物語後編
みんなでこどもを育てていく
『藍工房OCEAN BLUE』で働くスタッフのひとり・菅原理香さんは、中学2年生、小学6年生のこどもを持つベテランお母さん。藤村さんのはじめての子育てをサポートしてくれています。
藤村さん:うちの子は、理香ちゃんが抱っこするとすぐに眠るモードに入ります。私が寝かしつけようとしてもなかなか寝てくれないのに。でも、理香ちゃんも自分のこどものときは寝かしつけられなかったそうで、「後輩ママができたら、その子の赤ちゃんは寝かしつけられるよ」と言われました。子育てって、きっとそうやって先輩から後輩へと受け継がれていくものなんでしょうね。
気仙沼では少子化と核家族化が進行していて、お母さんたちの多くは「近所にママ友や頼れる人がいない」「ママ同士集まる場所がない」といった悩みを抱えています。藤村さんも以前は、子育てでわからないことがあると、ネットで調べていました。いまは菅原さんをはじめとして、工房に集まる先輩お母さんたちが教えてくれるといいます。
藤村さん:こどもたちがいる光景を見て、「楽しそうだな」と入ってきてくれる方も多く、地域の子育てママが集まるサロンのようになっています。気仙沼には復興関連で外部からたくさんの人が入ってきていますが、地域に馴染むには時間がかかりますし、知らない土地で子育てしていく難しさもあります。
私自身、引っ越してきた当初さみしかったので、「ここに来ることで自然と知り合いが増えていく」と言ってもらえると、工房をやっていてよかったと思います。人と地域とをつなげる役割をちょっとでも担えているなら嬉しいです。
また、親子だけでなく、未婚の男女や老夫婦なども工房に立ち寄り、こどもたちを可愛がってくれるそう。藍染めは重労働で、赤ちゃんをおぶりながらの作業はかなり足腰にくるもの。あやしてくれる人がいることで、とても助かっているとのこと。
藤村さん:都市部に比べて地方は、みんなでこどもを見守るという空気があるかもしれません。気仙沼では初対面のおばちゃんがこどもをあやしたり抱っこしてくれたりするのはよくある光景。まち全体のあたたかさや距離の近さを感じます。どちらが良い・悪いというつもりはなく、私はこういう環境で子育てがしたかった。
とはいえ、地方には過疎化という深刻な問題に加え、都市部と同じ「核家族化」という課題もあります。この地域では当たり前だった「三世代同居をベースにした子育て」にかわる子育て法として、「職場をベースにした子育て」ができたらいいな、と思っています。
まちを明るく彩る気仙沼ブルー
東京でバリバリ働いていた藤村さんが気仙沼に来て気をつけていることは、“東京のやり方を押し付けないこと”だといいます。関わる人の中には、パソコンを持っていない人もいれば、会社で働いたことがない人もいます。「こうすると効率よく回る」といういままでの経験はひとまず置いて、お互いがやりやすい方法を柔軟に見つけようと考えているそう。
藤村さん:お店の運営ははじめてのことなので、色々な人の意見を聞きながら試行錯誤しています。たとえばお店のディスプレイは、通りすがりのおじいちゃんが考えてくれました。ふらっと立ち寄って、「服はもっと立体的に見せないとだめだ、木はないのか」と、たまたまあった流木で上手にシャツをディスプレイしてくれました。「こうあるべき」と型を決めてしまうよりは、そうやってみんなの手が入ったほうが、面白いお店になるのではないかと思います。
今後の目標は、まずは、スタッフにちゃんとお給料を払えるくらいに経営を安定させること。現在はようやくひとり分の給料が出せるほどですが、売上は倍々ペースで上がっているそう。誰かが無理することなく工房を回せる状態を目指して、日々試行錯誤をしています。
もうひとつは、藍染めを身近な存在として感じてもらうこと。そのために、購入してくれた人の写真を撮影し、工房のブログにアップしています。気仙沼で生きる人たちが藍染めを着用している写真を使うことで、ハレだけでなくケの日にも藍染めが自然と馴染んでいる様子を伝えたいそう。
藤村さん:また、遠くに住む方がブログを読んでくれたときに、“藍染め製品を眺めていたつもりが、藍染めを着る気仙沼の個性的な人たちに触れている”といった仕組みも狙っています。“こんな魅力的な人たちがいるまちに行ってみたい”と感じてもらえたら、と思っています。
震災から4年半という月日が経ち、気仙沼ではようやくファッションのことを気兼ねなく話せる雰囲気になってきたといいます。「あそこのお店の新作、可愛いよね」「今度一緒に見に行ってみようよ」といった会話があちこちで自然と聞かれるようになりました。
藤村さん:ファッションは見る人の気持ちを元気にして、まちを明るく彩るものです。藍染めのアイテムを身につけることで、楽しい気持ちになる人が増えたら嬉しいです。
2015.7.30