物語前編

気仙沼駅から歩いて3分ほどの裏通りに、2015年11月、『aqua labo kesennuma』がオープンしました。気仙沼の海をイメージしたハンドメイドアクセサリーを展示販売するお店です。店主の菅原理香さんは、震災のときお世話になった方に贈るため、ものづくりを始めたといいます。

気仙沼を思い出してもらえるものを贈りたい

s_11863505_942373589154441_3304542441111463836_n菅原さんは中学生の子ども2人を持つ主婦です。震災時は津波が届かないエリアに住んでいたため被災を免れました。「何か自分にできることをしないと」と考えた菅原さんは、物資の支援拠点を個人で運営することに。生活用品などそのとき必要とされていた物資をネットに書き込んで全国から送ってもらい、道行く人に配りました。

菅原さん:うちは無事でしたが、主人の実家は全壊し、義理の家族が3人犠牲になりました。じっとしていると泣いてしまうので、動かないとだめだと思ったんです。4月から8月まで毎日、送っていただいたものを仕分けして整理して、ということをしていました。たくさんの方が力を合わせて支援してくださって、ありがたかったです。他県から何度も気仙沼に来て、配布を手伝ってくれた方もいました。

ご主人の職場も流されたため、9月からは菅原さんも外へ働きに出ることに。気仙沼復興協会に入り、仮設住宅でお茶会を開いて被災者の傾聴をする仕事に従事しました。中でも、ものづくりのワークショップを取り入れたお茶会が人気だったといいます。

菅原さん:暮らしが落ち着いた頃、震災のときお世話になった方々に手紙と一緒に何か気仙沼らしいお礼の品を贈ろうと思ったんです。でも、「これだ」と思うものがなくて。仕事でものづくりに携わっていたのもあって、自分でつくってみることにしました。

s_IMG_5564遠くにいても気仙沼のことを思い出してもらえたら。そんな想いから、製作するものはビン玉というガラス製の漁具をイメージしたキーホルダーにしました。
ビン玉は漁網を浮かせる目的や目印として使われるもので、浮き玉とも呼ばれます。「沈まない」「浮き上がる」という点が、復興支援のお礼としてぴったりだと思ったそう。気泡の入ったビー玉を糸で包んで再現しました。

菅原さん: 色違いで数種類つくったんですが、贈った方から「全部ほしい」と嬉しい言葉をいただいて。周囲に見せても「これは製品として売った方がいいよ」と想像以上に好評だったので、続けて製作することにしました。

サメの歯や漁具もアクセサリーに

s_IMG_5582仕事を辞めてものづくりに専念することにした菅原さんは、2013年1月にブランド名を『aqua labo kesennuma』と決め、本格的に動きはじめました。一ヶ月かけて、自力でネットショップを製作。並行して、新しい製品を開発していきました。

たとえば、サメの歯を樹脂で閉じ込めたバッグチャームやブックマーカー。気仙沼はフカヒレ生産日本一の町です。抜けてもすぐに生え変わるサメの歯は、“再生”の象徴として、昔から漁師たちの間で魔除けやお守りにされてきました。とても気仙沼らしい製品なので、菅原さん自身も気に入っているといいます。

s_IMG_5587また、地元の漁具屋と知り合った縁から、スナップという漁具を使った小物も製作しました。キーホルダーやバッグチャームとして使うことができます。菅原さんには漁具が材料の宝庫に見えるのだとか。

菅原さん:素材から閃いて製作することもあれば、「こういうのがあったらいいな」と思い浮かべてそれに合う素材を探すこともあります。アイデアは突然降ってくることが多いですね。次の日のイベントに出す製品を徹夜でつくっているときに、ふと閃いてつくってみたりして。そうやってできたものが好評ですぐ売れたりするので、ものづくりは面白いです。

2016.4.7