物語後編
生まれ変わる美しさ
『恵プロジェクト』のつくり手は、ほとんどが裁縫初心者です。加藤さんは一人ひとりにミシンを教えながら、直線縫いさえできれば完成する商品を考えました。最初に誕生したのは、180〜220cmのストレートスカーフです。首に巻いたり垂らしたりとさまざまな着こなしができるよう、長めに取りました。
その次に開発したのは、袖を着けて腕を通せるようにしたタートルバックストール。ボレロにしたりドレープ巻きにしたりと、5種類以上の使い方ができます。縫い方は簡単でも、デザインに一工夫を加えて他の製品との差別化を図りました。
ネットショップのほか、作業場やイベントでも販売しています。購入者は8割が海外の方だそう。購入時に「応援しています」「台風の被害は大丈夫でしたか?」とメッセージを添えてくれる人も多く、励まされているといいます。
加藤さん:海外だと着物は珍しいし、ヴィンテージを大事にする文化があるから着物のリメイク商品は好まれるんです。ただ、色の感覚が日本とは違うんですね。日本人は絶対使わないような配色が受けたりします。向こうのセンスがわかるスタッフに相談しながらデザインしています。
シミや穴のある着物も、ほかの生地と縫い合わせたり、小物用に使ったりしています。スカーフ以外にも、ヘアバンド、バイブルカバー、テーブルライナー、ヘアピンと次々に新しい商品を生み出していきました。柄をどのように活かすか、生地をいかに無駄なく使うかを常に考えているそう。
加藤さん:『恵プロジェクト』のコンセプトは、“生まれ変わる美しさ”。長い間使われずに箪笥に眠っていた着物地が美しい布製品として生まれ変わること、大きな被害を受けた女川がより良い場所に蘇ることを目指して手仕事に励んでいます。
溢れ出た希望が広がっていく
現在、『恵プロジェクト』ではつくり手のお母さんたちのほか、カンボジアのスラムで子供の教育支援をしていた永井さん、ハーフのジュリアンさんなど、アメリカ人と結婚しているみきさんなど、さまざまな背景を持つ人が働いています。海外からインターン生やお客さんが来ることも多く、とても国際色豊かです。
ローナさん:福岡ではみんな優しかったけど、私はいつも外国人でした。でもここでは外国人じゃありません。みんなあたたかい気持ちで迎えてくれています。国、言語、性格、才能、みんな違います。でも、協力したらすごくいいこと、いいものができます。
すごくいい友達に恵まれて、一緒に生きることができて、人生で一番、いまが楽しい。たくさんの人が支援してくれているおかげで、こんな貴重な時間を過ごすことができています。朝起きるといつも神様に感謝しています。
メンバーはみんなユーモアたっぷりで、工房はいつも楽しい笑いで溢れています。誰かの歓送迎会や誕生日には、サプライズで楽しい悪戯を仕掛けるそう。
加藤さん:職場なんだか家なんだか、仕事しに来ているんだか遊びに来ているんだか、もうわかりません。
ローナさん:「聖書にも、笑いはとても良い薬になると書かれているんですよ。
震災後、精神的に不安定になりこどもに怒鳴ってしまっていたというつくり手の女性も、『恵プロジェクト』で働きはじめてから気持ちが前向きになったそう。働いて収入を得られること、裁縫というスキルが身につくこと、楽しく笑い合える仲間がいることで、安心して自分らしくいられるようになったといいます。
ローナさん:私たちがしたいのは、希望を渡すこと。形のないものだから「はいこれどうぞ、希望です」って渡すことはできないし、人によって何が希望になるかは違いますから、一緒に暮らしながら考えます。「いま女川には何が必要?」「この人には何が必要?」って、いつも考えています。
でも、そもそも自分たちに希望がなければ渡すことはできません。だから、まずは私たちが神様からいっぱいいっぱい希望や喜び、恵みを受け取ります。いっぱいあるから溢れ出て、広がっていく。そんな風にしてたくさんの人に希望を渡せたらいいな、と思っています。
2015.9.16