物語前編

「時間や手間がかかっても、注文してくれた方が気に入ってくれるものをつくりたい」。震災で仕事を失った斉藤佳子さんは、ママ友たちと一緒に『布さんだる O.B.N』を立ち上げました。丁寧につくられた布さんだるは、多くの人に愛されています。

気が紛れる何かを欲していた

¥IMG_8105斉藤さんはふたりの男の子を持つ母親です。石巻市の渡波で暮らし、震災前は女川町にある実家の八百屋を手伝っていました。しかし、津波によって実家は全壊。斉藤さんは、懐かしい家と仕事を失いました。

知り合いから「余っている支援物資を使って、布ぞうりをつくらないか」と声をかけられたのは、震災から3か月が経った頃のことです。布ぞうりとは、家の中でスリッパ替わりに履ける草履のこと。手づくりが好きなママ友ふたりを誘って、活動に参加しました。

斉藤さん:みんな震災で仕事を失っていたので、とにかく何かしたかったんです。時間もあったし、何もしないで家にいるよりも、気が紛れる何かを欲していたんですね。

s_11390538_295300103927098_869128777807765549_nその後、斉藤さんたちは「自分たちのペースで活動したい」と団体から独立。自分たちがつくる布ぞうりを『布さんだる』と名付け、『布さんだる O.B.N』として活動を始めました。ちなみに、O.B.Nという名前の由来は「メンバーの秘密」だそうです。

斉藤さん:震災の年の9月から、布さんだるをイベントで販売するようになりました。最初は「5足位売れたらいいかな」と思っていたんですが、次の日の分が無くなる位売れたんです。復興とは関係ないイベントだったので、製品そのものを評価してもらえたんだな、とすごく嬉しかったのを覚えています。

困っていると、どこからか声が掛かる

¥IMG_8082布さんだるが現在の形に落ち着くまでは、試行錯誤の日々が続いたといいます。

斉藤さん:最初に教えてもらったつくり方だと、土台がふにゃふにゃしていてすぐに脱げてしまったんです。「こんなの履けない」とクレームが届いて、「じゃあ改善しよう」とみんなで知恵を絞りました。

最初に試したのは、踵にストラップをつけること。可愛らしい見た目なので目を惹きましたが、「履いたり脱いだりが面倒」という声もあり、製作する手間も倍かかっていたため、別の方法を試すことに。

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初期に製作していたストラップつき布さんだる

斉藤さん:土台の中央にロープを二本通し、鼻緒をしっかりと締めることで、クシュクシュバンドがなくても安定感があり脱げにくい布さんだるになりました。

また、いつまでも支援物資に頼ってはいられないと、自分たちで布地を購入して製作することにしました。布地はポリエステルやアクリルではなく、コットンを選んでいます。価格の安さよりも、肌触りの良さや適度な弾力性を重視しました。

斉藤さん:大変だったのは販路探しでした。私たちは全員普通の主婦だし、自分たちでつくったものを販売するなんて初めてだったんです。

でも、東北を応援するポータルサイト『応援もなか』でネット通販を始めたら、埼玉のパン屋さんが「うちでも販売させてください」と言ってくださって、そこで購入された方がまたお問い合わせをくださって……といった形で、少しずつ広がっていきました。

ひとつ1,800円(子ども用は1,300円)で販売しています

ひとつ1,800円(子ども用は1,300円)で販売しています

仙台にできた東北の情報拠点『東北ろっけんパーク』で取り扱われるようになったのも大きな飛躍の一歩になりました。布さんだるが売れるのはどうしても春夏ですが、『東北ろっけんパーク』では冬でもよく売れたといいます。

イベントで売れ残ってしまいどうしようと思っていると、どこからか声が掛かって売れていく。そういうことが何度も続き、とても助けられたそう。「縁ってすごいですね」と、斉藤さんは頬をゆるめながら話してくれました。

2016.8.11