見守りあいながらものづくりをするようになりました。そこから生まれたのが、抱っこ紐収納カバーと、同柄のよだれパッドです。

スタッフの豊宮ゆきさんは、当時のことをこう振り返ります。

豊宮さん:ひとりのママが抱っこ紐を収納できるカバーをつくって、みんながそれに興味津々で食いついたんです。「どうやってつくったの?」「つくってみたい」「私は不器用だから、買いたい」って。それで、商品化することにしました。

お出かけのときに大活躍するエルゴなどの抱っこ紐。でも、ママたちは出かけた先で赤ちゃんを下ろした後どうするかに困っていました。すぐにまた抱っこするからと腰に巻いたままだとだらっと不格好になってしまうし、大きいのでそのままだとバッグには入らない。そこで、コンパクトに収納できるカバーが大活躍したのです。

抱っこ紐を収納すると、ウエストポーチサイズにまとまります。

お揃いの柄で、赤ちゃんがよく舐めるベルト部分に装着するよだれパッドもつくりました。肌触り良く柔らかなガーゼを使い、染みないよう生地を3枚重ねにするというこだわりぶり。ママたちの経験と知恵が結集した商品です。

子育てひろばの参加者だった豊宮さん。荒木さんの思いに共感し、スタッフとしてベビースマイルを手伝うことに。

豊宮さん:私自身、2番目の子のとき重宝しました。使いすぎてくたくたになっています。この子のために新調しないとですね。

商品はボンボンカフェのほか、宮城生協の手仕事カタログでも販売しています。ベビースマイル石巻の看板商品として、細く長く売れつづけているそう。売れるとお小遣いになるため、ママたちも張り合いがあるのだとか。

荒木さん:完成したときの達成感も大きいんだと思います。「できたー!」って。それまで手仕事は得意じゃなかったのに、やりはじめたらハマってしまい、違うデザインで商品化してネットで販売しはじめたママさんもいました。自分の世界が広がったり、商品を通して新たな出会いが生まれたり。それが手仕事の良さなんでしょうね。

抱っこ紐を収納したまま、赤ちゃんを載せて抱っこする使い方も。これなら腕が疲れません。

「震災があった大変なまち」ではなく、「元気で勢いのあるまち」へ

子育て講座の開催、父子手帳づくりにパパサークルの結成、各種イベントにワークショップ。ベビースマイル石巻の活動は多岐に渡ります。2015年には冒頭で紹介した常設施設『スマイル』ができ、ママと子どもの平日の居場所になりました。スタッフは、活動全体で常勤・非常勤合わせて19名。ママが子育ての状況に合わせてフレキシブルに働ける場としても機能しています。

荒木さん:現在は行政の委託事業を数多く受けています。最初の頃は震災復興関連の助成金・補助金が主な財源でしたが、それが行政からの委託に変わったのは大事な転換点でした。でも、委託にだけ頼っていてもいけません。委託を受けながら土台をつくって団体としての体力をつけて、少しずつ自主事業を増やしていこう、と考えています。

ベビースマイル石巻の活動には年間で述べ7,000人以上の親子が参加しています。「子どもや孫がたくさんできたみたい」と嬉しそうに話す荒木さん。第一子が大きくなってベビースマイルから離れていたママが、第二子、第三子を出産して再び戻ってくることも多いといいます。

荒木さん:「しんどかったときに、ベビースマイルに支えてもらった」と言ってくれる方が結構いらっしゃるんです。「えっあの頃辛かったの? 全然気づかなかった」というケースが多いんですが(笑)、ベビースマイルという存在が支えになっていたなら、それはすごく嬉しいなと思います。

震災から6年が経ちましたが、身近な人を失った悲しみはそう簡単に癒えるものではありませんし、生活再建の大変さも加わってママは不安定になりがちです。ただでさえ出産前後は気分の浮き沈みがあるものですから。それがイライラとなって子どもたちに向かわないように、気軽に相談できる場所、サポートしあえる場所が必要なんだと思います。

荒木さんからさまざまなお話を伺い、ベビースマイル石巻が行っている活動は震災復興に関係なく、全国に必要なものだと感じました。実際に、夫の転勤で石巻にやってきたママたちから、「子育て支援が充実していてびっくりした」「もう石巻から出たくない」とよく言われるのだとか。

荒木さん:まだ前を向けずにいる人や子どもを産むことが叶わない人もいるので、私たちの活動を押し付けるつもりはありません。そういう人たちに配慮しつつ、「子育てが楽しいまちだよ」と発信することはまちのイメージアップにもなると思うんです。石巻のイメージを「震災があった大変なまち」ではなく、「元気で勢いのあるまち」にしていきたい。

そのために私たちは、ママたちの小さな声を掬い上げて、「こういうのがほしかったんだよね」と思ってもらえるような場や仕組みをつくっていく。そうやって、いろんな家庭が幸せに暮らしていくお手伝いをしていきたいな、と思っています。

 

■ ベビースマイル石巻
ウェブサイト:http://www.forbabysmile.com/
電話:0225-24-8304
メールアドレス:ishinomaki@forbabysmile.com
※商品の購入を希望する場合は、上記メールアドレスにお問い合わせをお願いします。

2017.8.20