物語

東北マニュファクチュール・ストーリーでは、震災後に東北で生まれたものづくりを紹介してきました。これまでに訪問した現場は60以上。どの現場でも、製品の裏にかけがえのない物語があることを知りました。その物語は、現在進行形で綴られているものばかりです。
以前訪れた団体は、いまどんな風に変わっているでしょうか。私たちは、取材後に変化があった団体を取材し、「その後」として記事にまとめていくことにしました。今回は、『會空』(あいくう)のその後をお届けします。
海を越えパリでも愛された『あいくー』

右から『あいくー』『しまくま』『しまくー』。『あいくー』は、大熊町のマスコットキャラ『おおちゃん』『くうちゃん』がモデル。
『會空』は、大熊町から会津若松へ避難してきたお母さんたちによるものづくりチームです。自分たちを優しく受け入れてくれた会津への感謝を込めて、伝統素材である会津木綿で『あいくー』『しまくま』『しまくー』といったくまのぬいぐるみを製作しています。
前回取材したのは2013年5月のことでした。あれから2年、『あいくー』たちはたくさんのところに飛び立っていったようです。
そのひとつが、パリで開かれる国際見本市メゾン・エ・オブジェ。『あいくー』は、2014年1月に福島ブースのマスコットキャラクターとして参加しました。バイヤーからのアンケートでは、30弱参加していた福島の団体の中でダントツ1位の好評価だったといいます。
庄子さん:手探りで活動してきたけど、こうして評価していただいたことで、「これでいいんだ」って思うことができました。「このままやっていこう」と自信を持てたんです。
同じく2014年の1月から2月にかけて、JALの国内14の空港ラウンジに可愛らしい『あいくーツリー』が展示されました。マイレージポイント交換品にもなり、庄子さんたちは嬉しい悲鳴を上げながら製作に励んだのだとか。

JALバージョンの『あいくー』
知名度が高まるにつれて、オリジナル製品の製作依頼も舞い込むようになりました。動物介在教育を行っている立教女学院小学校の学校犬バディや、バディの後輩で震災保護犬のウィルをモデルにしたぬいぐるみをつくったときは、学校関係者からとても喜ばれたそうです。
また、おもちゃメーカーからの依頼でお手玉や布絵本などの製作もしているそう。『あいくー』の製作で培った技術を元に、さまざまなことに挑戦しているのですね。

学校犬バディのぬいぐるみ。4本足で立つようにバランスを取るのが難しかったそう。
ここで、メンバーのひとりである三瓶美和さんが工房にやってきました。三瓶さんは庄子さんの姪の友人で、もう30年の付き合いになるそう。「まさか一緒に仕事をすることになるなんて」と2人は笑って話します。
庄子さん:こっちで再会して、「何もやっていないなら一緒にものづくりしよう」って誘ったの。未経験だったけどね、「これでもかこれでもか」と食いついてスキルを上げていったのよ。いまではもうすっかりプロ。『しまくま』なんて私より上手ですから。

三瓶さん:購入してくださった方から修理を頼まれることがあるんです。「汚くなったからもういいや」と捨てるんじゃなくて、「修理して手元に置いておきたい」という気持ちが嬉しいですね。愛情を持ってくれているんだなぁと感じます。
庄子さん:『土澤アートクラフトフェア』に毎年出ているんですが、毎年買ってくれる人がいるんですよ。1年に1匹ずつ増えていくんですね。昨年は幼稚園ぐらいの男の子がじぃっとあいくーを見ていてね、一度は親に連れられていったんですけどまた戻ってきて、おばあちゃんにねだって買ってもらっていました。「包みますか?」って聞いたら「いい」って抱いて帰って。
「目が合っちゃったらもうだめ」ってよく言われますね。
「机に飾っていつも眺めています」「一緒にいろんなところへ出かけています」——購入者から届くメールや手紙が、『會空』のメンバーにとっては何よりの励みになっているようです。
町民の95%が住んでいた地域が帰宅困難区域に指定されている大熊町。庄子さんの自宅は除染で生じた廃棄物を処理する中間貯蔵施設の建設予定地にあり、取り壊しが決定しました。
“私たちの帰れない故郷につながる会津の空”。『會空』という名前にはそんな意味が込められています。私たちは故郷の大熊町を忘れない。みんなにも忘れないでほしい。変わらぬ想いを託して、庄子さんたちは『あいくー』をつくり続けます。
庄子さん:よく、「苦しい状況の中、それをバネにして歩き出したのがすごい」と言われるんですが、それって当たり前のことですよね。転んだら起きなくちゃいけないでしょ。
でも、今があるのは色々な方たちが手を差し伸べてくれたおかげ。震災がなければ、自分たちだけの狭い世界で暮らしていました。こうして放り出されて初めて、人とのつながりがいかに大事かわかったんです。だからもう、感謝しかありません。
INFORMATION
2016年7月30日・31日、東京国際フォーラムで開かれる『日本テディベア with Friends コンベンション』に『會空』も出展します。あいくーたちや庄子さんに会いに行きませんか?
■會空
WEB SITE:https://www.facebook.com/會空-473517766076706/
WEB SHOP:https://deriolabo.wordpress.com/
TEL:090-9704-9622
前回の取材記事:http://www.tohoku-manufacture.jp/story/007_story_first.html
2016.5.31