つくり手インタビュー
現在、石巻縫物舎の製品を中心となって製作しているのは、石巻の蛇田地区で居酒屋を経営する太田さかえさん。とても精力的に活動されていて、石田さんが「仕事の進め方、時間のつくり方を逆に教えてもらった」と感心するほどです。一体どんな方なのでしょう?お店に伺って、お話を聞きました。
60になって、初めてミシンを覚えた
ーー太田さんは、震災前は何をされていたんですか?
太田さん:いまと同じように、ここで居酒屋を開いてたんですよ。このあたりは津波の被害は受けなかったの。ただ、隣にあった自宅が地震で半壊しちゃってね。店はなんともなかったのに(笑)それで仮設住宅へ入りました。

「居酒屋さかえ」にて。この日は石田さんも来て作業していました。
ーー石巻縫物舎の活動に参加したのはどうしてだったんですか?
太田さん:何もしないでいるのが嫌いだからさ。だから声かけられたとき、真っ先に手を挙げたんですよ。ミシンに触ったこともなかったんだけどね。
ーー指導のあと、すぐ縫えるようになりましたか?
太田さん:全っ然!最初は何がなんだかわからなくてね。教えてもらったときはなんとなくわかったつもりになっても、あとから自分でやろうと思うとさっぱり。
石田さん:まっすぐ縫うことすらできなかったよね。
太田さん:それどころか、糸をミシンのどこにかけるのかもわからなかったから。慣れるまではもう、無我夢中。
ーーほかの人が「辞めたい」と言ったとき、太田さんだけが「やる」と言ったと聞きました。
太田さん:好きなんだよね、こういう細かい仕事が。責任もあるし、できるようになるかわからないけど、続けたいと思ったんです。
ーー続けてきて、上達しましたか?
太田さん:したした!上達どころじゃないよ。我ながら天才だと思う(笑)
石田さんのチェックは厳しかったけど、そのおかげでここまでちゃんと縫えるようになりました。縫製を本職にしてる人からもお墨付きもらってるんですよ。
石田さん:縫物舎以外のところからもお仕事頼まれるようになりましたもんね。

「赤ちゃんのお洋服を頼まれて縫ったんですよ」と嬉しそうな太田さん。
ーー腕が認められたということですね。今日は、何の作業をしているんですか?
石田さん:古川にある病院の院長先生から頼まれたバッグの納品作業です。建物を新しくしたお祝いに、スタッフの方に配るそうですよ。
太田さん:明日、石田さんと一緒に納品してきます。150枚、一ヶ月で仕上げました。ひとりだからもう大変!
ーーすごいですね。毎日ここで作業しているんですか?
太田さん:そう、朝9時から、夕方まで。こういう納期のあるものは遅れちゃいけないでしょ、信頼に関わるから。だから毎日ここまで仕上げようって自分でノルマを決めて仕事してるの。でも、昼間は誰かしかお客さんが来たりするでしょ。手が止まるとノルマに届かなくて、そういうときは居酒屋の営業時間中も縫物してます。
石田さん:東京には洋服のお直しをしてくれるカフェや、編み物ができるカフェもありますよね。ある意味、最先端かもしれない(笑)
ーー家事もして、縫物をして、居酒屋も切り盛りして、だと大変ですね。
太田さん:その間に孫の子守りもしてね。でも、楽しいよ。できあがったときは楽しくて仕方ない。だから、私はこうして仕事があってありがたいと思ってます。
ーー目標にしていることはありますか?
太田さん:あるある!ウエディングドレス縫いたいの。オリジナル製品も縫えるようになりたいな。せっかくこうして覚えたんだから。
ーーそのうち、お弟子さんが現れるかもしれませんね。
太田さん:いやあ、まだまだ人に教えられるほどじゃないですよ。でも、やりたいという人がいたら、一緒にできると嬉しいですね。ただ、地味な仕事だから、若い人はやりがたらないね。
ーー興味はあるけど、きちんと縫えるようになるか自信がない、という人もいるかもしれませんね。
太田さん:大丈夫だよ、なんでも慣れ!慣れだから。
私だって、なんにもできないところから、こうして縫えるようになったんだよ。60になって初めてミシンを覚えたんだから。好きだったら、できるんだよ。その人の努力次第でさ。
私は縫物が好きだし、楽しいです。だからこうして頑張ってるし、頑張りつづけます。
ーー太田さんのそういう姿勢から刺激を受ける人や、勇気をもらえる人はきっといると思います。今日はありがとうございました。
2014.12.21