物語後編

地元のお母さんたちがつくり手となって

s_IMG_8450『pensea SEASIDE CANDLE』の製作は、同じ気仙沼で『ともしびプロジェクト』という活動を行っているキャンドル工房のお母さんたちが請け負っています。『ともしびプロジェクト』は、3.11を忘れないために、毎月11日にキャンドルを灯そう、と呼びかけるプロジェクト。工房では、全国から寄付された廃ろうそくを再生し、オリジナルのキャンドルホルダーを製作しています。

松田さん:僕たちは最初、自分たちが大好きな海辺の風景をただただ表現したい、という気持ちの延長でキャンドルをつくりはじめたんです。取り組んでいくうちに、どんどんわくわくしてきて、クオリティが高まってきて。事務所に飾ったりSNSにアップしたりしているうちに、「ほしい!」と言われるようになりました。また、地元の方々からも、気仙沼には水産加工品以外のお土産や特産品が少ないので、もっとつくってほしいという声がでてきました。

そこで、自分たちだけじゃ手が回らないので、既にキャンドル製造を行っていたともしびさんに「一緒にやりませんか」と声をかけたんです。ちょうどともしびさんも新しい展開を考えていたようで、企画やPRはpensea、製作はともしびさん、と協力体制が整いました。

NGOやNPOの現場で、「自分たちがやること」にこだわり活動が小さくばらけてしまう事例をたくさん見てきました。それよりも、想いが重なる部分があったり、得意分野で役割分担することができるのであれば、組織を越えて手を組んだほうが、社会的インパクトも大きくなり、ダイナミズムが出るんじゃないかと思っています。

s_IMG_8330製品化するにあたって、つくり手のお母さんたちは何度も練習して腕を磨いたそう。完成度の高いものをひとつつくるのは簡単だけれど、そのクオリティを保ちつづけるのは大変なこと。色味を細かく指定したり、流し込むタイミングを測ったりと、規格を統一していきました。

一方で、気温によってロウが固まる時間は変わるため、職人的なセンスも必要です。試作を繰り返すうちに質は安定していき、安心して任せられるようになったといいます。

歩さん:お母さんたちの、細かい作業に根気よく取り組む丁寧さや、創意工夫していく熱意には敵わないなって思います。自分の得意なことを活かして、楽しみながらキャンドルをつくってもらえたらと思っています。

「楽しい」を起点として、自然と広がってほしい

s_IMG_827210年暮らした東京から地元に戻った鈴木さん。震災の前と後で、どんな変化を感じているのでしょうか。

鈴木さん:キャンドルが完成したあと、海辺で全て手づくりのシーサイドパーティを開いたんです。それぞれの感性で飾り付けをして、新鮮な地元の食材を持ち寄ってBBQをして。30人位集まってくれました。漁り火が綺麗で、波の音が心地よくて、すっごくいい雰囲気で。それから毎月集まるようになりました。みんなが代わる代わる先生になって、藍染め教室や料理教室を開いています。

いままで、女性や若者が直感的にいいなと思えるものや、クリエイティブな発想や場所って、やはり都会が多かったと思うんです。でも、発想次第でどんな場所でも、アイデアや人が集うだけで無限の可能性があると感じました。語弊があるかもしれませんが、もしかするとそれは、震災があったからかもしれない。あるのが当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないことがわかって、そういった本来の価値を見直し、再定義していきたいと思うようになりました。

そうした視点で見ると、気仙沼は宝の山でした。蛤の貝殻はキャンドルの器に。打ち上げられた流木は商品のディスプレイに。キャンドルを手づくりするワークショップを開くと、参加者は近くに落ちている海藻や葉っぱを入れるのだとか。そこから新製品のアイデアが浮かぶこともあるそう。

『pensea SEASIDE CANDLE』は、気仙沼の新しいお土産として注目を集め、有名店からも問い合わせがきているといいます。地元のお母さんや子どもたちが、地元の素材を使って楽しく表現した製品が全国から注目を受け、都会のお洒落なお店に置かれる。今後、そうした動きも起こっていくかもしれません。

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砂浜に落ちているシーグラス。子どもたちが見つけると、「宝石拾った!」と喜ぶそう。

松田さん: そうなったら、きっと地元の人たちの自信にもつながると思うんです。クリエイティブな仕事は都会じゃないとできない、と思いがちだけど、パソコンひとつあればできることもあるし、自然豊かな場所にいることで感性が磨かれるという側面もあります。

せっかく歩さんというクリエイターが気仙沼にいるんだから、生き方や働き方の多様性を発信したり、地元のこどもたちに「こんな仕事もあるんだよ」と選択肢を提示したりするようなことができたら、と思っています。

アイデアに詰まったら海を眺めて、なんならマリンスポーツを楽しんで。足下に可愛い貝殻や流木が落ちていたら工房に持ち帰り、何かに活用できないかと相談する。そうした環境だからこそ生まれてくるものはあるし、きっとそんな暮らしをしたいと思うクリエイターも多いはず。

鈴木さん:「楽しい!」って思えることって、とても大事だと思うんです。「雇用を生み出す」とか「新しい産業を」っていう大きな事柄でも、根元に「楽しい」がなければ長くは続かないし、本当に伝えたいことが伝わらない気がしています。

自分がここに戻りたいと思ったのも、そんな後ろ姿を見せてくれた大人たちが、両親をはじめ、ここにはたくさんいたから。見えない糸を紡ぐ想いで、「楽しい」を起点として自然と広げていけたら、と思います。

流れに逆らわず、でも流されず。波乗りを楽しむかのように気負いなく自然体なふたりの姿勢は、海辺の雰囲気によく合っていました。きっと、緩やかに活動を広げ、新しい製品やデザインを届けてくれることでしょう。今後が楽しみです。


 

2015.4.9