物語前編

古くから繁華街として栄えてきた気仙沼南町。人通りの多いこの一角でひと際目を引くのは、壁にカラフルな絵が描かれ、爽やかな藍色の製品が並ぶ『藍工房OCEAN BLUE』。震災後に生まれた、気仙沼のお母さんたちのための工房です。
代表の藤村さやかさんに、活動を始めたきっかけや背景にある想いを教えてもらいました。

東京から気仙沼へ

s_IMG_0828藤村さんは、元フードライターです。28歳のときに友人とフードライター・ブロガーのエージェント会社を立ち上げ、食を切り口にしたコンテンツやツアーを企画運営していました。ずっと東京で働いていましたが、震災後に友人から誘われて気仙沼を訪問し、そこで出会った地元男性と結婚。2013年12月に気仙沼に移住しました。

藤村さん:長年暮らした東京を離れ、知らない土地にいくことに不安もありました。ですが震災後、「なぜ東京で暮らしつづけているのだろう」という違和感があったのも事実です。「こどもを育てるならのんびりした田舎がいいな」とも考えていたので、思い切ってこちらに来ました。

母方の親戚が青森なので、東北の気質は自分に合っているだろうというのもありました。寡黙で忍耐強い。でもお祭のときにははっちゃける大きなエネルギーがある。人情深く優しい。東北の人たちのそういうところが好きなんです。

2014年には長男の零くんを出産。会社は譲渡して、子育てに専念していました。零くんを抱っこしてまちを散歩するうちに、近所で働く藍染め工房のお母さんたちと仲良くなっていったといいます。

s_IMG_0736元々この工房は、2013年5月に復興支援の一貫として立ち上げられたものでした。助成金を使って工房を整備し、地元女性を雇用。支援物資として送られてきたさらしを藍で染めたのをはじめとして、藍染め製品を製作していました。

お母さんたちは「助成金が切れたあとも自分たちで活動を継続していきたい」と希望を持っていましたが、どうやって工房を運営していけばいいのか悩んでいたそう。そこで、会社経営の経験を持つ藤村さんに白羽の矢が立ちました。

藤村さん:お母さんがこどもを連れて働ける職場は、気仙沼市内にはピースジャムさんしかありません。こどもを預けられる場所も限られている。そもそも預けてまで働きたいのか、という問題もあります。お母さんがこども連れで働ける職場として、工房を続ける方法を探り始めました。

2015年6月、運営母体を藤村さんが代表を務める子育てサークル『はぐはぐの木』へと変更、『藍工房OCEAN BLUE』として再スタートを切りました。

お母さんたちがつくる藍染めのこども服

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『藍工房OCEAN BLUE』としてリニューアルするにあたって、工房にはベビーベッドやキッズスペースを設置しました。気仙沼出身のアーティスト・奥原しんこさんをゲストに迎え、こどもたちと一緒にキッズスペースの壁に絵を描くイベントを実施。現在も工房の壁一面を、カラフルで賑やかな絵が彩っています。

製作するものも、ふくさや巾着といったご年配向けのものから、ストールやTシャツなど、若い世代がお洒落に着こなせるアイテムに変わりました。

s_IMG_0759藤村さん:いままで、「藍染め製品は世代が上の方のもの」という思いこみがあって、興味を持ったことがありませんでした。でもこうして藍染めに関わるようになり、様々な藍の色合いはもとより、美しい古典柄の絞りのほか、若い人から見てフレッシュな絞りがあることも学び、かっこいいものだと思うようになりました。若い人に、「藍染めってすごくイイじゃん」と思ってもらえるものをつくっていきたいと思っています。

また、お母さんたちが運営する工房という強みを活かし、可愛いこども服も製作するように。藍染めした生地には抗菌作用や防虫効果、皮膚の消炎効果などさまざまな効用があり、赤ちゃんやこどもにぴったりです。淡い藍色に染められたロンパースやキッズTシャツはほかになく、好評を得ています。

s_P1720137生地の縫製は子育てを終えた世代のお母さんたちに外注。高い縫製技術を持っているものの、若い人に好まれるデザインはわからないという方々とのマッチングが功を奏しました。連携することで、お互いの強みを活かしあう関係が生まれたのです。

藤村さん:大先輩なので最初は修正依頼も遠慮がちにしていたのですが、「ちゃんと指摘してくれたほうがありがたい」と言ってくださって。細かい指示にも応えてくれるのでとても助かっています。最近では「こういうのはどうかしら」と、私たちも「可愛い!」と思えるデザインを提案してくださるようになりました。

お土産や贈りものとして購入する人も多く、少し高めのこども用サマードレスなどもすぐに売れてしまうそう。つくったものが高く評価されて購入されていくことでお母さんたちも自信をつけ、もっと良いものをつくってくれる、という好循環が生まれています。s_IMG_0801

2015.7.30