物語後編

いつか、富岡の桜で桜染めができたら

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「この赤は、夜の森公園のあの真っ赤な紅葉に似てるね」「ああ、これは秋になるとうちの窓から見えていた、風でふわあっと揺れる稲穂の黄色だ」——新しい色が染め上がると、メンバーは懐かしそうに目を細め、思い出を語り合います。“みんなが心の中に持っている、ふるさとの色を染めていく”というコンセプトから、製品には『富岡ふるさとこころ染』という名前をつけました。

小野さん:本当は、富岡の植物で染めたいんですよ。あっちは自然豊かだから。住んでいたときはいつでもできるだろうと思ってやってこなかったという話でね。まさか自分の身にこんなことが起こるなんて、想像もしていなかったから。いまは郡山の草木を使わせてもらって、富岡の風景を再現しています。

夜から朝にかけて、紅く染まる富岡の海。

夜から朝にかけて、紅く染まる富岡の海。

くちなしで麻のショールを水色に染めたり、からむしでハンカチをピンクに染めたり。メンバーは染めの奥深さに夢中で、道端を散歩していても「あの花で染めたら何色になるかな」と考えてしまうそう。草花を見る目が変わったといいます。

小野さん:春にはいよいよ、桜染めに挑戦します。富岡には2.5kmの桜並木があって、それは綺麗なんですよ。なんといっても町のシンボルだから、これに挑戦しないわけにはいかない。「富岡の桜を拾ってきて染められたらいいね」なんて話もしたけど、さすがにまだそれはできないから、郡山のソメイヨシノで染める予定です。

富岡町民はみんな、桜の下で育っています。それぞれの家に生えている桜を使って、桜染めをしたい−−。そんな慎ましい願いが、おだがいさま工房のメンバーにとってはいつ叶うともしれない悲願なのです。

本当のスタートはこれから

s_IMG_4192順調にスキルを伸ばしていったメンバーですが、ひとつ問題がありました。それは、最初に下りた助成金がコミュニティづくりを目的として支給されたものだったため、人件費が出なかったこと。製作したものを展示販売する機会があっても、そこで得た利益を製作者に還元するのはNG。利益は何か次の活動へと充てなければいけませんでした。

当初は「技術を学んで仕事にしよう」と集まったメンバーも、「生活のことを考えると、別の仕事を見つけなくちゃ」と少しずつ離れていったそう。いま残っているのは、郡山に7人、いわきに12人。染めや織りに魅せられた人たちです。

ただ、助成金は今年の3月で終了します。それ以降は自分たちで、工房の維持費を稼がなくてはいけません。いままでは「良いものを製作する」ことだけに注力していましたが、「製作したものを販売し、利益を得る」ことにシフトする必要があります。最初は切り替えに苦労することでしょう。でも、小野さんたちつくり手も、遠藤さんたちサポート側も、なんとか工房を存続させたいと考えています。

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遠藤さん:いろんなことがあるけど、ここに来るとほっとするんです。意見がぶつかることも怒られることもあるけど、同じ富岡町民だからかな、みなさんと話していると、自分のふるさとに帰ったようなあたたかい気持ちになります。だから、この場所をなくしたくないと思っています。

4月からは堂々と製品を販売して収入を得られるようになるという良い面もあります。遠藤さんは知り合いの店に声をかけて、おだいがさま工房の製品を置いてほしいとお願いしているといいます。

遠藤さん:いままで暮らしてきたまちがあるのに帰れない。いつか帰れるかもしれないと思うと、こっちに家を建てるのも迷う。外には出さなくても、みんながそんな想いを抱えていると思います。そうした中でも、自分たちで生きがいを見つけて歩いていこうって、お給料が出なくても続けてきた人たちなんです。その想いが報われるようにしていきたい。

もうすぐ4年も経つから大丈夫でしょ、と思われるかもしれないけど、おだがいさま工房はこれからが本当のスタート。だから、みなさんにも応援してもらえると嬉しいです。

2014.12.2