つくり手インタビュー

左から小山さん、後藤さん、藤浦さん、渡辺さん、西條さん。
『SHIZU革』は、南三陸のお母さんたちが自宅で製作しています。みんなで集まるのは月に2回ほど。普段は利府の事務所で働く國分さんもこの日は南三陸にやってきて、お母さんたちにSHIZU革の材料を配ります。こうした事務作業ももちろん大事ですが、持ち寄ったお惣菜やお菓子をつつきながらおしゃべりすることが、お母さんたちには何より楽しみなのだそう。活動場所の南三陸ポータルセンターにお邪魔して、お話を伺いました。
辛いとき、革が心の支えになった

お揃いのエプロンは、オアシスライフ・ケアが母の日にプレゼントしたもの。 『SHIZU革』のシンボルマークとそれぞれの名前が刺繍されています。
——震災後、みなさんは「お世話係」として家を失った人たちの支援をしていたそうですね。
西條さん:私たちは幸い家が残ったから、何かしなくちゃと思って。國分さんが持ってきてくれた物資を受け取り、町民に届けていました。
——当時は大変だったんじゃないかと思います。
西條さん:一番大変だったのは水。何しろ量が多いし、重いでしょう。ケースに入れて何とか配り通しました。自分たちが飲む分は給水所まで取りにいったの。だって支援物資として届いたものだから、私たちが飲むわけにはいかないじゃない?
國分さん:電気や水道は止まっていたから、家が残っていても普段の生活には困っていたはずです。でも、西條さんたちは家を失った人に遠慮して、物資を受け取らずほかの人にと回していました。そういう姿に僕も胸を打たれてしまったんです。
——そうしておつきあいが続いていったんですね。手仕事をはじめようと思ったのは、どうしてだったんですか?
西條さん:みんな色々抱えてましたから。たとえば藤浦さんの家では震災を機に子どもたちが県外に引っ越してしまって、淋しい想いをされていたんですよ。
藤浦さん:7人家族だったんですが、娘たちは仕事が無くなったもんで孫を連れて福岡に引っ越してしまって。いまはおじいちゃんと2人です。最初は3年で戻ってくるって言っていたんですけど、家を建てられないことには帰ってこれないから、結局ずっと九州で暮らすのかもしれません。
——それは淋しいですね。
藤浦さん:だから、こういう集まりがあって助かってるんですよ。娘も応援してくれていて、SHIZU革ブレスレットを職場の人に「うちのお母さんがつくった革細工だよ」って紹介してくれたの。おかげでたくさん注文が来て。看護師だから、手首じゃなくて足首に巻いてるみたい。
——『SHIZU革』は、すぐにつくれるようになりましたか?
後藤さん:革細工なんてするのは初めてだったから、大変でした。手仕事って細かいじゃないですか。慣れるまでに時間がかかりましたね。
西條さん:売れないようなものつくってたんですよ、私たち。それでも國分さんはつくったもの全部買い取ってくれて。かなり赤字だったんじゃないかしら。
國分さん:何の経験もないお母さんたちがつくってくださっているんだから、売れる売れないに関わらず全部買い取りさせていただこうと思いました。
西條さん:当時は一所懸命だったけど、半年ぐらいしてから初期の作品を見て、「私たちこんなのつくってたんだね」って呆れました。
國分さん:そのときは、それがベストのクオリティだと思っていましたからね。いま当時の作品を見ると「いや〜…」と苦笑いしてしまいますが。それだけお母さんたちの技術が向上したということだと思います。
——現在の『SHIZU革』には、『四季シリーズ』『高貴シリーズ』『エイジング』といくつかの種類がありますよね。みなさんのお気に入りはどれですか?
小山さん:紫が綺麗だなと思います。
西條さん:高級感がありますよね。でも、革紐が細いから、集中しないとつくれないんですよ。

品の良い紫紺色の『高貴』。
國分さん:人気なのは青のブレスレットですね。四季シリーズの夏バージョン。やっぱり南三陸といえば海なので、『SHIZU革』の代表作のようになっています。
——活動を続けてきて、嬉しかったことや印象に残っていることはありますか?
後藤さん:いろんな人に出会えたこと。ボランティアに来てくれた人もいるし、歌を歌いに来てくれた人もいるし。
小山さん:私は、津波のあと、みんなと出会えて…。(声を詰まらせて)いまでも震災のことを思うと、悲しくて。…うちは建物が斜めになって、それをようやく直したんです。去年はおなかを悪くして、手術をしました。震災からいろいろあったけど、みんなと出会って、こんな風に革をつくりながら話したりするのは楽しくて…。いまでもすごく、大事な場なんです。

津波によって72人の犠牲者を出した志津川病院で、清掃の仕事をしていた小山さん。震災当日も病院にいて、屋上で一晩を過ごしたそう。いまでも思い出すのは辛いようで、涙を堪えながら話をしてくれました。
藤浦さん:私もそう、こうやってみんなで集まるのが楽しみです。
渡辺さん:私は途中から参加したんですよ。みなさんとは近所なので「ちょっといま革やってるんだけど一緒にやらない?」って声かけてもらって。最初はどんなもんかなと思ったけど、つくりはじめるようになると楽しくなっちゃいました。
西條さん:私たちは家が残ったけど、壊れたものも多いし、家族がいなくなったり、環境が変わったり、やっぱり何かしかの被害を受けてるんです。でも、革があったおかげで、「これやらなくちゃ」と気が紛れました。夜にひとりで家にいるときも手を動かしていられて、こうしてみんなで集まって笑い合えて。革が私たちを支えてくれたんです。
でも、ここまで続けられるなんて思いませんでした。何の経験もないところから上達してね。商売って難しいでしょう。手にしてもらえる、見た人の心を動かせるというところまでくるのに時間がかかったけど、それまでよく耐えてくれたと思う。見守ってくれた國分さんたちのおかげ。本当に、感謝しかありません。
製作工程
國分さんからお母さんたちに、材料の革紐と金具が手渡されます。
革紐の素材は牛革。浅草の職人さんによる特注品です。
3本の革紐を三つ編みにしていきます。
編むときに使う重しは、ペットボトルにセメントを流して固めたり、漁で使用する道具を加工したりしたもの。お母さんたちのご主人や息子さんがつくってくれたそう。
40cmほど編んだら、端の編み目に留具をつけます。
端にぐるぐると革を巻き付け、ボンドで接着します。
長さをぴったり合わせ、綺麗に留める必要があるので、ちょっと手間がかかる部分。
もう片方の端も同じように留め具をつけ、2連にします。
SHIZU革のシンボルマークが刻印された革のタグをつければ完成!
2015.5.13