物語前編

石巻市渡波町は、東日本大震災で大きな被害を受けたまちです。着物のリメイクサークル『アトリエうっ布²(うっふっふ)』を主宰していた加藤洋子さんは、家族や仕事を失い途方に暮れていた自宅被災者の友人たちと一緒に、それまで趣味でつくっていた作品の販売に挑戦することを決意します。活動は、加藤さんたちに新しい出会いをもたらしてくれました。

作品が売れたことで、自信がついた

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『アトリエうっ布²』定番のエプロンドレス

『アトリエうっ布²』は、約30年前に加藤さんが仲間と一緒に始めたサークルです。みやぎ生協渡波店のスペースを借り、古着物をリメイクしてシンプルなエプロンドレスを製作していました。その頃は、自分で着る分を縫うだけで販売をすることはなかったそう。転機となったのは、東日本大震災でした。

加藤さんが暮らす渡波地区はまちの半分が津波に流され、多数の犠牲者を出しました。しかし、震災後の混乱から「全滅した」という噂が流れ、しばらく支援が来なかったといいます。避難所はすぐに満員になり、衛生環境も良くなかったそう。少しでも家が残った人は、電気も水道も復旧していない家で暮らさざるをえなくなりました。

加藤さん:私も、何とか残った自宅の2階で過ごすことになりました。ただ、当時はどういうわけか、「家に戻った人は被災者じゃない」と取られてしまったんですね。ようやく避難所に物資が送られてくるようになっても、個人宅までは届かないから自分で調達しないといけない。情報も入ってこないし、コミュニティもない。自宅被災者はそんな境遇に置かれてしまいました。

また、生活を再建するには、半壊した家の修理をはじめお金が必要です。支援金では足りず貯金を使い果たしてしまった人もいました。特に困ったのは50〜60代の年金をもらう前の世代の人たちです。仕事を失い、再就職は難しく、でもまだ年金を貰える年齢には届かない。加藤さんは、『アトリエうっ布²』の作品を販売して、そうした人たちのための小さな仕事をつくれないかと考えはじめました。

加藤さん:それに、家にひとりで閉じこもってばかりだと辛いことを思い出して、変なこと考えちゃうでしょう。「明日何して生きればいいんだろう」っていう人もたくさんいました。だから、外に出て、社会につながることをしないと、と思っていたんです。

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横浜市議の遊佐さんと『アトリエうっ布²』のメンバー

震災から一年が経った頃、横浜市議の遊佐大輔さんが渡波に視察に来ました。「何かできることはありませんか」と聞かれたので『アトリエうっ布²』の作品を見せると、売り先を探してくれるといいます。加藤さんは「そんな簡単に売れるわけないし、口だけだろうな」と半信半疑だったそう。しかし、遊佐さんはすぐに売り先を見つけ、送った作品を全部販売してくれました。

作品が売れたことで勇気づけられた加藤さんは、『アトリエうっ布²』を小さな手仕事コミュニティにすることを決意。元々いたメンバーに加え、自宅被災者たちに声をかけて集まるようになりました。

加藤さん:遊佐さんとのつきあいは、いまでも続いています。自宅で畑仕事をしていたときに声をかけられたから、「ナンパされた」って言ってるんですよ(笑)息子みたいな年なんだけどね。遊佐さんからナンパされたおかげで活動が広がりました。

ヒット商品になった『サンマのペンケース』

s_DSCF0290『アトリエうっ布²』の作品の材料となる着物地は、もともと持っていたものや人から貰ったもののほかに、津波で流され泥だらけになっていたのを綺麗に洗ったものもあります。中には落ちない染みがついている生地も。「できるだけ無駄なく使いたい」と、染みの部分を避けて小物にすることにしました。

最初につくったのは、お薬手帳入れです。震災後、自分が飲んでいた薬の種類がわからなくて困った経験から、お薬手帳や診察券、数日分の薬など病院関係のものをひとつにまとめ、すぐに持ち出せるようにと考えたそう。みやぎ生協が2012年から発行をはじめた『手づくり商品カタログ』を通してたくさんの注文が入るようになりました。

¥IMG_11202013年11月には、港町・渡波ならではの『サンマのペンケース』を開発。これがヒット商品となりました。数百の注文が入り、お正月も休めなかったほどだといいます。価格はひとつ800円。「もう少し高くしてもいいのでは」と心配になってしまうような価格です。

加藤さん:でも、生地はいただいたものだし、いろんな人に手伝ってもらっているから、そんな高い価格はつけられません。「高いな」と思われて余ってしまうよりも、気軽に買える価格にして、たくさんの人に使ってもらったほうが嬉しいんです。

『アトリエうっ布²』のブログには、「毎日水揚げに追われています」「とれたてです」と綴られていて、楽しくつくっている様子が伝わっています。

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人気のバッグインバッグ

加藤さんたちはその後も、バッグインバッグやアームバンドなど、新しい商品を次々と生み出していきました。暮らしの中で「こういうものがあったらいいな」と思ったものをつくり、使いながら気になったところを直して製品に反映しているそう。生活者視点のアイデアと細部へのこだわりが『アトリエうっ布²』の製品の魅力です。

 

2015.9.16