物語後編

若い女性が働きたくなる場所をつくる

s_IMG_7102『HARIOランプワークファクトリー小高』は、東京・日本橋に本社を置くガラスメーカーHARIOランプワークファクトリー社(以下、HARIO-LWF)のガラスアクセサリーをつくる工房として2015年11月にオープンしました。

きっかけとなったのは、南相馬へボランティアに来ていたHARIO-LWFの職人との出会いです。雑談をする中で小高にガラス工房をつくるというアイデアを思いつき、翌週には本社を訪問して社長に直談判しました。

和田さん:避難指示が解除されても、小高に戻ってくるのは高齢者ばかりと言われています。若い人に戻ってきてもらうには、まちに魅力ある場所、働きたくなるような職場が必要だと考えました。

実際につくり手を募ると予想以上に反応があって。現在は20代から60代までの女性6人が働いています。女性たちが集まって楽しそうに働いている風景があるだけで、住民の気持ちは変わるんじゃないかと思っています。

s_IMG_7110現在『HARIO-LWF小高』の製品として販売しているのは、スタンダードなアクセサリー数種類。プレートには“ODAKA”の文字が刻印されています。

HARIO-LWFの規格を満たす製品をつくれるようになるまでは時間もかかるそう。女性たちは日本ガラス細工技能者協会による技術研修を受け、練習を繰り返して腕を磨いています。少しずつ製作できるアクセサリーのレパートリーを増やし、ゆくゆくは小高オリジナルの製品を開発することも視野に入れているといいます。

s_IMG_7145和田さん:つくり手さんの中には、これで生計を立てようという人もいれば、純粋にものづくりを楽しみたくて取り組んでいる人もいます。それぞれが必要とするだけのお給料を払える工房にしたいですね。

女性はもちろん男性がプレゼントを買いに来ることもありますし、遠方から来る人もいて、売上は上々です。魅力あるものをつくれば、小高でも充分ビジネスはできる、と確信しています。

小高は現代日本の新しいフロンティア

s_IMG_7081小高区は2016年7月12日に避難指示が解除となります。5年ぶりに暮らせるようになる日を間近に控えたいまの心境を伺いました。

和田さん:先日はJRが試運転を行ったし、以前あったお店も徐々に戻ってきています。まちが前を向きはじめたという感覚がありますね。

翌年4月に学校が再開したら、和田さんは家族を小高へ呼び寄せるつもりでいるとのこと。「戻る」という決断に、迷いはなかったのでしょうか。

和田さん:放射能の話でいうと、実際に周辺を測って確かめました。このあたりの数値はいま、毎時0.15μSv前後。福島のほかの町とそう変わりません。

また、僕たちは内部被曝検査を定期的に受けていて、そのデータはすべて公開されています。高い数値が出た人もいるけれど、その人は山菜や猪を食べていたということがわかっている。だったらそれを避ければいいわけです。

原発も見学に行き、「もう一度爆発することはない」という結論に至ったそう。
きちんと調べて対策を練れば、何も恐れることはない。和田さんはそう続けます。

s_IMG_7203和田さん:避難指示が解除されるといっても、「こんなところに住むなんて非現実的だ」とネガティブな印象を抱いている人がほとんどだと思います。でも、小高は「一旦住民がゼロになったところから、新たに町をつくる」という経験ができる場所でもあるんです。

30代、40代という人生で一番脂の乗った時期にそういう仕事にチャレンジできることはすごく面白いし、やらない理由はありません。そうすることが、家族を一番幸せにできる選択だとも思っています。

どこにも前例がない道に挑戦しようとしている和田さん。世間一般でいう“安定”とは正反対の道ですが、なぜそれが家族の幸せにつながるのでしょうか。

和田さん:僕は、いまの時代に安定なんてないと思っています。大企業に入っても今後どうなるかはわからないし、今回の震災のようなことが起これば何もかも一変するでしょう。

だから、どんな環境でも、自分でサービスや価値を生み出したり、目の前の課題を解決したりできる力を身につけることが一番の安定だと考えています。そうすれば何があっても家族を守れるでしょう。小高は、そういう力を伸ばすには絶好の場所ですね。

s_IMG_7168避難指示解除後、小高には約千人の住民が戻ってくるだろうと予想されています。その人たちの暮らしを支えるサービスはまだまだ足りない状態。自分たちだけで何とかしようとするのではなく、「起業したい」という若者を招きいれて、サポートしていきたい。和田さんはそう話します。

和田さん:ほかの町で起業しようとすると、既存のコミュニティに入らないといけなかったり、競合がたくさんいて商売が成り立たなかったり、とさまざまなハードルがあると思います。でも、全てが一度ゼロになった小高にはそういった障害がないんです。「何もしなければ町が消滅してしまう」という危機感を全員が抱いているので、若者の挑戦をみんなが応援してくれます。

ここは言わば、現代日本の新たなフロンティアです。どんな町もかつては原野で、誰かひとりが開墾することで栄えていきました。そういうプロセスを楽しめる人がいたら、ぜひ僕たちの仲間になってほしいです。

100の課題を100のビジネスにする。それが和田さんの掲げる理念です。これからの数年で、小高には次々と新しい物事が始まることでしょう。楽しみに見守りたいと思います。

 


小高ワーカーズベースHP:http://owb.jp/
HARIOランプワークファクトリー小高 ウェブショップ:http://store.shopping.yahoo.co.jp/iie/beaeb9e2a5.html

2016.6.16