物語前編

原発事故後、福島の多くの女子たちはさまざまな局面で傷つき、悩んできました。福島で『女子の暮らしの研究所』を立ち上げた日塔マキさんは、自信を失ってしまった女子たちを見て「みんなが誇りに思えるものをつくりたい」と考えるように。それが、『Fukushima Pieceプロジェクト』のはじまりでした。

女子の可愛さや共感力に期待した

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日塔さんは、物腰が柔らかく可愛らしい雰囲気の女性です。福島県郡山市で生まれ育ち、イベント制作会社に勤めていました。忙しくも充実した日々を送っていましたが、震災によって仕事は激減。静岡県浜松市にある取引先の会社から「仕事を手伝ってほしい」と請われ、「短期間なら」と行くことにしました。

日塔さん:気持ち的に、すぐに福島を離れて移住しようとは思えなかったんです。結局、浜松には2ヶ月いたかな。6月頃から郡山にも仕事が戻ってきて、大きな案件を任されたのでしばらくは郡山で忙しく働いてました。でも、その間に仲良くしていたお母さんたちがどんどん避難していって。「私ここで子育てできるかな、しばらく離れてみようかな」と思って、千葉に移住しました。

しかし、日塔さんはそこで大きな違和感を覚えます。「原発が危険かどうか」ということは話題に上がっても、福島で暮らしている人、離れていった人の気持ちの部分はなかなかは語られない。あんなに大きな出来事があって、たくさんの人が苦しい想いをしているのに…。「福島のことを知ってほしい」「一人ひとりが自分の暮らしを見直すための活動がしたい」と思った日塔さんは、わずか半年で福島に戻って『女子の暮らしの研究所』を立ち上げました。

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日塔さん:女子にフォーカスしたのは…やっぱり、女子は可愛いから♡それに、女子って共感力が強いじゃないですか。気持ちをわかって、広めてくれる。その力に期待しました。

原発に反対する人たちの中には、国や東京電力を罵り、原発推進派の人を貶める発言を公然と行う人もいます。原発事故以降、福島で生まれたさまざまな苦悩や分断を目の当たりにしてきた日塔さんは、「その気持ちもわかるし、原発なんてないほうがいいに決まってる」と思っています。

でも、声高に主張するだけでは、世の中は変わりません。関心がない人や意見が違う人に想いを伝えるには、相手が聞きたくなるような何かが必要です。その「何か」として日塔さんが期待したのが、可愛さや共感力といった女子の力でした。

福島の魅力を形にして、自信を取り戻す

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「暮らし」をテーマに研究員が意見交換をする『LABOLABO♡ラジオ』、研究員がアテンドをする福島ツアー『Re:trip』。『女子の暮らしの研究所』の活動内容は多岐に渡ります。

そのうちのひとつが、『Fukushima Pieceプロジェクト』。福島の伝統素材に女子のセンスをプラスして、新たな製品を開発するプロジェクトです。

日塔さん:原発事故の後、福島の女子たちはいっぱい否定されてきたんです。避難してもしなくても、誰かから責められて。差別されるかもしれない、という不安もありましたよね。ずっと福島にいて、外に出たときに「なんで避難しなかったの?」って怒られて、いままでの暮らしを全部否定された気持ちになっちゃった子とか。そうやって、自分のことも自分が育った土地のことも、自信を持てなくなっちゃった子もいました。

でも、福島には素敵なところもたくさんあります。そういうのをいっこいっこ認めていきたいって思いました。それが福島の女子たちのアイデンティティにもなるから。それには、福島の素材を使って可愛いものをつくったらいいかな、って。

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最初に選んだのは、福島県西部に伝わる伝統工芸品の会津木綿。厚地で丈夫、素朴な縞模様が特徴の良い素材ですが、展開されている製品は中高年向けのものが多く、若い人が持つようなものはあまりありませんでした。

日塔さん:実際に見てみると、可愛い柄がたくさんあるんですよ。「これは可愛くできるはず♪」ってテンションがあがりました。研究員の女子たち数人で、「ポップでキラキラしたものがいいね〜♡」ってわいわい話し合って。「福島の声に耳を傾けてほしい」という気持ちもあって、耳につけるピアスに落ち着きました。

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こちらがその製品、『ふくいろピアス』です。会津木綿の温かみと、樹脂の透明感が合わさり、おはじきのような可愛らしさ。丸・三角・四角の形には、「いろんな意見があるけど、そお互いを否定せず認めていこう」という想いを込めました。

色は8種類。「たいようのいろ」「そらのいろ」「うみのいろ」「たべもののいろ」「やまのいろ」「はなのいろ」「どうぶつのいろ」「ひとのいろ」と、身近な暮らしに関する色を集めました。そのひとつひとつに対して、福島の女子が自分の想いを綴っています。

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—線量が高いと言われている山で、きれいに色づいた落ち葉を見て、悲しくて泣いた。(やまのいろ)
—みんな笑顔が戻りますようにと全国からたくさんのひまわりの種が届けられた。うれしかった。(はなのいろ)
—除染した公園で遊んだ。子どもも大人もみんな楽しそうだった。これまでどれだけ太陽に元気をもらっていたか気がついた。(たいようのいろ)

福島の女子たちが大きな葛藤や悲しみを抱えていること、それでもひたむきに暮らしていることがストレートに伝わってきて、胸を打たれます。

日塔さん:ポジティブな側面だけを押し出す活動ってけっこうあるけど、私はそれに違和感があって。悲しいことはもちろんあるし、でもそれだけじゃない。その両方を、そのまま伝えたいって思いました。

イベント等に出店すると、たくさんの人が「可愛い!」と手にとってくれるそう。「福島で暮らす人の想いに初めて触れました」「今まで関係ないと思っていたけど、自分と同じくらいの女子たちの言葉に、他人事じゃないって思いました」——そうした感想を伝えてくれる人も多く、日塔さんはそのことがとても嬉しいのだといいます。

2014.6.19