物語前編

宣教師の高本スーさんは、復興を支援するため渡波にやってきました。そこで見たのは、至るところに散らばった陶器のカケラたち。
「これを使ってジュエリーをつくり、女性たちのビジネスにできないかしら?」ーースーさんの思いつきから始まった『Nozomi Project』は、職場でありながらコミュニティでもある、温かな場へと成長しました。
スーさんの“クレイジー”なアイデア
スーさんはアメリカ・ニュージャージー州生まれ。宣教師として来日し、家族と一緒に兵庫で暮らしていました。2011年に震災が起きると、キリスト教徒によるチームで渡波の支援に入るように。『ビーワン東北エイド』という団体を立ち上げ、さまざまな活動をはじめました。
スーさん:神様に呼ばれている気がして、ファミリーで渡波に引っ越しました。2012年の3月のことです。こどもを渡波小学校に転入させる手続きをする中で地元のお母さんたちと知り合いになり、「職場が流された」「新しい仕事が見つからない」という話を聞いて、クレイジーなアイデアが浮かんできました。
初めて渡波に来て公園の清掃ボランティアをしていたとき、スーさんは割れた陶器のカケラが無数に落ちているのを発見し、「もったいない」と拾い集めたそう。その袋は誤って捨てられてしまいましたが、陶器のカケラのことはずっと印象に残っていました。お母さんたちの現状とそのときの記憶が頭の中でつながり、「あのカケラを使ってアクセサリーをつくり、女性たちのビジネスにできないかな?」と閃いたといいます。
なぜそれがクレイジーなアイデアかというと、スーさんはビジネスをしたこともなければ、アクセサリーをつくったこともなかったから。しかし、アイデアを親しくなったお母さんに話すと、「小学生の頃にアクセサリーを手づくりしたことがあるから、少しなら手伝えるよ」と言ってくれました。それが、現在マネージャーを務める佐々木さんです。
佐々木さんをはじめとして地元女性数人が集まり、2012年7月にプロジェクトは小さなスタートを切りました。『Nozomi Project(希プロジェクト)』という名前は、スタッフのひとりが呟いた「希望という言葉を入れたいな。この場所でまた希望を見つけられる気がするから」という一言から決まったといいます。
たくさんの人を笑顔にする『希望のカケラ』
陶器を洗浄し、タイルカッターで切り、グラインダーで削って形を整え、アクセサリーパーツをつける。『Nozomi Project』の製品は、いくつもの工程を経て完成します。基本的なつくりかたは、LAで活動するプロのジュエリーアーティスト・リサが渡波まで来てレクチャーしてくれました。
完成したアクセサリーは、『希望のカケラ』と名づけることに。同じ陶器でもどの部分を切り取るかによって表情が変わります。上品だったり可愛らしかったりと個性豊かで、すべて一点もの。2012年10月に販売を開始すると、オンラインショップを通して世界中から注文が入りました。これまでに、23か国の人の手に渡っていったといいます。
購入者からの声をもとに、新しいラインも次々開発していきました。ネックレス、ピアス、ブレスレット、指輪、カフスと、商品数は20種類以上。ネックレスだけでも、繊細なチェーンに小ぶりのかけらを合わせたもの、鹿革のスウェードを通したもの、ラピスラズリを中心に天然石で飾ったものとさまざまな種類があります。商品名には、「るみ」「くみこ」「もえか」「みさき」と、スタッフの“大事な人”の名前がついています。
「のどかちゃんは笑顔がとっても素敵な女の子。彼女の笑顔をみるだけで、心がとっても癒されます。のぞみのためにカケラを拾ってきてくれたり、お母さんがのぞみの出張に行けるように協力してくれたりするのどかちゃんとお兄ちゃん。いつも優しく、協力してくれる2人に感謝の気持ちでいっぱいです。」——『Nozomi Project』のウェブサイトにはこんな説明が載っていて、読んでいると一つひとつが愛おしく思えてきます。
最初は拾い集めた陶器のカケラを加工していましたが、少しずつ近隣の人やリサイクルショップから食器を譲り受けるようになってきました。家族が使っていた思い入れのあるお茶碗でアクセサリーをつくってほしい、と依頼を受けて製作したこともあるそう。いまはまだ全てに応えられるわけではありませんが、ゆくゆくは体制を整え、オーダーメイドにも対応していきたいといいます。
佐々木さん:あるとき、イベントで『希望のカケラ』を販売していたら、通りかかった女性が「わぁ」と歓声を上げたんです。その方のお母さまが使われていた食器のカケラを使った商品があったようで、思いがけない再会だったんですね。「こんな風に生まれ変わったんだ。お母さんにプレゼントしよう」と嬉しそうに購入してくださいました。
女性って、綺麗なものや可愛いものを見たとき、身につけたとき、とてもいい顔をされますよね。そんな姿を見ることが一番の励みです。製品を通して、たくさんの人を笑顔にできたらいいな、希望を伝えられるといいな、と思っています。
2015.9.17