物語後編

短期間で次々と製品を開発

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最初に販売したのは、フラダンスで用いるパウスカートと、練習時に着るTシャツです。宣伝に力を入れたこともあり、まずまずの滑り出しをきることができました。

その後も、ハワイ風デコペン、シュシュ、iPhoneケース、バッグなど、精力的に製品を開発。フラダンサーだけではなく、ハワイの柄が好きな人にも喜ばれています。

坂井さん:販売を始めて、いろいろなことがわかってきました。自分の周りで流行っている柄なのでたくさん仕入れたけど、あまり売れなかったり。自分のセンスだけで生地を選んでいたらダメだな、と思いました。

また、iPhoneケースは、寄付していただいた生地のはぎれを使った一点モノです。一点一点全てプロのカメラマンに撮影してもらうと赤字になってしまうので私が撮影しているのですが、そんなに上手くないので…。写真が良ければもっと売れるのに、と歯がゆくて。どんなに細部に凝っていても、それが伝わらなければ意味がないんだと学びました。

そういった壁にぶつかりながらも、坂井さんは歩みを止めることがありません。2014年5月には、女川のウエットスーツ工房「RIVERSON ENTERPRISE」とのコラボ製品を発表しました。ハワイミツスイのイラストが描かれたペットボトルホルダーで、サーフィンスーツと同じ生地を使っているため防水性・保温性に優れています。

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坂井さん:既存の製品も、柄や形にハワイのテイストを取り入れていただければキラ・ウエアの製品として売り出すことができます。一口にハワイといっても、プルメリアの花、椰子の木、パンの実、楽器、海草、ウミガメと、さまざまなモチーフがあるんですよ。可能性はたくさんあるので、今後もこうしたほかの東北ブランドとのコラボレーションを進めていきたいです。

また、フラ衣装のオーダーメイドも積極的に引き受けたいそう。先日はとある企業のフラチームから依頼があり、22人分の衣装を製作したといいます。

坂井さん:復興支援に積極的な企業で、「せっかく衣装をつくるなら」とうちに頼んでくださいました。そういった方々に支えられていますね。そのフラチームの皆様が全員で衣装を着た写真を送ってくださって、感激しました。

目標は、東北の縫製業が復興すること

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異業種からものづくりの世界に飛び込み、一年半の間に数多くの製品を生み出してきた坂井さん。ひとつの地域と関わるだけでも大変なのに、岩手・宮城・福島の3県で同時に取り組んでいるのですから、その情熱とバイタリティには驚かされます。しかし、その裏には苦労もたくさんあったのではないでしょうか。

坂井さん:実際にやってみて感じたのは、儲からないということですね。全く儲からない(笑)。人件費や材料費以外にも、運搬費や撮影費など、いろいろなところでお金がかかります。それに、不良品が出てしまうことを考えていなかったんです。元々、自分が儲けようとは思っていなかったし、かなりぎりぎりの価格設定をしていました。そうすると、ひとつふたつ不良品が出ただけで、下手すると赤字になってしまうんですよね。これが痛かった。

じゃあ価格を上げればいいじゃない、と思うかもしれませんが、そうすると海外の安価な製品の倍以上の価格になってしまいます。かと言って、つくり手さんに払う工賃を下げることは絶対にしたくありません。それが難しいところですね。

「仕事を回してあげる」と言われたものの、その内容は大変な割に工賃が安い仕事だったーー。東北には、震災後にそういう苦い経験をした人がたくさんいるそうです。「一歩間違えると自分もそうなりかねない」と、坂井さんは気を引き締めます。

坂井さん:安いほうに流されがちなんですよね。安価な製品が市場に登場すると、消費者はそっちを選ぶ。そうすると、生産者も工賃を下げて対抗しようとする。でも、それでみんながハッピーになれるかというと疑問です。買った瞬間、その人は「お得な買い物をした」と満足するかもしれないけど、生産者が立ち行かなくなって工場が倒産したら日本経済が打撃を受けるし、回り回って自分のところにかえってきます。

生産者も、苦しいからといって安い仕事を引き受けると、業界全体に悪影響を及ぼしてしまう。「自分のところが競争に勝てばいい」というのではなくて、全体のことを意識しながら行動しないといけないな、と思います。

坂井さんが活動をはじめて実感したのは、東北の人たちの芯の強さと我慢強さ。いまだに復旧していない路線や通れない道路、原発事故の影響によるさまざまな被害。日々の暮らしでストレスを感じるだろうことは想像に難くありません。シングルマザーの人、親の介護をしている人、病気と闘いながら働いている人もいます。それでも「ものづくり」をやめられないし、やらなきゃいけない。そんな姿を見て、「東北のものづくりを応援したい」という気持ちは更に強くなったといいます。

坂井さん:キラ・ウエアは、東北の縫製を広く知ってもらうための入り口だと捉えています。ウェディングドレスでも浴衣でも、ご依頼があれば何でも縫います。そこからB to Bの取引につながって、被災地に安定した仕事を回せたら、と考えています。

実際にいま、企業との大きな案件が動いているそう。坂井さんはその生産体制を整えるため奔走しています。つくり手のみなさんは、「継続的な受注があれば、仲間を縫製業に呼び戻せる」と期待を寄せているといいます。

坂井さん:目標は、高い技術を持った人たちがちゃんとそれに見合った対価をもらい、仕事が回っていく状態をつくること。そして、東北の縫製産業が再び盛んになること。それが達成できるなら、うちのブランドや法人はどんな形に変えてもいいんです。そのときそのとき必要なことをして、関わっていきたいと思っています

2014.6.30