つくり手インタビュー

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郡山のおだがいさま工房は、かつて飲食店として使われていた建物を工房に改装して活動しています。作業中はそれぞれの作業に集中しているみなさんですが、休憩時間になるととっても賑やか。冗談が飛び交い、笑い声が絶えません。小野さんやみなさんにお話を伺いました。

富岡で工房を開くのを目標に

¥IMG_4418——小野さんは、震災前は何をされていたんですか?

小野さん:私は役場の退職OBで、シルバー人材センターにいたんですよ。地震のときも仕事で車に乗っていて、すごい揺れでね。なんか変だな、パンクでもしたかなと車を止めたら、地面は揺れるし、建物の窓ガラスがバーンって割れて2階から落ちてくるしで、なんだこれって。

事務所に戻ったらめちゃめちゃになっていたけど、明日片付けっぺと思って家へ帰ったの。そしたら翌朝すぐに避難しろということになってね。6時前に畑に行ったら、「何やってんだ避難しろ」って言われて、「避難ってなんだ、どこさいくだ」って言ったら「ひとまず川内へ逃げろ」と。道路は数珠つなぎで大渋滞だったな。3家族で車に乗って逃げて、川内の『いわなの郷』っていうキャンプ場が避難所になってたから、そこに入ったんですよ。

でも、夜中の1時くらいかな、エンジンの音や人の声がするんだわ。原発関連の会社に勤めていた人には情報が入ってたんだな。朝には人が半分になってた。そのうちにボーンって爆発して、これはダメだ、ガソリンがあるだけ遠くへ行こうって。まさかこんなことになるとは思わないし、着のみ着のままだったから大変でしたよ。知り合いや親戚の家を転々として、最終的にビッグパレットに入りました。

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——なぜおだがいさま工房に参加しようと思ったんですか?

小野さん:センターのほうで募集してて、興味あるしやってみっかと思って。自分で染めていい色が出ると面白いよ。先生はスパルタだったけど。

——厳しかったんですね。

小野さん:普段は優しいけど、やるとなったらそれはもう、おっかねんだ。ムラなんてあったらやり直し。「趣味でやるなら帰れ」って。でも、おかげで上達しましたよ。最初は先生がデザインしたものを製作してたけど、補助金が切れたあとのことを考えて、一年前から自分たちでやってます。

——染めは楽しいですか?

猪狩さん:覚えることがいっぱいあって大変だけど、面白いですよ。茎を使うか花を使うか、生木か乾燥したものかで抽出の仕方が変わるんです。色も、何度も染めて、いくつもの植物を合わせることで表現します。槐と茜をかけてオレンジ色を出したり。紅花に黄色が含まれていたり、白い花の中にも青い色素があったり、そういう性質を知らないと失敗するから、詳しくなっちゃいました。

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染めるときの温度は80度ほど。ムラができないよう、ずっとかき混ぜていなければいけません。

——奥が深いんですね。

猪狩さん:色だけじゃなくて、柄もそうです。絞りを入れて柄を出すんですが、その技法もたくさんあるんです。丸めて三つ編みにしたり、脱脂綿を丸くしたものを包んで縫い合わせたり。

最近は型抜きが楽しいんです。先日は会津に行って会津型をもらってきました。コスモスや紅葉、桜を自分たちでデザインして型をつくったりもするんですよ。型抜きは親方が得意で、毎日50枚くらいつくってくれてます。大したもんですよ。

工房にある型は数十種類!

工房にある型は数十種類!

——織りや仕立ても自分たちで行うんですよね。

猪狩さん:ええ。でも、最近は染めの作業が忙しくて、みんな織り姫に変身できずにいます。ずうっと染め姫ですね。仕立ては、永橋さんがひとりで担当してくれています。

——ひとりでですか、すごいですね。ミシンが得意だったんですか?

永橋さん:いえいえ全然。糸を通すのも針を変えるのも、なんにもできなかったんです。でも、縫える人がいわきに行っちゃっていなくなっちゃったから、仕方なく。先生から「100個縫いなさい」って言われて、「そんなに縫えないよ」と思ったけど、ほんとにバッグやポーチを100個縫った頃から、ちゃんと縫えるようになりました。

「素人でも、ずっと練習していると縫えるようになるんです」と永橋さん。

「素人でも、ずっと練習していると縫えるようになるんです」と永橋さん。

——みなさん、毎日いらっしゃっているんですか?

小野さん:9時から5時までね。男は仕事があるけど、奥さんは仮設に籠り切りになったりするでしょう。だからここに来たほうがいいんですよ。

永橋さん:こういう活動がないと、「あーまた何もしてないのにぼーっと1日過ぎた、夕飯つくらないと」ってなるんですよ。かえって疲れるよね。

小野さん:後ろさ戻ることはできないから、振り返っちゃだめね。振り返るとあのときはああだったこうだったって抜け出せなくなっちゃうから。だから前、前、前って、前を見ないと。ここで染めをしてるのがいいよ。

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——製作だけでなく、体験会やイベントも開いているそうですね。

小野さん:そうそう。先日は『再会の集い』でこどもたちに藍染め体験をしてもらってね。全国に避難したこどもたちが集まって友達と再会するイベントです。3月11日に学校で別れたきり、それぞれ避難先が違って会えてない友達同士もいるでしょう。楽しそうに藍染めしてましたよ。

富岡中学校の立志式でも染めの体験をしてもらう予定です。郡山の学校へも提案していきたいですね。

——春には社会福祉協議会からも独立して活動していくことになるそうですね。

小野さん:工房の家賃は高いし、商売に関しては素人だし、課題は山積み。でも、補助金が切れたらはい終了、というわけにはまさかいかないでしょう。こうしてみんなで日々技術を磨いてきたんだから。

富岡に帰って、富岡の素材を使って染めや織りをして、それを町の目玉にしていくのが目標だけど、それまでは郡山で頑張るしかない。だから、なんとか続けていけたらと思っています。

触り心地の良い麻のショール。

触り心地の良い麻のショール。

富岡の海を表現したバッグ。

富岡の海を表現したバッグ。

小野さんが描いた掛け軸。

小野さんが描いた掛け軸。

製作工程

今回は、藍染をしたハンカチに型抜きで模様を描く工程を教えてもらいました。選んだのは、工房のみなさんが描いた、富岡のしだれ桜の模様です。
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まずはハンカチに型を固定します。

¥IMG_4263色を抜く抜染糊をよく伸ばしてヘラにとり、型の上から塗布します。
45度位の角度で、上、下、上、下とまんべんなく刷り込むのがポイント。

¥IMG_4266液だれしないよう、ななめに型を持ち上げ外します。
型のところだけ藍が抜けて白くなりました。洗って乾かすとより白さが際立ちます。

¥IMG_4384アイロン掛けをしたら、おだいがいさま工房のタグをつけます。

¥IMG_4389完成!藍色と白のコントラストが綺麗なハンカチができました。

 

2014.12.2