物語後編
『ゲラメモ mini』と『東北和綴じ自由帳』
2014年9月、A6サイズの『ゲラメモ mini』が登場しました。赤、青、緑、黄色の4色展開で、価格は税込594円。お洒落な白のパッケージも手づくりです。
製作パートナーは、岩手県沿岸部を中心に支援活動をしながら、遠野市で福祉施設を運営する『遠野まごころネット』。『さぽーとセンターぴあ』と同じように、被災地で生活する人々に寄り添って復興を支えていこうと考えました。
松山さん:『ゲラメモ』は「使うのがもったいないからとっておく」という方が多かったため、『ゲラメモ mini』は気軽に使ってもらうことと使いやすさを意識し、シンプルなつくりで価格を抑えました。中のゲラは、書籍のゲラのほかに地元の新聞やフリーペーパーのゲラを活用しています。親しみやすい製品になったんじゃないかなと思います。
2014年ほぼ同時期には、『ゲラメモ』のコンセプトに共感したリクルートホールディングス社から声をかけられ、『東北和綴じ自由帳』の企画にも協力しました。
ノート部分は、ゲラではなく日本製紙の石巻工場で生産された優しい風合いのマット紙『b7バルキー』を使用。187人のクリエイターがボランティアで表紙をデザインしています。『PRe Nippon』が担当したのは、福祉事業所とのコーディネート。南相馬や釜石だけでなく、東北にある14の福祉事業所と連携して製作しました。
『東北和綴じ自由帳』はリクルートホールディングス社主催の展覧会やネットを通じて9500冊以上売れ、2015年度のグッドデザイン賞も受賞しました。「東北の方々から元気をもらいました」「こうして被災地とつながる機会をいただけて嬉しい」と感想が寄せられ、たくさんの人に知ってもらうきっかけになった様子。期間限定の企画でしたが、一部の事業所では身につけた技術を元に新たな商品の開発も準備しているといいます。
松山さん:実は、自分の母も障がい者福祉の仕事に携わっているんです。仕事としてそこに関わるとは思ってもいなかったのですが、『PRe Nippon』に参加することになって、「結局ここに帰ってきたか」という感じで。
だから、いままで福祉業界に関わったことがないクリエイターさんや多くの人たちが『東北和綴じ自由帳』に参加してくれたことが、感慨深かったですね。
コミュニケーションツールとしての『ゲラメモ』
平原さんや松山さんにとって、ものづくりは初めての挑戦でした。『ゲラメモ』を通して、0からひとつのものをつくりだす楽しさと難しさ、両方を感じたといいます。
平原さん:最初の頃、売れ行きが芳しくなくて、『さぽーとセンターぴあ』のみなさんに申し訳ない気持ちでいっぱいだったんです。一時的なプロジェクトにはしたくないと思っていたのに、結局は現場をかき回してしまったのかな、って。
でも、購入してくださる方はとても深く共感してくださる方が多いんです。嬉しいメッセージをいただいたり、大量にまとめ買いしてくれたり。それを報告すると、『さぽーとセンターぴあ』のみなさんもとても喜んでくれて。『ゲラメモ』は、たくさんの人とつながるコミュニケーションツールなんだな、と思いました。
デザイン性が高くコンセプトもはっきりした『ゲラメモ』は、これまでに何度か結婚式の引出物に選ばれてきました。実は、平原さんが結婚するときも、オリジナルの『ゲラメモ』をギフトにしたそう。両家とも音楽が好きだったため、最初の数ページには家中からかき集めた手書きの楽譜を差し込みました。今後はこうしたパーソナルな落書きやメモを使ったオーダーメイドの『ゲラメモ』をつくるサービスも展開していこうと準備しています。
平原さん:『PRe Nippon』の“PRe”には、“PR”“RE”“PRE”という単語が入っています。“これから”の日本のために、素材、地域、仕事、伝統を“再生”させて、“PR”していこう。そんな意味を込めました。ものづくり単体で勝負するのではなくて、意識を醸成したり、人と人とをつなげたり、コミュニティをつくったり…。それが私たちにできることなんじゃないかな、と考えるようになりました。
課題を抱えた地域や福祉事業所と全国の人々が、『PRe Nippon』をハブにしてつながっていく。平原さんはそんなビジョンを描いているといいます。これまでは任意団体でしたが、2015年末には一般社団法人化する予定です。
平原さん:こういう活動をしていると、「偉いね」って言われたり、ボランティア精神に溢れた人に見られたりするんですが、「違うの、そうじゃないの」って思います。だって、こんな風に社会と関わるのって、楽しいじゃないですか。「楽しいよ」って言いたいんです。
「復興を支援したい」という気持ちもあるけど、自分たちがわくわくできるかどうかをとても大事にしています。そうじゃないと疲弊しちゃうし、「あなたたちのために頑張っています」なんて押しつけたら、福祉事業所のみなさんだって困るでしょう。
出会った方々との関係を大事にしながら、長く続けていきたい。いろんな人を巻き込んで一緒に楽しんで、新しい展開を探っていこうと思います。
2015.11.17