物語後編

お互いの役割を尊重しながら

s_IMG_1186スーさんやビーワン東北エイドのメンバーは敬虔なクリスチャンですが、布教を目的に復興支援を始めたわけではありません。「未曾有の災害があった場所で、自分にできることをしよう」という純粋な隣人愛から活動をしています。

佐々木さん:キリスト教には馴染みがなかったので、最初はちょっと戸惑うこともありましたし、周囲から「勧誘されたりしないの?」と心配されたこともありました。でも、強要されるようなことは全くなかったし、親しくなってみると陽気で心の広い、普通の人たちでした。

ただ、一緒に過ごすうちに良い意味で影響を受けている部分はあるそう。佐々木さんの場合は、「職場ではこうふるまうべき」「母はこうあるべき」といった固定観念が自然と薄れていったといいます。

佐々木さん:以前は「親はどんなときも間違ってはいけない」と思っていましたが、親もこどもから多くのことを学び、成長させてもらっていることに気づきました。

たとえば、スタッフのこどもたちが集まると、学校や年齢や性別が違っても、ひとつのことを通してすぐに仲良くなるんです。私たちもそうした心の柔らかさをお手本に、何かすれ違うことがあっても、共有している大きな目標を思い出して、同じ方向を向いていきたいなと思いました。

s_4枚目希望『Nozomi Project』では現在、16人の女性が働いています。女性ばかりの職場は陰口や嫉妬が多くなりがちですが、『Nozomi Project』にはオープンマインドと寛容さが浸透していて、お互いを思いやり合っている印象を受けました。「ここにいるときが一番笑っているかもしれない」「こんなに雰囲気が良い職場はほかにない」——スタッフは口々にそう話します。

佐々木さん:問題が起きることもありますが、放置せずしっかり話し合い、根本的なところを解決しようと心掛けています。話をすることで逆に混乱が大きくなってしまったこともありますし、全てがうまくいくわけではありません。何度も失敗を重ねてきました。それでも、お互いの役割を尊重する姿勢はみんなが共通して持っていると思います。

お母さんたちが安心して働ける場所

s_goodshirt (2)ビジネスとして取り組むのかコミュニティとして楽しむのか、どちらかに絞らないと長続きしない。『Nozomi Project』を立ち上げるときに参加した起業セミナーの講師は、そんな風に話していたといいます。

でも、『Nozomi Project』にとってはどちらも大切なことで、どちらかを切り捨てることはできませんでした。「大変かもしれないけれど、両立の道を探ろう」と決め、自分たちで一つひとつ、組織の形を整えていきました。

たとえば、スタッフのほとんどは主婦なので、こどもが熱を出したり、急に学校の用事が入ったりすることもしばしば。そうしたときに気兼ねなく休めるよう、スタッフ一人ひとりが複数の工程を習得していて、お互いをカバーしています。全体の計画は立てづらいそうですが、その分みんなが柔軟に、臨機応変に動いてくれるようになったとか。

s_necklacemaking,room佐々木さん:厳しいノルマは設定せず、「今日は人数が少ないからここを目指しましょう」と、状況に応じてゴールを調整しています。言い方を変えれば自転車操業なのかもしれませんが、利益を出すことだけが目的ではないし、いまの私たちにはこれくらいがちょうどいいんだと思います。ただ、現状に満足せず、より良い環境や体制をつくろうと常に考えています。

いわゆる普通の企業とは少し異なる運営手法ですが、『Nozomi Project』は設立から3年間、しっかり利益を出してきました。「希望をつなげていこう」という想いから、1年で出た利益の2割は、世界の人道支援団体に寄付しています。

9時から16時までは仕事の時間と決まっていますが、それ以外の時間では英会話やヨガのレッスンが行われたり、休日に家族ぐるみでパーティが開かれたりと、地域コミュニティとしての役割もしっかり果たしています。

s_party.nozomi

スーさんからは「カフェを開こう」「学校を始めよう」と“クレイジーなアイデア”が次々飛び出し、佐々木さんや周囲の人たちは「どうやったら実現できるだろう?」と頭を絞るのだとか。そんなやりとりもまた、とても楽しそうです。

スーさん:渡波に引っ越すと言ったとき、兵庫の友人たちはみんな心配してくれたけど、神様が守ってくれると信じていました。失敗することもあるけれど、私たちはそこから学んでいます。渡波は海が近くて素敵な土地。友達もいっぱいいて、みんな優しいよ。これからもここで暮らす予定です。

働いてお給料を稼ぐ場でありながら、学びや成長の場でもあり、仲間に囲まれて自分らしくいられる場でもある。『Nozomi Project』のような職場の存在は、全国の働く女性に希望を与えるのではないでしょうか。

 

2015.9.17