物語後編

復興とは、自分の足で立ち、歩いていくこと

s_48バッグの製作を開始する際、必要な機械をアストロ・テックに寄付しようという話がありました。しかし、佐藤さんはきっぱり断ったといいます。

加賀美さん:秋夫さんは、「長い時間がかかるけど、自分で買わせてください。復興は誰かから貰うものじゃない。自分の足で立って、歩いていかないとだめなんだ」とおっしゃるんです。「貰ってしまったほうが楽でしょうに」と話したら、「何年か経って払い終われば自分たちの機械になります。僕たちは中途半端に小手先だけでやろうとは思っていません。バッグメーカーとして、真剣に考えているんです」って。

本当に、強い信念を持った、尊敬できる方だな、と感じました。そういう方が私の想いを受け取って、一緒にバッグをつくってくださっているということを、 とても嬉しく思っています。

アストロ・テックにとって、バッグの製作ははじめてのこと。最初は加賀美さんが親しくしているバッグメーカーが工程の多くを担当し、アストロ・テックは手織り部分だけを担当していました。しかし、つくり手たちはどんどん技術を習得し、いまでは自社で一貫製造できるようになったそう。元々が小さな電子部品を行っていた工場なので、1ミリの狂いもなく仕上げているといいます。

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加賀美さん:ファッションの業界では1ミリは誤差の範囲だけれど、電子部品だと大きな差ですものね。日本と海外、両方のものづくりを見てきて実感したのは、日本のものづくりに対する真摯な姿勢のすばらしさです。使う人のことを想い、見えないところでも余分に一針縫う細やかさ。秋夫さんも、そういう心を製品に反映してくださっています。

そうした努力の賜物でしょうか。アストロ・テックの売上は、なんと震災前の約200%を記録しているといいます。また、2013年の春に、これまでの歩みを全て肯定されるような嬉しい出来事がありました。皇后陛下が被災地を慰問された際、その手にLOOM BAGを持っていたのです。

加賀美さん:ニュースで拝見したのですが、まさか皇后さまが使ってくださっていたなんて、と感激しました。グレーのお召し物にシルバーのLOOM BAGを合わせていらして、とても上品で素敵でした。秋夫さんはその夜、奥様と涙をこぼしたといいます。社員にも連絡をして、喜び合ったんですって。

その後も皇后さまは、南三陸を訪れた際にアストロ・テックの前で車の窓を開けて手を振ってくださいました。お礼のお手紙を差し上げるようなことは畏れ多くてできませんが、そのお優しさにアストロ・テックのみなさんがどれだけ励まされたことでしょう。感謝の気持ちは言葉では言い尽くせません。

 20年かけて、愛のタペストリーを織り上げていく

s_P1080544LOOMでは、2012年の春から桜の植樹をはじめました。ドーメル社、オンワード樫山、三陽商会、サンモトヤマ…ファッション業界で活躍する数々の企業が、加賀美さんの呼びかけに応えて寄付をしてくれたといいます。

加賀美さん:「桜をオーナー制にすれば、すぐに3千本の寄付が集まりますよ」とアドバイスしてくださる方もいました。でも、亡くなった方の霊を慰めたい、桜の木に宿って復興を見守っていただきたいと始めたことですから、木に企業の名前をつけるようなことはしたくないと思いました。その想いを共有してくださる、心ある企業のみなさまからの支援でこのプロジェクトは成り立っています。

また、LOOM BAGの売上の一部も、植樹の資金になっています。アストロ・テックのみなさんたちは、バッグをつくることで自分たちのまちに美しい風景も生み出しているんです。

植樹会はこれまでに3回行いましたが、地元の人や子どもたち、外からの支援者など、たくさんの人が集まり、温かな交流が生まれているそう。普段の木の世話は、地元の森林組合のみなさんに仕事としてお願いしました。「自分たちの桜」として、丁寧に手入れしてもらえているといいます。

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南三陸の子どもたちが描いた桜の絵は、ドーメル社のポケットチーフの柄にも採用されました。

加賀美さん:このプロジェクトを始めて、心はすっかり南三陸に奪われてしまいました。東北の人たちが持つあたたかみ。自然と調和した美しい暮らしや考え方。都会では失われてしまった日本の原風景が東北にあると思います。

「LOOM NIPPON」の名刺は、白地に赤い日の丸のデザインです。ただし、日の丸は真ん中ではなく左端に印刷されていて、半分欠けています。これは、日本の心が傷ついたままであることと、日の丸が昇り真ん中に戻ってくることができるよう尽力したいという決意を表しているそう。

幾度も大災害に見舞われながらもめげることなく、柳のような強さで復興してきた日本。加賀美さんはその想いを受け継ぎ、「復興を手伝う」のではなく、「一緒に復興していく」という気持ちを持って活動に取り組んでいます。

加賀美さん:LOOMがコンセプトにしている“愛のタペストリー”の、縦糸はご先祖さまから未来の子どもたちへと受け継がれていく時間の流れ、横糸はいまを生きる私たちの歩み。そして、タペストリーに模様を生み出すのは横糸の仕事です。私たちの世代が何を行うかが重要なのです。LOOMは、美しい桜並木と、東北の人々の豊かな暮らしを残していきたい。20年かけてタペストリーを織り上げ、後世につないでいけたらと思っています。

2015.4.3