物語後編

効率の良さや安さを追い求めるのではなく

s_IMG_3472当初の計画では、製品はバッグの製造過程で出る革の端材を活用する予定でした。しかし、ベルトは長さがあるので、全て同じ革の端材で揃えることはできず、さまざまな革が混ざることになります。それでは品質が安定せず百貨店で取り扱ってもらえないため、革を購入することにしました。

ただ、端材を使わなくなったわけではありません。革を編み込み色違いのチャームをつけたキーホルダーやブレスレットなど、小さな製品も開発して端材を活用しています。値段も500〜2,000円台とお手頃で、気軽に買える商品として人気になりました。

また、製品だけでなく数種類のワークショップも開催しています。たとえば、好きな色の革のパーツをつなげてベルトをつくるワークショップは、完成度の高い製品が短時間でできるので好評です。

丹野さん:「つなぐ、編む」という行為って、本能に近いものがあるような気がします。夢中でつくって完成した後にもう1本作りたいという人もいますね。老眼になると、縫ったり編んだりという細かい作業が辛くなってきます。でも、このワークショップはパーツをつなぐだけなので年配の方も楽しんでくれています。

s_IMG_2289お絵かき感覚で小さな端材を貼って革のチャームをつくるワークショップはこどもに大人気。こどもたちは豊かな想像力で小さな丸や四角のパーツから花や動物の顔を生み出し、その発想の豊かさに周囲の大人たちも舌を巻くのだとか。

丹野さん:子どもたちは敏感で、素材の違いも感じ取るんです。手触りや柔らかさを比べて、「これとこれ、何か違うね」って。やっぱり、人工的な素材にはない温かみを感じるんでしょうね。

ものづくりに携わる人間としてこだわっているのは、効率の良さや安さを追い求めすぎないこと。触り心地のいい天然素材を使い、つくり手もお客様も楽しめる製品を生み出していきたいと思っています。

1人でも喜んでくれる人がいる限り、続けていきたい

s_IMG_2317現在は二ヶ月に一度位の頻度で福島市に帰っているという丹野さん。『輪プロダクツ』の工房に立ち寄ると、気持ちが和むのだといいます。

丹野さん:佐野さんは茶目っ気があって素敵なおじさまで、今年76歳になるとは思えないくらい元気なんですよ。センスもいいので、色合わせを相談することもあります。飯館弁なので時々言っていることがわからないこともあるんですが(笑)田舎のおじちゃんの家に遊びに来たような感覚になりますね。

工房にはこたつがあり、作業が終わった後はみんなでお茶をするそう。家ならではの居心地の良さがあるのでしょうね。

丹野さん:工房は週に1度、飯館から避難してきたお母さんたちのグループにも貸し出しています。公民館を使っていたけれど、無機質であまり居心地が良くなかったみたい。お茶を飲みながら作業できる場所を探していたので、うちの工房はぴったりだと思いました。彼女たちが来る日は、いつも笑い声が絶えないそうですよ。

生まれ育った故郷に帰れず、家族とも離れ離れになり、それぞれに複雑な事情を抱えているであろう人たち。でも、決して泣き言を言わず、明るく逞しく前を向いています。そんな姿に、丹野さんも勇気づけられているとか。

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丹野さん:会う度に元気やパワーをもらっているんです。それが私にとっては大きな見返りですね。

輪プロダクツの活動は当初想定していたよりも小規模になったし、うまくいかないこともたくさんありました。でも、佐野さんやお母さんたちは楽しんでくれているし、多少は役に立てているんじゃないかと思います。活動を辞めてしまったら、そうしたつながりも無くなってしまう。だから、1人でも2人でも喜んでくれる人がいる限り、頑張って続けていかないと。

最終的に目指しているのは、福島でたくさんの雇用を創出すること。そのために、もっともっと多くの人に商品を手に購入していただき、事業を拡大したいと思います。

大きな目標に向かって、丹野さんは着実に歩みを進めています。

2015.11.18