物語後編

自然と共に生きて来た人の、豊かな知恵

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織り織りのうたの商品は、2011年11月に販売を開始しました。最初に製作したのは、三陸の自然をイメージして色を重ねたヨーガマットです。青系の布を中心に織った「海」、緑系の布で紡いだ「山」、ランダムに色を散らした「虹」。後に、白い布を集めた「雪」が加わりました。そのときある在庫の布の色が反映されるので、ひとつとして同じ色柄のものはありません。

早野さん:同じ「山」でも、「にぎわいの山」「木の芽時の山」「実りの山」と、ひとつひとつ違うんです。「海」も、「静かな夜の海」があったり、「明け方の光が差し込んだ海」があったり。波で光が揺らめいて、向こうにいくほど幅が狭くなるのを表現していたりするんですよ。絵画のようでしょう?久米子さんが楽しみながら工夫してつくってくれていて、その表現力の豊かさに私たちも驚いてしまうほど。仕上がりまでの心のストーリーを想像すると、売りたくないなって思っちゃう(笑)

最初は被災地に届く物資の中から余った衣類を活用していましたが、数が足りなくなり独自に古着を募集するように。全国の人からの寄付により、このプロジェクトは成り立っています。

早野さん:応援してくださるある企業様から白いTシャツやポロシャツがたくさん届くので「雪」マットが誕生したんですが、それでもまだ余るので、白い布で織ったマットを草木染めしたシリーズもつくりはじめました。

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それが、2013年夏に登場した「色葉うた」シリーズです。茜、雪柳、桑、黄蘗(きはだ)、柿、山椒、桜…岩泉の四季折々の植物で、美しく染め上げています。

草木染めといっても、最近では草木染めの染料を使った製品が主流になりつつあります。でも、早野さん夫婦は山に入る人から染めに使える草木をもらい、鉈で細かく刻んで釜で湧かして…と、手間と時間をかけ、本来の草木染めに挑戦しています。

先生は、ご主人の叔母でもある、岩泉町で25年間以上草木染めを営む「スピンクラフト岩泉」の工藤厚子さん。早野さんは工藤さんの工房を訪れ、自然の草木が産みだす色の鮮やかさや奥深さに心が揺さぶられたのだといいます。

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早野さん:染めをしながら、工藤おばあちゃまが何気なくもらす話に、いつも驚いています。たとえば、昔は漁師網も、普通の糸で編んでハマナスで染めていたそうですよ。染めることで丈夫になるみたい。昔の人の知恵ですよね。

虫を寄せ付けない黄蘗は、魔除けの効果があるとして産着に使われていたのね。どこかの家で赤ちゃんが産まれるというと、近所の人がみんなで産着を縫って、それを黄蘗で通すことで赤ちゃんを守っていたんだって。

茜はそのへんにたくさん生えている植物だけど、染めるには何キロも必要だから、限られた枚数しか染められないの。来年の分を残さなくちゃいけないから。大量生産には向かないね。

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自然と一緒に暮らしてきた人の話は瑞々しくて太い芯があり、早野さんは「勉強しに行っているようなものですね」と微笑みます。

ほんとうのことが、ここにはありありとある

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織ることは、生きることと同じ。縦糸に対して、いくつもの出会いや出来事、想いがうたのように重なり、ひとつの作品が織り上がっていく。『織り織りのうた』という名前は、早野さんのそんな考えからつけられました。このプロジェクト自体も、そんな風にたくさんの人の想いが積み重なって、美しいうたを紡いでいるかのようです。

早野さん:いまはもう、「プロジェクトを継続しています」とか、「サポートしています」とか、おこがましくって言えません。「一緒に勉強させていただいています」「もし続けてくれるなら、サポートさせてください」という感じです。

元々、「いつかは主人の地元に引っ越すんだろうな」と考えていたという早野さんですが、織り織りのうたを通して少しずつ岩手の土地と親しくなり、想像していたよりも早く移住することになりました。

早野さん:スピードと情報の中で生きている東京からこちらへ来て、ほんとうに生きるということと向き合わされました。偽物は淘汰されていくというか。現実というものがありありとあるな、すばらしいな、と思いました。

そういうことに気づかずに生きてきた私に、「経験しなさいよ」って機会を与えられたんだな、という気がしています。

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不自然なものはやがて消えていく。だから、違和感を感じたときは方向を修正して、みんなが無理のないところを探しながら、自然の流れに乗るように動くこと。そうすることで、物事は続いていける。早野さんにとって、そんなことを感じた3年間だったといいます。

早野さん:それは、プロジェクトに限ったことじゃありません。ここ数年、気候が変化して災害が次から次へと起こり、世の中を目にみえない不安が覆っていますよね。自然と人、ものと人の関係性を考えるときが来ているんだなと感じています。

日本の四季の豊かさ、土や水から産まれるもののすばらしさ。手仕事に宿るぬくもり。自然を慈しみ敬う気持ちが込められた織り織りのうたヨーガマットは、それらをもの言わず語りかけてくるようです。

2014.5.8