物語後編
目指すのは、気持ちの自立
『アトリエうっ布²』のメンバーは、現在9人。着物を解く係、縫う係、アイロンをかける係に分けて、加藤さんがそれぞれの工程を橋渡ししています。基本的には自宅で作業し、かかった時間を記録。それを時給に換算し、お盆やお正月など、お金が出ていく時期の前に分配しています。
毎週土曜日は、みやぎ生協渡波店のスペースを借りて会合。新しい商品を出すときは、加藤さんがマニュアルをつくってきてこの時間に練習します。終わったあとは一緒にお昼ごはんを食べにいくことも多いとか。
加藤さん:新しくできたお店やちょっとお洒落なお店に入ってみたりします。「みんながいるから行けるんだよね」「あー、集まりがあってよかった」なんて言いながら。ひとり暮らしの人も多いから、喜んでもらえているんじゃないかな。活動で稼いだお金をそこで使っちゃったりするんですけどね(笑)
正直言って、『アトリエうっ布²』で稼げるお金はお小遣い程度です。でも、自分で稼いでいるからそうやって楽しめるんですよね。暮らしに少しでも余裕ができるのは大事だなって思います。

新商品のふろしきバッグ
2014年からは、売上の一部を福島のこども保養プロジェクトに寄付するようになりました。加藤さんたちは寄付ではなく“ゆいっこ”と呼んでいます。ゆいっことは、困ったときにみんなで助け合うこと。「全国からたくさんの支援を受けてきたので、そろそろ自分たちも何か恩返しをしたい」「いま一番大変なのは福島だから、未来を担う福島のこどもたちにゆいっこしよう」と考えたといいます。
加藤さん:もらってばかりでは、気持ちの自立ができません。社会とつながって、誰かの役に立つことが励みになるんです。新しい目標ができたことで、活動がより楽しくなりました。
楽しみを持って暮らせるように
取材中、明るい笑顔で場を和ませてくれた加藤さんですが、震災直後の話になると時折声を詰まらせていました。実は、震災でお父さまと看護師の妹さん、大学1年生の姪っ子さんを亡くされたそう。「まだ口に出しては言えません、書くのがやっとです」とメールで気持ちを綴ってくれました。
震災当日、避難のため実家に迎えに行きましたが、父は家に残ると言い張り、私もまさか家まで流されるような津波が来るとは思わず、しぶしぶ置いてきてしまいました。父は花が好きでいつも家のまわりや公園の草取りをしていました。家は流されて誰もいないとしても、父が大事にした土地を草だらけにしたくなくて畑にしました。
妹も姪も、これからしたいこと、特に姪は将来の夢をいっぱい持っていたはずです。残念です。60歳を過ぎたら手づくりで楽しもうとなんとなく考えていましたが、いつ何が起こるかわからないし、いまそれができるチャンスかもしれない。「あのときああしていたら」という後悔はもうしたくないので、まわりの反対を押して会社を辞め、活動を始めました。
向こうに行ったら3人に、「3人の分もできることは全部して楽しんできたよ」と報告できるようにしたいと思っています。
加藤さんが会社を辞め、不安定な手仕事の世界に足を踏み出した背景には、そんな想いがあったそう。そうして始めたものづくりは、たくさんの人との出会いをもたらしてくれました。
今年春には、石巻で手仕事をする10団体が集まって、『NPO法人手作りで元気を作る会』を発足。作品の販売会を開いてくれていた支援団体が東北から撤退するにあたり、自分たちで発表の場をつくっていこうと奮起したのです。加藤さんは代表を兼任することになりました。
会には幅広い年齢層の女性たちが所属していて、会合を開くととっても賑やかなのだそう。自分たちで販売会を開くだけでなく、復興住宅のコミュニティづくりや、高齢者の生きがいづくりも応援していきたいといいます。
加藤さん:会社で働いていたときよりもずっと、毎日が楽しくなりました。大変だけど、辞められません。私たちと同じように、楽しみを持って暮らせる人が増えたらいいなと思っています。出会いを大事にして、悔いのないよう進んでいきたいです。

『アトリエうっ布²』のメンバーと
2015.9.16