物語後編

海の、人の、時代の「潮目」

s_茶綿手ぬぐい(四種)2013年からは、収穫した綿から紡いだ繊維を使った製品も開発・販売しました。ブランド名は『ふくしま潮目-SIOME-』。“親潮と黒潮がぶつかる、福島の豊かな海としての潮目”“コットンを通して人と人が繋がる、出会いとしての潮目”“今までの社会のあり方を考え直す、時代の転換期としての潮目”という、3つの意味が込められています。

最初に誕生したのは、オーガニックコットンTシャツ。すべての工程を国内の工場で行っているので、細部までしっかりしていて、丈夫に仕上がっています。無地のもの、コットンベイブが描かれたもの、アーティストとコラボしたものがあり、これまでに3千枚以上売れているそう。

2014年秋には、ブランド名の“潮目”を表現したデザインの手ぬぐいも登場しました。たくさんの潮目が交わっている様子を、さざ波の形をポイントにした縞模様の重なりで表現しています。この手ぬぐいを企画したのは、いわきで生まれ育った酒井悠太さん。震災を機に、地元に関わりたいという気持ちが強くなったといいます。

「いわきから誇れるものをつくっていきたい」と話す酒井さん

「いわきから誇れるものをつくっていきたい」と話す酒井さん

酒井さん:ずっと、いわきに魅力を感じていなかったんです。中途半端に栄えたまちだな、と思っていて。でも、震災後に同世代が復興のために動いている姿を見て、「まちづくりって行政がやるものじゃないんだ、自分たちで行うものなんだ」と気づいたんです。誘いを受けたこともあり、勤めていた会社を辞めて、おてんとSUNに合流しました。

『ふくしまオーガニックコットンプロジェクト』の製品は、オーガニックコットンを使い、加工を全て国内の工場で行っているので、既存のものと比べると価格が高くなりがちです。価値を理解している人には「安い」と言われますが、そうでない人には、きちんと値段に見合う理由があることを伝えなければいけません。生産者と消費者をつなぐ架け橋になれるよう、酒井さんは職人やデザイナー、農家の方々と日々話し合いを重ねています。

手ぬぐいの製作は、須賀川にある工房の職人が請け負っています

手ぬぐいの製作は、須賀川にある工房の職人が請け負っています

酒井さん:「農家さんを助けたい」とはじまったプロジェクトですが、正直言って農家さんは綿の生産だけでは暮らしていけません。そこに少し申し訳なさを感じていたんです。でも、あるとき農家さんから「福島の農業再生なんて気負わなくていいよ。俺たちは良い綿をつくってるはずだから、自信を持って売ってほしい」と言われたときは、生産者の誇りを感じて、嬉しかったです。

たくさんの人の想いが込められたプロジェクトだから、最終的な出口となる製品に対して責任を持ちたい。酒井さんはそんな気持ちで製品開発や販売に取り組んでいるといいます。

 小さいけれど確かなつながりをつくることが、
コミュニティを再生する鍵になる

いわき市は、福島の中でも特に複雑な事情を抱えるまちです。津波と地震により、約4万戸が全半壊状態となり、死者は400名を超えました。前述したように、直接的な被害を受けていなくても、原発事故の影響で大きな損害を被った農家もいます。s_IMG_5966

そうした状況の中、楢葉町、富岡町、大熊町、浪江町、広野町からの避難者を2万人以上受け入れたため、まちは混乱しました。被災者であることは同じでありながら、住んでいた場所によって賠償金や義援金など支給されるお金の額には大きな差がでます。また、人口が増えたため、病院や道路が混雑する、住宅が不足するなど、日常の風景も一変しました。

吉田さん:もっと離れた過疎地域だったら「人口が増えて嬉しい」となったかもしれないけど、いわきではそうした単純な迎え方ができなかった。震災直後は優しい気持ちで受け入れた人たちも、少しずつ不満を蓄積してしまいました。行政もそれに策を講じることができないまま、わだかまりが残ってしまったんです。

誰に罪があるわけでもないのに手を取り合うことが難しい状況の中、吉田さんは、市内の被災者と市外からの避難者、両方と一緒にプロジェクトを進めています。それぞれの立場に配慮しなければいけない大変さはありますが、それでもどちらか一方に偏ることはしたくないといいます。

s_収穫祭

吉田さん:畑では、被災者も、避難者も、県外からのボランティアも、みんなで一緒に作業をしています。ここでは、「地元の人」とか「避難者」とかじゃなくて、「鈴木さん」「高橋さん」っていう、ひとりの人間としてつき合えるんです。話をするうちに、お互いの抱える大変さもわかってくる。そうした小さいけれども確かなつながりをつくることが、コミュニティが壊れてしまったこのまちでは大きな意味を持つんじゃないかと考えています。

分断されてしまったコミュニティを、もう一度つなぎなおす。『ふくしまオーガニックコットンプロジェクト』には、単にコットンを栽培して収入を得るだけではない、新たな価値が生まれているようです。

吉田さん:この流れを途絶えさせないためにも、福島のことを誇りに思えるような製品、福島に来たいと思ってもらえるようなツアーを企画して、プロジェクトを続けていきたいと思います。

2015.2.9