物語前編

原発事故によって大きな打撃を受けた福島の林業。2010年に124億円あった林業産出額は、翌年には87億円へと減少しています。「消費者に近いところにいる自分たちが、福島県産材のPRをしていこう」——伊達市の木製建具・家具メーカー『白井木工所』4代目の白井貴光さんは、仲間と共に県産材を使ったものづくりを始めました。
福島のために、自分たちができること
伊達市は福島県中通りの北部にある都市です。東日本大震災では震度6弱の揺れに見舞われました。白井さんの自宅は半壊し、工場も機械が壊れるなどの損害が出たといいます。
白井さん:ただ、私たちは風評被害の影響はそれほど受けなかったんです。県産材に限らず輸入材も扱っていたし、工場内の放射線量は問題ありませんでしたから。
しかし、林業が受けた打撃は深刻です。元々地域材の活用に関心があったこともあり、東京大学で開かれた木材利用に関する勉強会に参加しました。
地域材を活用すると、輸送過程の環境負荷が減り、地域の林業が潤います。勉強会で地域材を使うことの重要性を学んだ白井さんは、千葉、栃木、東京の若手事業者たちと一緒に『伊達クラフトデザインセンター(DC2)』を立ち上げました。
伊達を拠点にしたのは、「まずは大変な状況に置かれた福島の木材活用を考えよう」と意見が一致したからです。
福島県内の製材所は福島県木材協同組合連合会が定期的に検査していて、事業者側も独自に厳しい基準を設定して自主検査しています。自分たちでも検査をした結果、安全性には問題ないことがわかりました。
白井さん:加工技術を持つ私たちにできることは、魅力ある製品をつくって県産材をPRしていくこと。そう考えて、製品開発に乗り出しました。
伝統技術をどう活かすか
白井さんの父親の白井司一さんは、組子細工の名工です。組子細工とは釘を使わずに木と木を組み合わせてさまざまな模様を表現する伝統技術のこと。1000分の1ミリ単位の精度で加工するため、つくりだすことができるのは熟練した職人だけです。白井木工所ではこの技術を活かし、和室の障子や欄間の装飾を請け負ってきました。
しかし、洋風建築の普及に伴い、組子細工の仕事は徐々に減少していきました。歴史ある伝統技術がこのまま途絶えてしまうのは惜しい。そうした想いから、白井さんたちは組子細工を身近に楽しめるインテリアアイテムを開発しました。

商品名は『伊達KUMIKO』。建具に比べて気軽に購入できる大きさ・価格です
白井さん:伝統的な製品も、そのままつくり続ければいいというものではありません。暮らしや文化は時代と共に変化していきますから、昔と同じことをしても先細りしていくだけです。だから、「この技術はどんな風に活かせるだろう」と考えて、時代に合ったものを生み出していく。そうやって伝統技術を残していくのが私たちの使命だと思っています。
スギの木目を活かしたスピーカーやヒノキが香るぐい呑み、子ども向けの遊具に木の折り紙。白井さんたちは、メンバーそれぞれの得意分野を活かし、次々と新しい製品づくりに挑戦していきました。木造の住宅や製品を選ぶと付与される『木材利用ポイント』の交換製品にも選ばれ、好評を博しています。
白井さん:自社だけでは日々の仕事に追われて取り組めなかったりするものですが、こうして会社の垣根を越えて各社の技術を集結し協力しあうことで実現することができました。やってみると自分たちでも驚くような発見があり、ものづくりの面白さや行動に移すことの大切さを実感しています。
(後編に続きます)
2016.6.15