物語前編

震災後、東北各地でさまざまなものづくりのプロジェクトが始まりました。しかし、知名度の低さから思うように売れず、ひっそりと幕を下ろしたものも少なくありません。そうした中、MONKEY MAJIKは東北のものづくり工房とコラボして5つのプロダクトを開発。東北のものづくりの魅力を全国に発信しました。
こうした試みは、「災害時にアーティストができること」のモデルケースになるのではないでしょうか。プロジェクトを企画立案した高橋臨悟さんにお話を伺いました。

東北の工房とコラボして、外に発信する役割を担おう

main MONKEY MAJIKは、カナダ人兄弟のMaynard(メイナード)とBlaise(ブレイズ)がボーカルとギターを担当し、日本人のtax、DICKがリズムセクションを受け持つロックバンドです。メンバーは全員が仙台市在住。月9ドラマ『西遊記』の主題歌『Around The World』、ヨコハマタイヤイメージソング『空はまるで』といった大ヒットを飛ばした後も仙台で暮らしています。

東日本大震災が起こったときも4人は仙台にいて、自宅も被災するなどの被害を受けました。しかし、震災から数日後には瓦礫撤去や泥かきといったボランティア活動を開始。多くの著名人が募金やイベントを行う中、ミュージシャンとしてではなくいち東北人として行動することを選んだのです。

2011年7月には、大阪でチャリティライブ『SEND愛』を開催しました。“仙台”という都市名に“愛を送る”という意味を合わせたネーミングです。『SEND愛』は2012年末までに3回開催し、売上は義援金として寄付しました。

同年秋に発表したシングル『Headlight』はテレビ朝日『東北笑顔プロジェクト』のインフォマーシャルCMソングに起用されました。

2012年にMONKEY MAJIKのブランド構築を受けた高橋臨悟さんはこう話します。

高橋さん:実は僕、それまでMONKEY MAJIKのことをあまり知らなかったんですよ。調べてみて、面白いバンドだなと思いました。普通は売れたら東京に出てくるものですよね。それがずっと仙台にいて、震災のときもバンドの名前を出さず一般人と同じように泥かきで汗を流して。そしてそれが、地元の人たちにとても喜ばれていました。

プロデュースを請け負うにあたってメンバーに行ったインタビューでも、「自分たちは東北にいるんだ、東北のバンドなんだ」という想いがとても強かったんです。なので、“東北”をひとつの軸としてプロジェクトを行うことにしました。

コンサルティングやデザインを行うCHANT.LLC代表の高橋臨悟さん。2012年から3年間、MONKEY MAJIKのブランディングを担当しました

コンサルティングやデザインを行うCHANT.LLC代表の高橋臨悟さん。2012年から3年間、MONKEY MAJIKのブランディングを担当しました

『SEND愛』のように大きなイベントはそう何度もできるものではありません。小さくても継続していけるものはないだろうか。そう考えたときに閃いたのが、ものづくりだったといいます。

高橋さん:震災の後、東北各地でものづくりをする方が一気に増えましたよね。これだけ広範囲に各地でものづくりが始まるというのは、世界的にも珍しいムーブメントではないでしょうか。

その中でもふたつの方向性があって、ひとつはミサンガのようにすぐにつくれるもの、ひとつはデザイナーが入ってじっくりと商品開発したもの。「じゃあMONKEY MAJIKの場合はどうするのがいいだろう?」と突き詰めて考えて、「ゼロから新しいものをつくるよりも、既にいい製品をつくっている人たちを探し出し、東北の外に発信する役割を担おう」という結論に行き着きました。

MONKEY MAJIKのメンバーもそのアイデアに賛同し、2013年に『MONKEY MAJIK MARKET(MMM)』が始動しました。

2年間で開発した5つのプロダクト

s_azoth01最初にコラボしたのは、仙台にあるTシャツ工房『AZOTH』です。MONKEY MAJIKはインディーズの頃この工房にTシャツ製作を依頼していて、社長とはいまでも時折飲みにいく間柄。「一番身近な相手と一緒にスタートを切りたい」と、第一弾の相手に選びました。

高橋さん:『AZOTH』は震災で工場が被災したけれど、京都の工場の一部を借りてTシャツづくりを再開し、そこで教わった染色技術をもとに海外へ進出したんです。大変な経験をバネにして伸びていく姿勢は素晴らしいな、ぜひ紹介したいなと思いました。

Tシャツは一枚一枚職人が手刷りし、ボディの仕上げは福島の工場で丁寧に行っています。洗うほどに手触りがよくなる質の良い素材で、環境負荷の少ないインクを使用。大量生産のTシャツとは一線を画する仕上がりです。

プリントされているのは、金華山に登って撮影した牡鹿半島の穏やかな海。海の写真を出すべきかどうか悩んだそうですが、最終的には「この風景の美しさを知ってもらいたい」という想いが勝ちました。

s_mobbys201次に開発したのは、ウェットスーツ素材のスマホケース。国内シェアNo.1を誇る石巻のウェットスーツ工房『モビーディック』とのコラボ製品です。ネオプレーンというウェットスーツ素材を使っているので、独特の柔らかな触り心地。さまざまな生地の中から、当時のMONKEY MAJIKのニューアルバム『DNA』を意識して色を組み合わせました。

s_rokou01MONKEY MAJIKと一緒に仙台を歩く中で見つけたのは、お香専門店『仙台工房 露香』。同店では、ビーカー入りのお洒落なお香『ROKOU』を製作していました。天然香料・厳選香料の独自ブレンドによって、焚いたあとも焚く前のようなフレッシュな香りが続きます。

高橋さん:「香りを聞く、楽しむ」ことと「音楽を聴く、楽しむ」ことは似ています。メンバーそれぞれに好きな香りを選んでもらい、曲の名前をつけてアソートしました。ビーカーの長さを変え、コルクにはMMMのロゴを印刷して、オリジナルの香台をつけました。

火をつけると、上品な香りが空間を満たします。メンバーも全国ツアー時に持ち運び、ホテルで香りを楽しんでいたといいます。

s_bochan01名取市にある石鹸工房『畑惣商店』とは、「塩竈の藻塩」を入れた坊ちゃん石鹸を開発しました。坊ちゃん石鹸は、天然の牛脂とヤシ油を独自の混合比で使用した、純粋無添加の化粧石鹸です。赤ちゃんやお年寄り、肌の弱い方でも安心して使えるとあって、大正時代から親しまれてきました。

MMMが提案したのはふたつ。ひとつは手軽に使えるようサイズを一回り小さくすること。そしてもうひとつが、日本神話の時代から伝わる製塩法を現代に再現している塩竈の藻塩を配合することでした。

高橋さん:実は、坊ちゃん石鹸と塩竈の藻塩のコラボは以前から話があったそうなんですが、震災で中断していたんです。提案したのは偶然でしたが、結果的に頓挫していたプロジェクトを復活させることができたのは、とても意義のあることだったと思っています。

s_sdg01最後に製作したのは、仙台を流れる川の砂を溶かした『仙台ガラス』のグラスです。
杜の都・仙台を表すような味わい深い緑色が特徴。秋保にある『海馬ガラス工房』の協力を得て、MMMオリジナルデザインが完成しました。

高橋さん:メンバーと「何を入れて飲みたい?」「どの形が持ったときに一番しっくり来るかな?」と話し合い、最終的にこの柔らかな丸みを帯びたフォルムに落ち着きました。厚みがあるので、少し贅沢な気分に浸れると思います。

2016.9.23