つくり手インタビュー

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『KUMIKI LIVING』は、パーツを気仙郡住田町の『森谷材木店』で、木のねじを陸前高田の障がい者就労支援施設『あすなろホーム』で製作しています。つくり手のみなさんはどんな想いでKUMIKIプロジェクトに関わっているのでしょうか?桑原さんと一緒に、製作現場を訪ねました。

生産地と消費地をつないでほしい

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気仙大工の里と言われる住田町。このまちで長年営業してきた森谷材木店の森谷潤社長は、森林保全につながる国産材の活用に熱い想いを抱いています。

——森谷材木店さんは、いつから営業されているんですか?

森谷さん:祖父が材木屋を戦後すぐに創業。その頃扱っていたのは楢や欅などの広葉樹の原木でした。その後、昭和30年に父が製材所を開業し、昭和52年に現在の会社を設立したんですよ。

——代々、木に関する仕事をしてきたんですね。

森谷さん:そう。ただね、ここ10〜20年の間に、このあたりの材木屋は半分くらいになりましたよ。住宅構造が大幅に変化したもんだから。昔はね、みなさん住宅の木材を建てるときに材木屋に来たもんです。それがいまはプレカットになっちゃったからね。

——そうした中で、森谷材木店さんは残ってきたんですね。

森谷さん:生き残るには、何かやらないと駄目なんです。だからうちは平成10年から、岩手の杉や唐松を使ったフローリング用の羽目板に力を入れてきたんですよ。新しいことに挑戦していかないとね。

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——ほかの家具屋さんや材木店さんは「杉で家具をつくる加工は難しい」と引き受けなかったそうですが、森谷さんはどうしてやってみようと思ったんですか?

森谷さん:そりゃ、いいことだからですよ。このあたりの杉林もね、木が密集してるでしょ。光が当たらなくなって木が駄目になって、土砂災害も起きやすくなるし花粉も飛散量も増えてる。もっと間伐しないといけないんだけど、手が回ってない。

いろんな原因があるけど、そのうちのひとつはプレカットで外材を使うのが主流になって、国産材の需要が激減したから。本当は、国産材を使って伝統的な工法で家を建てて、何十年何百年と住むのが一番環境にいいんです。だから、彼のように国産材を使う試みは応援したくてね。たくさんの人に木の良さに触れてもらって、需要の裾野を広げてもらえたら、と。

それに、うちには腕のいい大工もいてプランターとかもつくってきたから、工夫すればできるんじゃないかと思ったんですよ。

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——それで引き受けることにしたんですね。

森谷さん:そう、それで1年一緒にやってきたの。でもね、いまのままだと市場が小さい。だから、フローリング材もやっていこうと提案しているんですよ。

——フローリング材ですか。

森谷さん:組むだけで床張りができるフローリング材。うちでもともと扱っていた羽目板を、一般の人向けにサイズを変えて売り出そうと話しています。うちでは長さが90cmとか1.8m位のいい材が出るんだけど、プロは短い材を避けるんですよ。手間がかかるから。でも、せっかくいい材なんだから何かに使わないと勿体ないでしょう。それを使ってもらいたい。

現在開発中のDIYフローリング材

現在開発中のDIYフローリング材

——活用しないとですね。

森谷さん:それにね、こういう木の床にするとね、みんな絶対笑顔になるんですよ。「やっぱり木はいいねぇ」って。自分の住む家を、木を使って改造したいという人はけっこういるはずなんですよ。でも自分で貼り変えるのは難しいじゃない。技術もない、まず無垢の木をどこで手に入れたらいいかわからない。業者に頼むと高い。壁があるんですよ。それを少しでも壊したいなと思っているんです。

——桑原さんと同じ問題意識ですね。

森谷さん:うちは山に近いところにあって、製材所も乾燥施設も揃ってる。知識も経験もある。でも、消費者から遠いんですよ。お客様の顔が見えない。だから、東京とこっちを行き来している桑原くんに、消費者まで届けてもらいたいと思っているんです。彼は木や木材のことはまったく知らないままこの業界に飛び込んで、自分で勉強して知識を身につけていったからね。生産者と消費者をつなぐ人になってくれると期待していますよ。

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森谷材木店で働く、大工の大苗仁さん。KUMIKIを商品化するにあたって、桑原さんと一緒に試行錯誤をしてくれました。

——大苗さんは、ずっと大工さんだったんですか?

大苗さん:そう、高校卒業してからだからもう30数年かな。元々こっちの生まれで、東京で大工やってて、4年前に戻ってきてここ(森谷材木店)に入ったの。

桑原さん:それまで森谷材木店さんには大工さんがいなくて、事業の幅を広げようと思って大苗さんに入ってもらったそうですよ。実際、できることがかなり増えたって森谷さんが話していました。

——KUMIKIの仕事は、難しかったですか?

大苗さん:そうだね、パーツを組んだときに隙間開けないようにするのが難しくてね。でも、悩んでるうちに感覚として「こうすればできるかな」というのがわかるんだな。形状を変えてみたり、いろいろ試行錯誤しましたよ。

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桑原さん:僕はマニュアル世代だから、何かうまくいかないことがあるとすぐにスマホで調べちゃうんですよ。でも、大苗さんのように現場にいる人は、目の前の木と設計図を見ながら「こうすればできるんじゃないか」って考えて、必要なら道具も自分でつくっちゃう。答えを探すんじゃなくて、答えをつくりだすという姿勢なんですよね。それがかっこいいなと思いました。

大苗さん:そんな大したもんじゃないけどさ、機械も道具もね、利用させてもらうんだよ。つくりたいものがつくれるように、変えていくの。「1」と「2」のことができるなら、それを工夫して「3」にする。

桑原さん:「こういう規格のものをいつまでにいくつ」みたいなつきあいじゃなくて、「どうすればできるだろう」って一緒に考えてくれたので、僕はすごく助かったんです。大苗さんや森谷さんは大変だったと思うんですけど。ほんとにたくさんのご迷惑をおかけして…そしてこれからもかけつづけるんですが(笑)よろしくお願いします。

大苗さん:いやいや、こちらこそ。よろしくお願いしますよ。

利用者でもつくれるよう、治具から製作

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平成6年に開所し、さまざまな障がいを抱える方30名が利用するあすなろホーム。ここでは、木のねじづくりと、商品の梱包・発送を行っています。指導員の大和田直平さんにお話を伺いました。

——木のねじは、どんな風につくっているんですか?

大和田さん:木の棒に機械で螺旋状の切り込みを入れ、治具で指定のサイズにカットし、マイナスドライバーを回すための凹みを焼き印で入れる。これで完成です。

こちらがその木のねじ

こちらがその木のねじ

——けっこう複雑ですよね?

大和田さん:正直、最初お話をいただいたときは、うちでつくるのは難しいんじゃないかと思いました。道具や機械を使うこと、正確に同じものをつくることに慣れていない利用者が多いので。でも、それを正直にお伝えしたところ、湊さんがいろんな提案をしてくれたんです。

——どんな提案ですか?

大和田さん:まずは、螺旋状に切り込みを入れる機械があることを教えてくれたので、それを利用することにしました。棒を押さえて3回転させるだけで、綺麗にねじの切り込みが入るんです。

それと、同じ規格に揃えるための治具も湊さんがつくってくれました。棒を刺してのこぎりで切るだけで同じサイズに仕上がるので、これなら大丈夫、と。

こうして回すだけで切り込みが入ります

こうして回すだけで切り込みが入ります

同じ規格のねじをつくるための治具

同じ規格のねじをつくるための治具

——実際やってみて、利用者さんはちゃんとつくることができましたか?

大和田さん:はい。切り込みを入れる作業はちょっと力が必要なので人を選びますが、のこぎりのほうはみんなすぐにできるようになって。一度、親御さんたちに体験会を開いたんですが、「こんな風に工夫してくれてるんだね」と感心していました。

——梱包や発送作業のほうはいかがですか?

大和田さん:こちらはけっこう難しいんですよ。木なので、ちょっとぶつけるとキズがついてしまうから、慎重にやらないといけない。けっこう気を使うので、疲れるみたいです。だんだん慣れてきているので、今後に期待ですね。

——読者に伝えたいことはありますか?

大和田さん:木のねじを担当している利用者さんはこの仕事を「没頭できて楽しい」ととても気に入っています。「仕事がある限りやりたい」と、休まずに来てくれているんですよ。一つひとつ真心をこめてつくらせてもらっていますので、これからもよろしくお願いします。

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2014.8.19