物語前編

「いつ何が起こるかわからないから、本当にやりたいことをやろうと思いました」。釜石生まれの西川藍さんは、震災を機に地元へ戻り、念願だったものづくりの仕事に就きました。現在はそこで得たレーザー加工技術を元に、オリジナルの雑貨を製作しています。

「諦めないで」と背中を押されて

s_img_0604昔からものをつくる仕事に憧れがあったという西川さん。会津大学短期大学部でデザインを学びましたが、地元釜石にはそうしたスキルを活かせる職場がなく、宮古市のパチンコ店で事務として働いていました。

宮古も釜石も、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域です。ご自身が危険な目に遭うことはなかったそうですが、地元のこと、実家のことが気になり、2011年11月に釜石へ戻ってきたといいます。しばらくは企業で事務の仕事をしていましたが、ある復興団体でものづくりに携わる人を募集していることを知り、応募しました。

西川さん:その団体では地域の木材を使ったものづくりを行っていて、レーザー加工の担当になりました。パソコンでデータをつくるのですが、素材の硬さや厚みによって加工できるもの、できないものがあるんです。さまざまな素材の特徴や加工方法を一通り勉強しました。

s_img_0612念願だったものづくりを仕事にし、知識や技術を蓄えていった西川さん。しかし、補助金を元にした雇用だったため、2015年3月には退職せざるを得なくなりました。

西川さん:仕事は面白くなっていたところでしたが、レーザー加工機は高価ですし、ひとりでやっていく自信はありませんでした。でも、NPO経営者の細川恵子さんという女性が「せっかくスキルを身につけたのに、辞めるなんてもったいない」「応援するから続けよう」と言ってくれたんです。前職の同僚たちも応援してくれました。その熱意に背中を押され、細川さんと数人の仲間と一緒に会社を設立しました。

会社名は、Natural(自然)、Resource(資源)、Craft(工芸)の頭文字を取って、NRC株式会社と名づけました。「地域の資源を活かしたものづくりをしていこう」という想いが込められています。

西川さん:最初はレーザー加工機の購入に助成金を申請しようかと検討したんですが、条件に合うものがなくて。「ゆくゆくは自分たちだけで回していかなくちゃいけないし、最初から自己資金で何とかしよう」と考え直しました。経営はカツカツですが、自分たちでお金を出し合ったことで、会社として続けていく覚悟ができました。

伝統文様を施した木製品

image1NRCを立ち上げて最初に製作したのは、伝統文様のランプシェードでした。

西川さん:前職のときもこうした和柄の小物入れを製作していたんですが、そこにライトを入れたら綺麗なんじゃないかな、と思って。伝統文様って、それぞれ意味があるんですよ。たとえば麻の葉はまっすぐぐんぐん伸びていくので、子どもの健やかな成長を願って初めて着る着物に使われていたそうです。唐草は途切れず続いていくので子孫繁栄という意味もあるけど、悪い縁も繋いでしまうと言われています。意味を知ると、見方が変わってきますよね。

s_img_0593小物入れ、ペン立て、カードケース、キーホルダー。自分や周囲の人たちがほしいと思うものを製品化していきました。

西川さん:本当はこの地域に豊富にある間伐材を使いたいんですが、こちらが希望する大きさや薄さに製材してくれる業者が少ないんです。地元の木材を使う割合は全体の数%ですね。小ロットなので、特別対応をしてもらうのは中々難しくて。でも、できるだけ岩手県産の木材を使うようにしています。

s_img_0633また、MDFという木の繊維でできた板も使用。MDFにレーザーで切り込みをいれると、柔らかく曲がるようになります。その表面に突板を貼り付けた小物入れは、イベント等に出展するとお客さんから驚かれるそう。柄の違うものを数種類買っていく人もいるといいます。

 

2016.11.20