物語後編
捨てられていた鹿の皮をペンケースに
OCICAの製作を続ける中で、友廣さんたちは鹿角を提供してくれる地元の猟師さんたちとの交流も深めていきました。そこで知ったのは、牡鹿半島では鹿が増えすぎて猟師さんが駆除していることと、一部の肉は食肉用に活用されているものの、その際に出る皮は使い道がなく廃棄されていること。しかも、猟師さんは業者にお金を払って捨てているのだといいます。
それまで光が当たっていなかった鹿角も、デザインの力と丁寧に手を加えることで製品になり、お母さんたちがやりがいや収入を得る仕事になりました。鹿皮も価値を生む何かに生まれ変わらせることができないだろうか……? そんな問いから2015年に誕生したのが、『OCICA DEER LEATHER PENCASE』です。牡鹿半島の障害福祉サービス事業所『くじらのしっぽ』が製作しています。

封筒をモチーフにした天然鹿革ペンケース。色は3色あり、ひとつ6,800円で販売しています
鹿革ペンケースをつくることは、利用者にどんな影響を与えているのでしょうか。ここからは、『くじらのしっぽ』スタッフの多田剛優さん、つむぎやの友廣さんにお話を伺います。

『社会福祉法人 石巻祥心会』サービス管理責任者の多田剛優さん
——くじらのしっぽは、どんな施設なんですか?
多田さん:震災前は『就労継続支援B型』と『生活介護』のサービスを提供していましたが、震災後は利用者が減ったため、生活介護のみになりました。障害区分でいうと3以上の方が対象で、本来のサービス内容は入浴や排泄の介護、身体機能や生活能力向上のために必要な援助です。
しかし、牡鹿半島は障害を持った人も何らかの役割を持って働く地域です。体操だけでは物足りない、生きがいとしての仕事を持ち、働いてお金を稼ぎたい。そんな方々が多いので、うちは“働く生活介護”を目指しています。
——どんな仕事をされているんですか?
多田さん:震災後は仕事がなくて、最初に受注したのは建物の清掃作業です。その後、地域の方からワカメの芯抜き作業を紹介してもらいました。でも、それだけでは厳しい。ワカメを卸してもらって自分たちで袋詰めし、自社製品として販売することにしました。
——厳しい、というと?
多田さん:物足りないという意味です。利用者は少しずつ増えていて、現在は18名が通っています。それに合わせて仕事も増やさないと、一人あたりの収入もやりがいも減ってしまう。それに、いろんな作業があったほうが、利用者の能力に合わせて仕事を割り振りできますから。
——鹿革ペンケースはどんな経緯で製作することになったんですか?
友廣さん:鹿の皮を何かに活用できないかと思って、猟師さんから皮を分けてもらい、鹿角のアクセサリーを提案してくれたデザイナーのNOSIGNERさんと一緒に製品を試作していたんです。「ペンケースにしよう」と大枠が見えてきたので、製作してくれるパートナーを探しました。

鹿の角や皮を提供してくれる『丸信ワイルドミート』の三浦さん。皮の剥ぎ方を教えてもらうなど、開発段階でもお世話になったそう
友廣さん:でも、アクセサリーとは毛色が違うので、浜のお母さんたちにお願いするのは難しくて。牡鹿半島で仕事を求めている人たちと一緒につくりたい、と動くうちに、くじらのしっぽに辿りついたんです。新しい仕事をつくりたいと思っていると聞いて、すぐに具体的な相談をしに伺いました。
多田さん:2014年の4月のことでしたね。地元の鹿革を活用するというアイデアがユニークだと思ったし、製品にも魅力を感じました。自分たちだけではとても企画できない製品ですから。話を進めるうちに、鹿革は強度があるので普通のミシンでは縫えないことがわかり、10万円ほどする特殊なミシンを購入しました。
——おお、思い切りましたね。
多田さん:長く続けていきたいし、先行投資だと捉えまして。開発段階ではつむぎやさんに何度も来てもらって、利用者さんにつくり方を説明していただいたり、各工程をみんなができるように改良していただいたりしました。
ミシンは失敗が許されないので今はまだ職員が担当していますが、型を抜いてボタンをつくる、金具を留める、接着する、箱を組み立てるといった作業は利用者さんに行ってもらっています。細かな作業なので安心して任せられるのは2人だけですが、「自分たちにしかできない作業なんだ」という自負を持って、一所懸命頑張ってくれています。

箱の組み立ても利用者が行っているそう
——できるようになるまでは大変だったんじゃないですか?
多田さん:そうですね。型抜きの作業は力加減が難しいんですよ。金槌で型を叩くんですが、斜めにずれたり、断面がボサボサになってしまったり。練習を重ねて、いまでは失敗することはほとんどなくなりました。

型抜き作業の様子。職人の風格が漂っています!

くるくる丸めてコンパクトに使うことも可能。柔らかくあたたかみのある手触りです
——製作を始めて嬉しかったことや印象に残っていることはありますか?
多田さん:利用者さんと一緒にせんだいメディアテークに行ったとき、展示販売されているのを偶然見かけたんですよ。このペンケースをつくっているのは自分たちしかいないので、「これ俺が型抜いた奴だ」「私が組み立てた箱かな」と盛り上がって。あれは嬉しかったですね。
地元の人に鹿革ペンケースの話をすると、「これ自分たちでつくってるの? すごいね!」「地元の鹿でこんなことができるんだね」と感心されるんです。牡鹿半島ならではの製品だし、ほかにはあまりない製品ということで、利用者さんたちの自信にもつながっています。すごくありがたいなと思います。
震災から時間が経ち活動を縮小・終了するプロジェクトもあれば、時間をかけて関係性を深めてきたからわかることや、そこからまた新たに生まれるプロジェクトもある。そんなことを実感した取材でした。
3年後、5年後にはまた新たな展開が生まれていることでしょう。これからも楽しみに見守りたいと思います。
■ OCICA
HP:http://www.ocica.jp/
前回訪問時の記事:http://www.tohoku-manufacture.jp/story/005_story_first.html
2017.1.15