物語後編
お互いの強みを発揮できればプロジェクトは上手くいく
デザインが決まったら、いよいよ石巻のママたちの出番。チェーンを規定の長さに切って、リボンの大きさを揃えて縫い、パーツを組み合わせて製品を完成させます。でも、これが大変だったそう。リボンの大きさがバラバラだったり、裏側の縫い目が綺麗ではなかったり。海外であれば問題ない品質でしたが、日本の消費者は目が肥えているのでシビアです。青木さんは悩みながらも、一定の基準に達していないものは石巻に返品したといいます。
青木さん:でも、そこでめげるのではなく、「何を!」と奮起してくれたんです。やりとりをするうちにスキルがどんどん上がり、ついには「達人が現れた!」と思うほど高い仕上がりになりました。こちらの要望を我慢強く受け止めて、着実に腕を磨いて応えてくれる。これが東北人の強さですよね。
細かく繊細な手仕事に真摯に取り組むことができる東北のママたちと、デザインや企画、広報宣伝力を持つ東京のママたち。お互いのいいところを最大限活かせば、このプロジェクトは上手くいくと思いました。
販売を開始すると、『ヴァンサンカン』や『VERY』などのハイセンスな雑誌に掲載されたり、アナウンサーなど発信力が強い方が気に入って広めてくれたりと、とても好評だったそう。
石巻のママたちも製品に愛着を持ち、兼子さんは「No.1」を、つくり手のママやスタッフたちは“常に高い志をもち、専門分野を深く掘り下げていきたいあなたに”というメッセージを持つ「No.7」を愛用しているといいます。
その後も「石巻×VIRINA」では、黒の単色リボンに鹿モチーフをつけたシックなバージョンやジョイセフ45周年に合わせた赤×青リボンバージョンのIDホルダー、ラビットファーのポンポンがついたグローブホルダーなど、続々と新製品を発表。今年の冬には、ブルックリンの日本人ママが立ち上げたブランドとコラボした製品が仲間入りする予定です。
辛い想いをしているママがいるなら、元気なママが支えよう

今年冬に販売予定の新作
『石巻×VIRINA』の製品をつくるにあたって青木さんが大事にしているのは、“可愛さ”“実用性”“ちょっとした一工夫”。石巻のママたちに充分な工賃を支払おうとすると、どうしても製品の価格は高くなってしまいます。それでも「ほしい!」と思ってもらえるものをつくろうと考えたそうです。
青木さん:「可哀想だから買ってあげよう」ではなくて、「ほしいから買ったら、石巻のママたちの支援につながっていた」が理想だな、と。私たちもお客様もボランティアでは続けられないし、負のサイクルに陥ってしまいます。ちゃんと魅力のある製品をつくって、つくり手も楽しい、私たちも楽しい、買ってくれた人も楽しい、というふうに、関わった人みんながハッピーになる製品にしようと考えました。
実際に、このプロジェクトを通して嬉しい交流がたくさん生まれました。ブログには製品を買った人からの「とっても可愛くて気に入りました」と喜ぶ声が寄せられ、つくり手のママたちもそれを見て自信をつけたそう。青木さんが妊娠したときはつくり手のママたちからお祝いの寄せ書きが届き、つくり手のママが出産したときは東京のヴィリーナのオフィスが祝福ムードでいっぱいになったといいます。
青木さん:そのママが、納期に間に合わせるために出産前日まで産院でリボンをつくっていたと聞いて「このプロジェクトを大事に思ってくれているんだ」と感動しました。
アクションを起こすと嬉しい出来事や予想していなかった広がりがどんどん出てくるんですよね。ヴィリーナにとっての金銭的な利益は微々たるものですが、それ以上の価値を感じています。兼子さんに、「あのときよく来てくださいました」と言いたい気持ちです。
震災から3年半が過ぎ、活動を終了する団体も増えてきました。しかし、ヴィリーナでは今後も活動を継続していく予定です。
青木さん:辛い想いをしているママがいるなら、元気なママが支えよう。東北でも海外でも、そういう想いで活動してきました。まだ仮設住宅に住んでいる人はいるし、新たな課題も出てくるでしょう。だから、関係を保ちながら、その都度その都度「最近、調子はどう?」と聞いていくことが必要なんじゃないかな、と思っています。何より、私にとってもこのプロジェクトはとても楽しくて大事なものなんです。だから、長く続けていきたいなと思います。
2014.8.28