物語後編

女川での新たなスタート

s_IMG_49642015年10月、『南三陸石けん工房』は女川のきぼうのかね商店街へと移転しました。それまでは南三陸で空き屋になっていた古民家を使っていましたが、駐車スペースが一台分しかなかったため、複数の来客に対応できなかったのです。立地や設備の不便さもあり別の場所を探しましたが、南三陸にはちょうど良い空き物件がありませんでした。

厨さん:2017年3月には南三陸に新商店街ができますが、それまでの間事業を止めるわけはいきません。悩んでいたときに、女川町商工会の方から「仮設商店街に空きがあるよ」と声をかけられたんです。

南三陸で4年間過ごして愛着も持っていたので、離れるというのは苦渋の決断でした。でも、女川で事業を大きくしていつか南三陸に帰ってこれたらと思い、最終的に移転することを選びました。 

s_IMG_4938ふたつの地域で活動して、厨さんは「南三陸には南三陸の、女川には女川の良さがある」と実感したといいます。

女川町では震災後、「復興には何十年という時間がかかる。それを背負って立つのは若者だ。だから、いま60歳以上の人間は若い奴らのすることに口を出さないようにしよう」という共通認識が生まれたそう。年齢や地縁に縛られることなく、勢いのある事業者をどんどん呼び込み、地域全体を盛り上げようという機運が高まっています。

厨さん:ここの人たちは、みんなで稼ごう、みんなで町を盛り上げて行こうという意識を持っていて、町全体がひとつの会社のような一体感があるんですね。僕のように外から来た人も区別せず応援してくれるし、チャンスがあれば紹介してくれます。だから僕も、この町にちゃんと何かを返せる工房にしたいと思っています。

「応援してよかった」と思ってもらえるように

s_IMG_4991現在、『南三陸石けん工房』には、震災後に東北でボランティアを続けていた女性と、化粧品会社に勤めていた男性が働いています。目標は20人の若者を雇用すること。実際に、若者から「働きたい」と問い合わせがくることもあるそう。

厨さん:楽しいと思うんですよね、石けんのいい香りに包まれて、カラフルなものをつくって。これから海外展開もしていくので、職種としても色んな機会を提供できると思います。

旅行好きで20代の頃に15か国を回ったという厨さんは、事業を構想する段階から「ゆくゆくは海外で販売しよう」と計画していました。既に台湾の企業から声がかかり、製品を卸す方向で打ち合わせをしているとか。

厨さん:思ったより早く実現しそうで驚いています。売上も計画より上回っているし、東京のソラマチや仙台駅など卸先も増えてきました。当初想定していたよりも順調に物事が進んでいますね。

s_IMG_4935『南三陸石けん工房』が事業としてある程度成功したら、地域の素材を活かし若い女性の雇用を生む場として、ほかの地域でも展開したいと考えているといいます。震災によって大きな打撃を受けた東北から全国が注目する事業が生まれたら、多くの人に勇気を与えるのではないでしょうか。

厨さん: ずっと支援の対象でいちゃいけないし、貰った恩は返さないと。いままで応援してくれた人たちに「応援してよかった」と誇ってもらえるような工房にしたいんです。「あの工房さ、俺が支援したんだよ。最初はボロい古民家で石けんつくったのに、まさかこんなに立派になるなんてな、すごいよな」って。それが一番の目標ですね。

 


南三陸石けん工房
サイト:http://www.i-local.co/
FBページ:https://www.facebook.com/minamisanrikusekken/

 

2016.3.18