物語前編

故郷が避難区域となり、いまもなお住み慣れた地域から離れて暮らすことを余儀なくされている人たちがいます。その中でも障がい者は地域や社会とのつながりを絶たれ、引きこもりがちになっていました。
仕事をすることで、自分の役割を取り戻したいーーそんな想いから生まれたのがふたば製作所の『つながりのかばん28』です。
スタッフの高澤真理子さんにこれまでの歩みを伺いました。
被災した障がい者たちは、どうしているだろう
ふたば製作所の代表を務めるのは、自身も脳性まひを持つ白石清春さんです。重い障がいを抱えながらも、地域作業所や自立生活センターを立ち上げるなど精力的に活動を行ってきました。
東日本大震災が発生してすぐ、被災地の障がい者たちの身を案じた白石さんは車で県内の避難所を回り、障がい者の安否確認とニーズ把握を実施。4月6日に『JDF被災地障がい者支援センターふくしま』を立ち上げました。
白石さんが暮らす郡山には、原発事故で立ち入り禁止区域となった双葉郡の住民たちが避難してきていました。浜通りにある双葉八町村はいずれも小さなまち・むらで、障がい者たちも地域に溶け込み暮らしていたそう。畑仕事を手伝ったり高齢者や子どもの面倒を見たりと、地域に居場所や役割があったのです。しかし、震災でそうした暮らしは崩壊しました。
隣に住んでいる人が誰かもわからない、自分がどこへ行って何をしたらいいかもわからない。郡山の仮設住宅に入った障がい者たちは、慣れない土地や人間関係に戸惑い、引きこもりがちになってしまいました。
そうした人たちが集まるためにできたのが、『交流サロンしんせい』です。仮設住宅から一歩でも外へ出てきてもらおうと、DVD鑑賞やヨガ、お茶会といった交流イベントを企画しました。
震災前と同じように、自分の役割を持ちたい
最初、そうした企画は好評で「楽しい、楽しい」と喜ばれました。でも、間もなく参加者の間に「これでいいのかな」という不安が芽生えます。震災前と同じように、自分の役割を持ちたい。働いて、誰かの役に立ちたい。聞こえてきた声に応えるため、2012年4月、障がい者が働くための場所として『ふたば製作所』を設立しました。
じゃあ、何をつくって仕事にしよう?みんなで話し合いを重ねた結果浮かんできたのは、使用済みのA4封筒を重ね合わせてかばんをつくるというアイデアでした。
高澤さん:捨てられていくもの、みんなが使わなくなったものを素敵なかばんへと再生して、福島ががんばっていること、復興に向けて少しずつ進んでいることを伝えたいね、という話になったんです。かばんに熱い想いをぎっしり詰めて、全国へ飛んでけーって。そういう広がりができたらいいなと思いました。
製品として完成するまでにはたくさんの試行錯誤があったそう。封筒は使用済みのものなので、宛名や送り先といった個人情報が書かれています。最初は上にシールを貼ってみましたが、ロウを塗ると透けて浮かび上がってしまいます。最終的に、文字が書かれた部分は切り取ってから加工することにしました。
高澤さん:参加者の中にはハサミやカッターを持つのが初めてという人もいました。でも、毎週続けていくうちにどんどん上手になって。できるようになると、すっごく良い表情を見せてくれるんです。自分ができたことが嬉しいんですね。最初はボンドは手が汚れるから嫌だって言っていた人も、だんだんと「自分の仕事だから任せて」と責任感を持ってくれるようになって。
紙を半分に折る、糊をつけるといった単純作業を何時間もすることって、中々難しいでしょう?でも、ここにいるみなさんはそれが自分の楽しいお仕事なんだと頑張ってくれています。そういう姿を見ると、嬉しくなります。
かばんの形になったら、表面に使用済みのロウを塗って撥水加工を施し、色違いのマスキングテープを2本貼ってささやかに飾り付けをします。双葉を表す「28」の文字を書いたら完成。この文字は、みんなが交代で書いています。

価格は1000円。小さなバッグとパンフレット、おみくじもついてきます。
封筒やロウは、企業や学校、一般家庭から送ってもらいました。たくさんの人とのつながりによって生まれたかばんなので、名前は『つながりのかばん28』。封筒を送ってくれた方がかばんの完成を喜び買ってくれるなど、素敵な縁がどんどん生まれているといいます。
福島県内11の事業所が連携してお菓子づくりに挑戦
福島県内には、被災した就労系事業所が多数存在します。そうした事業所を支援することもJDF被災地障がい者支援センターふくしまの役割のひとつです。
事業所同士で協力し、新たな製品を開発できないか−−。11の事業所が連携し、
2014年10月、『魔法のおかし・ぽるぼろん』が生まれました。
ポルボロンはスペイン・アンダルシア地方で、修道女がつくっていた伝統菓子。軽くて柔らかく、口に入れるとほろりと崩れます。口の中で溶ける前に「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン」と3回唱えると、願いが叶うのだとか。
日清製粉グループから製菓技術の支援を受けているため完成度が高く、「難民を助ける会」からの支援でパッケージデザインもお洒落に仕上がっています。開発には1年かかったそう。背景には、製品の魅力で売れるものをつくり、工賃を上げたいという想いがありました。
高澤さん:仕事そのものにやりがいを見出してくれている方も多いけど、やっぱりお金がもらえると嬉しいですよね。いまはまだ充分とは言えないので、なんとか工夫して工賃を上げていきたいです。
それに、はさみを使う作業が好きな人もいれば、料理が好きな人もいます。みんなが得意なことができたらいいな、いろんな種類のお仕事がつくりだせたらいいな、と思っています。
2014.12.3