物語後編
これまでの割り箸とは別の市場で勝負する
利久、天削、元禄、小判、丁六。割り箸の世界は実は奥深く、形や加工方法によって格付けがされています。高橋さんと同じ時期に国産割り箸に新規参入した業者はほかにも数社あったそうですが、そのすべてがスタンダードな元禄を選んでいました。
でも、元禄の割り箸は中国産のものもたくさん入ってきています。そこでどんなに「国産間伐材」を謳っても、結局は価格競争に乗らざるをえなくなる。高橋さんはそう考え、最高級の杉利久9寸柾目の割り箸をつくることにしたといいます。
利久は中央をやや太くして、両端を細く削ったもののこと。吉野でつくられている利久は八角形をしています。うちでは更に、その角を落として丸みをつけました。角張ったところがなく持ったときに痛くないので、特に女性に喜ばれています。
手によく馴染む感触の良さも相まって、さまざまな企業や団体から「オリジナルの箸をつくりたい」と言われるように。社内にデザイナーを置き、クライアントのニーズに合わせてオリジナルデザインの箸袋や焼き印を製作するようになりました。高級レストランで採用されたり、イベントのノベルティグッズとして使われたりと、中国産割り箸とは全く別の市場で評価されているようです。
今春からは、新製品の『眠り杉枕』も販売開始予定です。割り箸の会社なのに、なぜ枕なのでしょう?それは、厳密に強度検査を実施していて、一定割合で廃棄する割り箸が出てくるため。その割り箸を細かく刻んでチップにして、枕に詰め込むことにしました。木の香りがほのかに漂い、心地良く眠れる枕です。
高橋さん:これで、より間伐材を有効活用できるようになりました。節が多く使いづらい材でも、枕にすればいいんだから。いまうちでは、仕入れた丸太から一切ゴミが出ない状態です。木材の乾燥に使う熱源にも薪ボイラーを使っているし、石油系燃料は使っていません。
磐城高箸では、環境への配慮と経済性がしっかり両立しているようです。
「何がなんでも続ける」という、強い覚悟を持って
7人のスタッフを雇用し、傍から見るととても順調のように思える磐城高箸ですが、高橋さんは「まだまだです」と苦笑します。
高橋さん:僕自身の給料は出ていないようなものだし、とにかく潰さないようにと必死です。震災のあと、NPOがたくさんできてみんな頑張っていたけど、いま残っているところはかなり少数。新しいことを始めようとするのって、大変なんですよ。
特に僕は、少し縁があったとはいえ、いわきの人にとっては新参者です。目立てば面白くないと思う人も出てきます。でも、最終的に結果を出せば認めてもらえるから、それまでは周囲の声を気にせず自分がやるべきことに集中すると決めました。「3年やってダメなら首つろう」という覚悟のもと、ここまでやってきたんです。事業を成功させるには、強い覚悟が必要なんだなと思っています。
地域資源を活用したソーシャルビジネスでは、想いばかりが先に立ち、経営戦略がおろそかになるケースが多々あります。磐城高箸がとっているのは、「スギという地域に潤沢にある資源を、一番競合が少ない分野で、無駄を出さずに活用する」「自社一貫製造で直接販売し、中間業者を挟まず利益を最大化する」という戦略。こう書くと当たり前のことのように思えますが、その当たり前のことをしっかり押さえてきたからいまがあるのかもしれません。
高橋さん:助成金狙いで始めたビジネスじゃありませんからね。なんでやるのかというと、いわきにスギがあるから。単純ですが、もうそれに尽きる。いかに間伐材を消費できるか、それだけを考えています。
でも、始める前は「5年経ったらこのあたり、ハゲ山だらけになってるよ」なんて思っていたんですよ。それなのに、逆にどんどん増えてますからね。木々の成長に、会社の成長が追いつかない。「こんなに無力なのかよ」ってがっくりきます。でも、やるしかありませんから。
熱い想いと冷静な頭を持った高橋さんは、これからも間伐材を有効活用するため、邁進していくことでしょう。被災地から始まった挑戦は、地域資源を活用するビジネスのひとつのモデルケースとなるかもしれません。今後が楽しみです。
2015.2.9