物語前編

南気仙沼の復興商店街「福幸小町」内にあるサメ専門店「SHARKS」。店内には、サメ革製品を中心としたサメグッズが所狭しと並んでいました。店長の熊谷牧子さんは、「サメを通して気仙沼をPRしたい」という想いでお店を運営しているといいます。

サメに魅せられて

熊谷さん:サメの仕事は天職だと思っていました。だから、震災で仕事を失ったときも、ほかの仕事をすることは考えられなかったんです。

気仙沼は、サメの水揚げ高日本一を誇るまちです。熊谷さんは震災前、サメ革の卸売をする会社に勤めていました。気仙沼生まれの熊谷さんですが、その会社に入るまでは特にサメに関心がなかったそう。しかし、仕事をする中でサメの奥深さに引き込まれていきました。

熊谷さん:「ヒレだけ取って海に捨てている」と間違った情報がネットに流れることもありますが、とんでもない。肉はさつま揚げやはんぺんに加工されていますし、骨からとれるコンドロイチンは健康食品や薬に変身します。肝臓から抽出した油、肝油は化粧品やサプリメントの材料として使われています。皮も丈夫で水をはじくので重宝されています。本当に、サメは丸ごと余すところなく使われているんですよ。何度も生えてくる歯など生態も興味深くて、「すごいな、面白いな」と思うことの連続でした。

熊谷さんには障害のあるお子さんがふたりいますが、社長はそうした境遇にとても理解があり、子どもの病気による早退等も快く承諾してくれていたそう。やりがいの面でも労働環境の面でも理想的な職場でしたが、津波により社長は亡くなり、熊谷さんは仕事を失いました。

熊谷さん:震災直後は仕事どころではありませんでしたが、少しずつ普通の生活に戻っていくにつれて、「仕事をしないと」と思うようになりました。でも、前職のように理解のある職場はそうそうないですし、私はサメのことしか考えられません。長年のお客様から「今までのようにサメ革を購入したい」「ぜひ続けてほしい」と言われたこともあり、独立して復興商店街にお店を出すことにしたのです。

それが『SHARKS』の始まりでした。

サメのまちでオリジナルのサメ革製品をつくろう

『SHARKS』ではフカヒレスープやサメグッズなど、サメと関わりのあるものを幅広く仕入れて販売していました。その中でも人の目を集めるのは、やはりサメ革を使った製品です。知人からも「ほかの地域にはないものだから、これを強みにするといい」と助言を受け、熊谷さんは気仙沼でオリジナルのサメ革製品をつくろうと思い立ちました。

熊谷さん:職人さんを探したところ、2人の方と出会うことができました。ひとりは友人が紹介してくれた気仙沼の方。もうひとりは気仙沼出身で現在は横浜に住んでいる方です。うちにサメ革を買いに来てくれて、聞くとサメ革でものづくりをしているということだったので、「一緒にやりましょう」とお誘いしたんです。デザインを考えてもらい、私ひとりでは思いつかなかった商品が誕生しました。

たとえばそのひとつが、ころんとした形のカラフルな小物入れ。昔はサメ革というと黒がほとんどでしたが、最近は染色技術が発達し、鮮やかに色づけされた革も出回るようになりました。ひとつひとつ職人が丁寧に手縫いしています。

ユニークなのが、ファスナーを開けるとサメの歯が覗くコインケース。レジでお金を出すときにびっくりされそうですね。

熊谷さん:サメに対して「怖い」というイメージを抱いている人は多いと思いますが、このインパクトには思わず笑ってしまうのではないでしょうか。今まで興味のなかった人にも、サメ革をPRできればと思っています。

2017.1.25