物語後編

氷室京介さんからの応援

s_2014-08-22+13-08-072013年の暮れ、ミュージシャン・氷室京介氏の事務所からオアシスライフ・ケアに連絡が入りました。3月に開くチャリティライブで、SHIZU革を販売したいというのです。

國分さん:数ある復興グッズの中から、どういうわけかSHIZU革に目を留めてくださったんですね。70歳近いお母さんたちは氷室さんのことを知りませんでしたが、娘さんや息子さんに「すごい人だよ」と教えてもらって、驚いたそうです。まさかそんな人が気にかけてくれるなんて、思ってもみませんでしたから。

ライブに向けて2千個のSHIZU革ブレスレットを製作しましたが、初日で完売。すぐに追加注文が入り、お母さんたちはてんやわんやの状態に。最終的にはなんと8千個売れたといいます。

國分さん:氷室さんのファンの方が、SHIZU革を手首に巻いた人の写真をポラロイドカメラで撮影して送ってくれました。会場で思いついて、すぐ行動してくれたそうです。氷室さんのファンって、熱い方が多いんですよね。

氷室さんのライブをきっかけにそうした気持ちのある方々に出会えて、応援してもらえたのは大きかったです。震災から時間が経って売上も低迷していたときだったので、とても励みになりました。あれがなかったら、今まで続けてこれたかどうかわかりません。

s_IMG_96292015年3月には、『高貴』という新シリーズをリリースしました。真鍮のチャームが上品な、シンプルで洗練されたデザイン。革紐をスライドすることで長さの調節が可能です。チャームの片面には「SHIZU革」の文字とイヌワシのマーク、もう片面には「2011.3.11」の文字を刻印しました。

國分さん:あの震災で、誰もが「水が出るってありがたいな」「隣近所の付き合いってありがたいな」と感じたことがあったと思うんです。でも、時間が経つにつれ、忘れてしまう。「風化させない」「震災で学んだことを忘れない」なんて言っても、現実には難しい。僕自身もそうですから。

だから、『高貴』シリーズにはあえて「2011.3.11」の文字を入れました。身につけていただいて、ふと文字が目に留まったとき、あの震災で感じたことを思い出してもらえたら、と。過去を振り返ることは、いまや未来に備えることでもあると思うんです。

出会いに支えられて

s_IMG_9489「みんなで集まって話ができて、楽しい」「心の内を話すことで癒しになっている」「これのおかげでたくさんの人に出会えた」…オアシスライフ・ケアが年度末に行っているアンケートで、お母さんたちはそんな言葉を綴っているそう。

活動を続けるうちに距離が縮まっていき、冗談を交わしたり、震災時のことや辛かったことも話せる間柄になりました。

國分さん:震災前は働いていなかったけれど、「お世話係」になって、SHIZU革の活動にも参加してくれた女性がいるんです。最初は口数が少なかったけれど、いまでは楽しそうに笑うようになって。SHIZU革の製作もはじめは苦戦していて「無理かも」なんて言っていたのが、諦めずに練習を続けて、いまでは誰よりも上手になりました。特別な注文があるときは、その方にお願いしています。この変化はすごいことだな、と思います。

オアシスライフ・ケアは小さな団体ですし、東北全体の復興を後押しするような大きなことはできません。でも、ひとりでもふたりでも、関わった人の人生に良い影響を与えられたなら嬉しいな、と思います。

震災前は、システムエンジニアとして毎日パソコンを相手にしていた國分さん。いまはたくさんの人に出会い、人と関わりながら仕事をしています。

s_IMG_9603國分さん:人生が180度変わってしまいました。自分の仕事が誰かの喜びにつながっている実感を持ちながら働けるのは、幸せだなと思います。それに、会う人会う人、良い人ばかりなんですよね。これがまた嬉しくて。

お世話係のお母さんたち、革問屋さんや職人さん、氷室さん、活動を応援してくれる人たち。SHIZU革はさまざまな出会いや奇跡に支えられてきました。

困っているとき、暗礁に乗り上げているとき、不思議と手を差し伸べられるような出来事が起こり、活動を継続することができたといいます。

國分さん:必ずしも続けることが良いことだとは思っていませんが、全くの素人がものづくりを始めて、4年も続いたというだけですごいことだと思っています。それもこれも、購入してくださった方、広めてくださった方、さまざまな形でご協力してくださった方がいたおかげです。本当に、「ありがとうございます」の一言に尽きますね。

2015.5.30