物語前編

株式会社ループラスは、布ナプキンや女性のための防災セットを製作・販売する会社です。運営するのは、岩手県内陸部にある紫波町で暮らす4人の主婦。被災地へのボランティア活動を通して「避難所暮らしで大変だったのは、トイレや下着にまつわること」という話を聞き、布ナプキンの製作を始めたといいます。代表の細川恵子さん、スタッフの原田恵子さんに、活動の軌跡を伺いました。

福祉作業所や個人宅に物資を届ける

右が細川さん、左が原田さん

右が細川さん、左が原田さん

細川さんは障害児のデイサービス事業を提供する『NPO法人紫波さぷり』の代表です。原田さんはそのサービスの利用者でした。

東日本大震災が起こると、細川さんはすぐに社会福祉協議会が設置したボランティアセンターを経由して支援活動を開始。そこに集まったメンバーと一緒に『紫波ボランティアグループてんとうむし』を立ち上げ、被災地へ物資を運ぶようになりました。

原田さん:隣に住んでいる人のご実家が被災地にあることを伝えると、細川さんはすぐに物資を届けに行ってくれました。まだ道がどうなっているかもわからず、住所の通り辿り着けるかもわからない中でのことだったので、その行動力に感嘆して、「この人についていこう」と思いました。

細川さん:主要な避難所には物資が届いていたけれど、福祉施設や個人宅には物資が不足していました。あの頃は、家が半壊した方々は「うちはまだマシだから」と遠慮して物資を取りに行けなかったんですね。

大きな避難所は大きな支援団体に任せて、私たちのような小さな団体は手が行き届いていないところを支援しよう、そういう活動がたくさんあることが重要なんだ、と考えました。

しばらくの間は毎週末のように、大槌、陸前高田、田野畑といった沿岸部へと車を走らせました。メンバーに子育て中の母親が多かったことから、こども服も集めて届けたそう。幼稚園にクリスマスツリーを送ったときは、特に喜ばれたといいます。

原田さん:また、紫波町には大槌町からの避難所があったため、そこでのサロン活動も実施しました。ハンドマッサージで手に触れながら話をすると、最初は恥ずかしがっていた人も自然と心を開いてくれるんです。

同じ境遇の人同士だと、「お前も大変だったかもしれないけど俺も大変だったんだ」となりがちで、かえって話がしづらいそうなんですね。全く違う立場の私たちだからこそ話しやすかったんだと思います。

女性の体と環境に優しい布ナプキン

s_img_03462012年に入ると、被災地の状況も落ち着きはじめ、物資の需要は減っていきました。次に必要となったのは、被災した女性たちが取り組める仕事です。それまでも、現地の方がつくったストラップ等を販売するお手伝いはしていました。継続して売れるもの、仕事として成り立つものを開発できないだろうか……?そう考えていたときに出会ったのが、布ナプキンだったといいます。

原田さん:メンバーのひとりが「生理痛が緩和する」と聞き、布ナプキンを使っていたんです。そのご縁から布ナプキン作家さんにお会いして、つくり方を教えていただきました。

布ナプキンは使い捨てのナプキンと比べてゴミが減らせます。環境に優しいし、女性の体にも優しい。下着の替えとしても使えるから、防災という点でも優秀です。震災後に女性がつくる製品としてぴったりだと感じました。

「避難所暮らしで大変だったのは、トイレや下着にまつわること」。原田さんたちはボランティアをする中で、被災者からよくそんな話を聞いたそう。生理用品や下着の数は足りず、物資として届いてもすぐに無くなってしまいます。布ナプキンも送られてきましたが、使い方がわからず最後まで残っていたといいます。

原田さん:布ナプキンなら生活用水さえ確保できれば洗って何度でも使えます。また、普段から布ナプキンを使っていれば、いらない衣類の端切れで代用する、という発想も生まれますよね。そういったことも含めて伝えていけたら、と思いました。

s_img_0344つくり方を教えてくれた布ナプキン作家さんとの違いを出すため、形や大きさ、素材などで「自分たち独自のもの」を探求。ハンカチ型をホルダーに留めて使う形を取りました。ハンカチ型は『なぷ子』、ホルダーは『トメさん』と、名称も親しみやすいものに。普段使いできるおりものライナーの『ツネさん』も開発しました。

生地は何種類も取り寄せて触り心地を確かめ、一番気持ちよかったものを選んだそう。「下着を選ぶのと同じように、その日の気分に合わせて選んでもらえたら」と、さまざまな色・柄を用意しました。カラフルで可愛らしく、ハンカチのような見た目なので、外に干していても違和感がありません。

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商品としての形を整えた後、大槌や釜石の女性たちにつくり方を教え、生産をはじめました。2013年2月には『株式会社ループラス』を設立。本格的に販売していきました。

「女性であること」「母親であること」を活かして

s_img_0361「被災地の女性たちの仕事になれば」と始まった布ナプキン製作ですが、震災から時間が経つにつれて状況は変わってきました。被災地が人手不足で忙しくなったり、家庭の事情で続けられなくなったりと、ループラスの仕事を卒業する人が増えていったのです。

けれども、細川さんたちはそこで「活動を休止する」という選択はしませんでした。紫波町のメンバーで製作を続けることにしたのです。

原田さん:私たち自身が布ナプキンをとても気に入って、広めていきたいと強く思うようになっていたんです。実は最初に布ナプキンの話を聞いたとき、「洗って使うなんて絶対に無理」と思いました。でも、使ってみたらそれほど面倒ではなかったし、何よりあたたかさ、心地良さにやみつきになってしまって。今ではもう、つけていないほうが違和感を感じる位です。

細川さん:ここにいるのは、みんな子育て中の母親たちです。出産や育児をしながら、独身のときと同じように働くのは難しいもの。「女性が自分も家族も大事にしながらいきいきと働ける職場を実現しよう」と、目標がシフトしました。また、「働くことが困難な状態にあるすべての人をお手伝いしたい」という気持ちから、生地の裁断作業は福祉作業所に仕事として依頼することにしました。

s_img_0341布ナプキン・布ライナーの販売だけでなく、教室も開くようになりました。対象は小学4年生以上。自分が使うナプキンを自分でつくりながら、生理やナプキンにまつわる悩みを相談できるプログラムです。

原田さん:学校を訪問したり、子どもたちに話を聞いたりしてわかったのは、生理やナプキンについて詳しく教えてもらう場がないということ。保健の授業である程度は習っても、紙ナプキンの捨て方といった細かいことは教えてくれないし、一人ひとりの悩みや疑問に答えてくれるわけではありません。学校は家庭に任せたいと思っているし、親は学校で教えてほしいと思っている。それなら、近所のおばさんが教えるのがいいんじゃないかと考えました。

誤解のないように言っておくと、私たちは紙ナプキンを否定しているわけではありません。ただ、布ナプキンを使うことで、かぶれやかゆみ、重い生理痛が改善した人を何人も見てきました。悩んでいる人に、「こういうのもあるよ」と伝える機会になれば、と思っています。

教室は新聞に取り上げられて話題となり、あちこちから声がかかるようになりました。子どもを持つ母親だからこそ気づけること、女性同士だからこそ話せること。自分たちの強みを活かした仕事が生まれたのですね。

2016.11.4