物語前編

大小さまざまな箱が天井近くまで積み重なる、『ワークショップ支援チーム つくるプロジェクト』の事務所。映画に出てくる古道具屋のような雰囲気で、「あの中には何が詰まっているんだろう?」とわくわくしてきます。
その中身の多くは、行き場を失った素材たち。毛糸にビーズ、浴衣に古着…。代表の久保田さんは、こうした素材を再生し、被災者の心をケアするために使っています。
相馬でワークショップをしよう
久保田さんの本業はインテリアデザイナー。東京の神楽坂に拠点を持ち、株式会社ハテナバコという会社を経営しています。得意分野はリフォームやリノベーションですが、エコプライというペットボトルキャップのリサイクル材を使った家具・雑貨のデザインなども手がけてきました。
しかし、震災で木材をはじめとする材料の多くが被災地へ集中し、リフォームの仕事は一時中断せざるを得なくなります。そこで久保田さんは、その間に被災地に対して何かできることはないかと考え、仮設住宅へのエコプライ家具の寄贈と、エコプライを使った子ども向けワークショップを企画しました。
久保田さん:ワークショップは以前から環境教育の一環として開催していたので、それを被災地で行おうと考えました。
でも、ワークショップの開催と家具の寄贈には、材料費や交通費など決して少なくない額のお金が必要です。私が幸運だったのは、いままでの活動を通して、社会的意識の強い企業や個人とのつながりがあったこと。支援してくださる方がたくさんいたおかげで、実現することができました。
2012年7月、久保田さんは知人から紹介を受け、福島県相馬市の仮設住宅を訪問。子どもたちを集めてエコキーホルダーを製作しました。
当時は人々が避難所から仮設住宅へ移りはじめていた時期で、「隣に誰が住んでいるかもわからない」「集会所に行きづらい」という人も多かったそう。ワークショップでは子どもたちだけではなく親同士やお年寄りの交流も生まれ、とても良い雰囲気だったといいます。「楽しかった!また来てね」と言われ、久保田さんはものづくりを通した支援活動を継続していこうと決意しました。
ワークショップで、心のケア
ワークショップは何度か開催しましたが、相馬では原発事故の影響で他県に移住する家庭も多く、月日が立つにつれて子どもの数は少しずつ減っていきました。
久保田さん:その代わり目に入るようになったのが、毎日やることがなくテレビを見ているおばあちゃんたち。昔は畑や海の仕事をしていたのに、行くところ、やることを失ってしまった方々です。「私はここで死んでいくだけだから」なんて言う人もいました。そこで、編み物のワークショップを開いて、そうした人たちの辛さや悲しさを一瞬でも和らげられたらと考えました。
編み物にしたのは、おばあちゃんたちにとって馴染みがあり、楽しく取り組めるだろうと考えたからです。また、狭い仮設住宅の中でもできること、毛糸や編み針は支援物資として集めやすかったこともポイントでした。
久保田さん:ニットデザイナーさんに協力をあおいで、最初に寄付したエコプライのスツールにかけるクッションカバーをデザインしてもらいました。デザイナーさんに依頼したのは、「ひとりひとりがつくったものを集めると形になる」こと。ワークショップを通して、一体感や達成感を感じてもらえたらと思ったんです。
そうして完成したのが、六角形の花を組み合わせたクッションカバー。見た目はとても可愛らしく仕上がりましたが、糸の太さや製作する人の技術によって花の大きさが変わるため、組み合わせるのには苦労しました。製品化しておばあちゃんたちに工賃を払うつもりでしたが、これでは安定して製作するのは難しそうです。そこで、ひとつひとつの花そのものを主役にすることにしました。
久保田さん:おばあちゃんたちが好きなのは、ほんとに編むことだけなんです。製品化することにはあまり興味がないようでした。そういう人たちにプロ意識を求めて、規格を統一するのは難しいんですよね。だから、編んでもらったお花を夏フェスに持っていって、子どもたちとヘアゴムやペンダントをつくるワークショップを企画しました。
これが大好評。「売りづらいな」と思っていた蛍光色のお花も夏フェスの雰囲気にはぴったりで、たくさんの方に気に入ってもらえたそう。おばあちゃんたちがつくるお花は、素材も色も大きさもバラバラ。その多種多様さが、ものづくりの材料としては魅力になるのです。
このことから、久保田さんたちの活動のテーマが固まってきました。被災者の心のケアにつながるワークショップを開催するために、被災者が編んだお花を使った製品の販売やワークショップを行う、『ワークショップ支援チーム つくるプロジェクト』。団体名やロゴも決まっていきました。
使われていない素材を再生して、背景の物語を伝える
最初の頃、製品は『毛糸のおはなアクセサリー』と呼んでいましたが、毛糸だけでなく糸も使っていること、夏に毛糸という言葉を使うと敬遠されがちなことから、ブランディングデザインを見直して『編*花 amihana』という名称に変更しました。
商品をつくる上で苦労したのは、お花の糸の組み合わせ。久保田さんが考え、サンプルをつくって大きさや色合いを調整しながらデザインを考えています。工賃を多く支払うためにも、売れるものをつくろうと、色にはかなりこだわっているそう。数はなんと200種類以上!どの糸がどれだけあるかはまちまちなので、管理はとても大変です。
編*花のヘアゴムの真ん中のウッドビーズは、おもちゃの部品としてつくられたもの。生産の都合で不要品になり行き場を失っていましたが、編*花に通すとお花に立体感が生まれて可愛くなりました。
また、ヘッドアクセの革ひもや羽根は、エコプライのアクセサリー製作のときに使用していたもので、数年ぶりに日の目を見たそうです。
久保田さん:使わない材料も捨てずに残して、頭の中の引き出しにストックしておくんです。そうすると、何かのときに「そうだ、これと組み合わせよう」と閃くから。いつも、「あるものをいかに無駄にしないか」を考えていますね。
それは久保田さんの仕事や活動に一貫するテーマです。余っている素材、使われていない空間を、どうやって活かすか。デザイナーとしてそれを考えるのがとても楽しいのだといいます。
久保田さん:誰も目にとめないものでもアイデア次第で再生、よりよいものに蘇らせることができる。付加価値やデザイン性、マッチングによって見え方は大きく異なる。それに気づかせるような閃きをかたちにすることが私の役目なのかな、と思っています。
2014.11.10