物語後編

新製品開発のために

s_IMG_0156『Puchinya』製品の縫製は、ウエットスーツを製造する石巻の工場に委託しています。縫う前に生地をボンドで貼り合わせる工程は、被災した女性たちが担当。家で内職し、仕上げた個数に応じて作業料が支払われる形です。

工場も被災したため、初期の頃は社長室を使わせてもらって作業していたそう。苦しい時期を乗り越え、現在は立派な社屋が建ちました。木村さんは毎日ここに通って新しく出た端材を確認し、どの製品をいくつつくるか指示しています。

木村さん:普通はデザイナーがそのシーズンのテーマに合わせて色や柄を決めるでしょう。うちは端材ありきで、それを見てから何をつくるか考えるんです。珍しいやり方ですよね。その分手間はかかるけど、いろんな製品をつくることができるから飽きないんです。

ただ、熱心なお客様からの「どうしてもこの色・この柄のでか猫ポーチがほしい」という声に応えられないのが歯がゆいところ。そこで木村さんは、端材を活用するのではなく、生地からつくろうと決意。2015年6月、クラウドファンディング募集サイトの『READYFOR』で、新製品開発のための資金を調達することにしました。

現在も募集中!締切は2015年7月12日です。

現在も募集中!締切は2015年7月12日です。

ただ、助成金などを一切活用せず、自力で事業を前に進めてきた木村さんにとって、広く支援を募るのは初めての経験。踏み切るまでにはかなりの勇気を必要としたといいます。

木村さん:周囲の人から「表に出ることで必ず広がるから、思い切ってやってみなさい」と背中を押されて、挑戦することにしました。

その結果、募集開始後3日で目標金額の50万円に到達。『READYFOR』のページには、「ぷちにゃ大好き!」「これからも使い続けたいです」「すばらしい活動だと思います。微力ながら支援します」と、あたたかいコメントが数多く寄せられました。

木村さん:コメントを読んでいると泣けてきます。本当に、ありがたいですよね。気持ちに応えるためにも、頑張らなきゃなって思います。

“メイド・イン・石巻”にこだわって

石巻の化粧品店『小野友』にて。石巻市内ではここを入れて3つのお店に製品を卸しています。

石巻の化粧品店『小野友』にて。石巻市内ではここを入れて3つのお店に製品を卸しています。

ウェブデザイナーから一転、ものづくりに取り組んできた木村さん。自分が考えたものが形になり誰かに喜ばれることは、最高に幸せだといいます。

木村さん:初期の頃は、24時間ずっと『Puchinya』のことを考えていました。寝ても覚めても、「もっとああしよう、こうしよう」って。もしかすると、震災の辛さを忘れたかったのかもしれません。没頭できるものがあったことで、ずいぶんと救われていたと思います。いまでは純粋にものづくりにハマってしまいました。すべての工程が楽しくて、大好きですね。

一方で、継続していくためにはビジネスとしての仕組みを整える必要があると感じているそう。復興グッズのなかには支援物資を材料としているため原価がかからないものも数多くありますが、『Puchinya』ではウエットスーツの端材に正規の価格を払っています。工場の人件費もかかるため、数が売れたとしても大きな利益にはなりません。

たとえば、縫製の仕事を海外の工場に投げてしまえば、人件費は抑えられます。でも、『Puchinya』は始まりの段階からずっと、“メイド・イン・石巻”にこだわってきました。今後も変えるつもりはないといいます。

仕事を発注することで、わずかでも石巻の工場や被災した女性たちが潤うこと。技術が磨かれていくこと。木村さんはそうした点を大事にしています。

s_content_50c2655e3d6c3c88137bda8078e47546bd2c7acd木村さん:震災で友人や親戚を亡くしたし、辛い想いもしました。そういうことがあったからかな、価値観が変わったんです。年齢的なこともあるかもしれないけど、社会的に意義のあることをしたい、生きた証を残したいと思うようになりました。

『Puchinya』のファンには、「ただ猫が好きだから」というだけでなく、「石巻を応援できる製品だから」「エシカルなものだから」という理由で購入してくれている人も多いそう。せっかくお金を使って何かを買うなら、社会をちょっぴり良くするものを選びたい。木村さんは、そういう人たちの存在に支えられてきたと話します。

木村さん:0から1を生み出すのって、本当に大変です。すごいエネルギーを必要としました。でも、石巻は多くのものが津波に飲み込まれてしまったから、新しいものを生み出していくしかなかったんです。「応援してくれたおかげで、瓦礫だらけの石巻からこんなものができました」って言えるように、『Puchinya』を残していきたい。仕組みを整えて、長く続けていきたいと思っています。

2015.6.17