つくり手インタビュー

「妹はいっつも無茶ぶりなんですよ」。そう言って笑う菅野喜美子さんは、森さんのお姉さん。震災後一年は森さんを頼って栃木に住んでいましたが、家の再建を機に陸前高田へ戻り、『笑路』の製作をサポートしています。現在のつくり手は主婦たち5名。そのうちのひとり、鈴木早智恵さんは森さんの高校時代の同級生です。おふたりに、震災時のことやいまの暮らしについて伺いました。

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左が鈴木さん、右が菅野さん

「眠れないときは、一晩中ビーズ細工に取り組むんです。
余計なことを考えなくて済むから」

——地震のとき、おふたりは何をされていたんですか?

鈴木さん:私は仕事をしていて、家から離れていたんですよ。そしたら道路が瓦礫だらけになって、戻れなくなっちゃって。車の中でヒーターをつけたり消したりしながら一晩過ごしました。
主人は家にいて、地震後に津波を見にいこうとしたんですよ。海のほうを見たら大きな壁のようなものが目に入ったそうなんです。最初は何だかわからなかったけど、「津波だ!」って気づいて一目散に山へ逃げたって。

本当は津波を見に行ったりしたらだめなんですけど、もし見に行かなかったら家の中にずっといて逃げ遅れていたかもしれませんね。1階はめちゃくちゃになっていたから。

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菅野さん:私は当時、気仙沼の食品工場で働いていたんです。3階建ての建物の2階まで津波が来て、非常用のはしごを使って屋根に登りました。そこで一晩待機。みぞれが降っていて、風を防ぐものもないから、みんなでブルーシートを頭からかぶって。

気仙沼は火災がひどかったでしょう。匂いがすごくてね、重油の匂い、ガスの匂い。海と陸の間に挟まれて、燃えた船やタンクが建物の横を流れていくんです。「ぶつかったら終わりだね」「タバコは絶対に吸うな」なんて話していました。

——凄まじい体験ですね…。

菅野さん:翌日家に帰ったんだけど、仕事用の短靴だったから、瓦礫の上を歩けないじゃない?ビニール袋を何枚も重ねて巻きつけてね。なんとか気仙沼のホテル望洋まで行ったんだけど、その下は道路がめちゃくちゃだったから、幅が細い堤防の上をね、高所恐怖症の人は止まったら動けなくなりそうなところを、「波が来たら終わりだぞ」という覚悟で渡ったんです。

ホテル望洋からの眺め(2014年現在)

ホテル望洋からの眺め(2014年現在)

菅野さん:家のあたりがどうなっているかは全然わかりませんでした。「高田は全滅だ」「壊滅状態だ」って噂もあって。家は海の目の前だったから、父はだめだったかもしれないと思いました。でも、海っぱたに神社へと続く急な階段があるんですけど、そこを登ってなんとか避難したみたい。普通の人でも登れないような階段で、足腰弱いのにどうやって登ったんだか…。

ただ、歩くのが遅いから、通常の避難経路で逃げていたら津波に追いつかれていたと思います。とっさの判断だったんでしょうね。

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——ご無事でよかったです。その後は避難所に入られたんですか?

鈴木さん:私は避難所に入るのが嫌だったから、壊さずに修繕することにしたんです。泥をとって、骨組みだけにして…。しばらくかかったけど、その間は2階で暮らしていました。2階は無事で、布団とかもあったから。食事は避難所でお世話になっていました。途中までですけどね、行きづらくなっちゃったので。

菅野さん:私と父は一人暮らしの親戚の家に避難したんですが、オール電化の家だったから震災直後は料理も何もできないし、食べるものがない状態でした。着替えも仕事中に着ていた作業服一着だけ。でも、避難所に届いた食料や支援物資は避難所の人のものという雰囲気があって…。結局、家が残った人から分けてもらって凌ぎました。

——同じようなことをほかの地域でも聞きました。避難所を運営するにあたっての教訓にしないといけないと思います。その後、菅野さんは森さんのいる栃木に移住されて、一年後に戻ってきたんですよね。笑路はいつから始めたんですか?

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菅野さん:本格的に始めたのは、2012年の7月から。元々こういうのが好きだったということもあったけど、のめり込むものがほしかったんです。当時はまだ仕事も再開していなかったから。

鈴木さん:私も同じタイミングですね。ビーズ細工は以前から好きだったので、志津枝ちゃんから声をかけられて「やってみようかな」って。自営業なんですけど、震災後は仕事も少し減っていたから。最近は忙しくなってきたんですけどね。

——それでも続けているんですね。

菅野さん:没頭できるからいいんですよ。震災で経験した辛いことや嫌なことを思い出さなくて済むから。平日昼間は働いているんですけど、家で気が滅入ってしかたないときや眠れないときはこれを始めるんです。一晩中つくっていることもあるんですよ。これがなかったら、どうにかなっていたかもしれない。

鈴木さん:つくるのに夢中になっていると忘れられるからね。自分がどこにいるのかすら忘れていることがあります(笑)

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——でも、細かな作業ですし、ずっとやっていると疲れそうですね。

鈴木さん:そうですねえ、針を通すのが大変!目が疲れますね。ブルーベリー食べてますよ(笑)

——ひとつつくるのに、どれくらい時間がかかるんですか?

菅野さん:三鉄ストラップだと、一番早くて4時間くらい。

鈴木さん:ええっ、ほんと!?…これね、小さいけどビーズを700個使うんですよ。それを4時間で完成させるなんて、すごいことですよ。

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菅野さん:妹からこれを提案されたときは、「こんな細かいのできない」って思いました。いつも無茶ぶりなんですよ、「これつくってみてよ」って(笑)こっちは素人なのに(笑)

鈴木さん:でも、器用だから最後には上手に完成させちゃうんですよ。頼れるお姉さんなんです。

菅野さん:慣れるまでは大変だけど、だんだん手が覚えてくるんですね。図面を見なくてもつくれるようになりました。なんだかんだ言って、楽しいんですよね。

鈴木さん:私も、自分が無理なくできる範囲で引き受けているから、負担だと思ったことはありません。だからこれまで続けることができたんでしょうね。

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——イベントで笑路の商品を販売したことがあるんですが、5個、6個とまとめ買いをする方が多かったのが印象的でした。「細かい手仕事ね」「家族や友人にプレゼントするわ」って。

菅野さん:気にかけてもらえているんですね。嬉しいです。そういう言葉を聞くとつくった甲斐があるなと思います。

鈴木さん:私たちは買ってくれた人の声を聞く機会はあんまりないんですよ。でも、「どんな人が買ってくれるんだろうな」と想像しながらつくっています。

——今後の展望はありますか?

鈴木さん:新しい企画とかは志津枝ちゃんが考えてくれるから、それに対応できるように仕組みや体制を整えたいと思います。

菅野さん:そうですね、発注するほうも製作するほうも、お互いに無理のないように。それが継続するコツなんじゃないかな。長く、続けていきたいですね。

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2014.9.20